第12話 昼食
昼休みのチャイムが鳴ると同時に、俺は購買へ向かった。
デリバーイーツでバイトをしていたため、資金には余裕がある。
そのため、今日は奮発して、焼きそばパンを二つ食べることにしたのだ。
席に戻ると、本日の戦利品に口をつける。
「んま」
ソースの甘辛い味わいと、もちもちとしたパンの食感が口の中で混ざり合う。異世界にいた頃は硬い黒パンと干し肉ばかりだったせいか、日本に戻ってからはどんな食べ物もおいしく感じてしまう。
とくに味の濃いもの。異世界ではジャンクフードを食べられなかっただけに、味の濃いものを食べると、日本に帰ってきたんだなぁ、という気分になってしまう。
そういえば、聖剣に宿ってマンガやらアニメを見まくって日本で充実した生活をしている
「……………………」
『なんだ、突然。人を憐れむような顔をしおって……』
……ジャンクフードサイコー!
と、二つ目の焼きそばパンに口をつけようとしたところで、九鳳雪凪の姿が目に入った。
「あれ、九鳳さんは弁当なんだ」
「ああ、家計が苦しいから、自炊をしているんだ」
さらりと重いことを言う九鳳さん。こう見えて、実は苦学生なのだろうか。
「
「最近、デリバーイーツでバイトを始めたんだ。けっこういい小遣い稼ぎになるよ」
実際、配達の件数をこなせばこなすほど稼げる上、勇者の身体能力を活かせる、貴重な仕事だ。好きな時間に働けるというのも地味に助かる。
「……うん? デリバーイーツ……? どこかで聞いたことがあるような……」
何を思ったのか、九鳳雪凪が俺のことをじろじろと観察する。
「……まさかな」
勝手に納得して、九鳳雪凪が食事に戻る。
……何だったんだろう。
昼食が終わると、スマホで妖刀について検索をかける。
次々と流れる情報をスクロールすると、左手の紋章の中でディアスが感嘆の声を上げた。
『ほう、一瞬でこれだけの量の情報を……! やはり面白いな、このスマホとやらは……!』
(お前も妖刀について探せよ? さんざんアニメ見せてやったんだからな)
『わかっておる。魔族随一の知性を持つ余にかかればこれくらい……。……ほう、新たに剣を擬人化させたアニメが始まるのか……』
……真面目に探す気があるのか、こいつは。
とはいえ、
日本に戻ってからというもの、凄まじい速度でこの世界について学習し、適応してる。
手始めの俺の部屋の本をすべて丸暗記し、俺が寝ている間に勝手にパソコンを操作しては、複数のアニメを同時に視聴し、さらにはスマホでWikipediaを読み漁っていた。
そのくせ、最近ではスマホとPCの二刀流では足りないからと、新たに俺に無断でスマホの契約までやろうとする始末だ。
流石は魔王。人類の敵といったところか。
「っ!!! それっ!」
突然、隣の席から九鳳さんの声が飛んできた。思わずスマホを落としそうになる。
なんだ、いったい。
「柊くんも日本刀に興味があるのか!?」
「柊くんもって……九鳳さんも?」
九鳳雪凪が勢いよく頷く。
「ああ! 嬉しいなあ。まさか潜入先の学校で刀の話ができるなんて!」
「……潜入?」
「あっ。いや、ちがうんだ! いまのはつい口が滑って、本当のことを言ってしまっただけで……」
どんどん墓穴を掘る九鳳さん。
見ているこっちが申し訳ない気分になってくる。
「そ、そうだ! 実は日本刀の展覧会があるんだ」
九鳳さんは慌てたようにスマホを取り出すと、画面を俺に向けてきた。
そこには、豪華な装飾が施された日本刀の写真と、イベント情報が表示されていた。
「『ダグラス・ゴルフォード 日本刀名品展』……今週末から開催されるんだ。なんでも、今回の展覧会では、ダグラス氏が三十年かけて集めた日本刀が一堂に展示されるらしい。しかも、普段は門外不出の個人コレクションまで公開されるとか……!」
(ディアス……これって……)
『ああ……』
心の中でディアスと言葉を交わす。
妖刀についてネットで調べても、出てくるのは伝承や逸話ばかりで、実際に力を持つ刀についての具体的な情報は皆無だった。
おそらく、霧咲が持っていたような本物の妖刀にまつわる情報は、一般には出回っていないのだろう。
だが、三十年もかけて日本刀を蒐集してきたような熱心なコレクターなら、本物の妖刀について何か知っているかもしれない。
「今度の日曜空いてるんだが……どうかな」
「わかった。行こう」
「! 本当か!」
パァっと九鳳さんに花が咲く。
「それじゃあ詳しい場所とか、後で連絡するから! あ、連絡先……」
「ちょっと待って」
スマホを取り出すと、俺の連絡先の記されたのQRコードを表示する。
『ほう、これがQRコードというものか。こんなもので連絡先がわかるとは……信じられんな……』
(それは同感)
心の中でディアスに返答しつつ、俺は九鳳さんのアカウントを登録した。アイコンは日本刀の写真だった。筋金入りである。
「じゃあ、日曜日楽しみにしてるから!」
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