紺碧の瞳が見つめる先
御厨屋りんどう
第1話
住宅街の外れには怪しげな洋館があると噂されている。
実際に存在するのは
塀の上に設置された所々倒れた有刺鉄線の
ふさふさのしっぽを揺らしながら青より濃い
ひょいっと登った門柱には表札らしきものも存在せず、この中に果たして噂の洋館が存在するのか?もしかしたらこの白猫のみが知っているのかもしれない。
門柱の上から敷地の中に飛び降りた白猫は、勝手知ったる我が家の様に堂々とした足取りで雑木林の中へと消えて行った。
5メートルほど進んだ先で一気に視界が開ける。噴水や小川が流れ季節の花々が咲き誇る庭園が広がる。その奥に古い洋館が建っていた。この距離なら門の外からでも見えるはずだが外から見える景色は雑木林でしかない。
まるで別世界へ迷い込んだような到底理解しがたい現象に、なんの迷いもなく白猫は目的の場所へ向かう。
猫が辿り着いた場所は洋館にくっつく形で建てられた日当たりのいいウッドデッキで、そこにも鉢植えの花が色とりどりに咲いている。つる性の黄色いバラが絡まるパーゴラに吊るされた木製の白いブランコにはクッションとひざ掛けが置いてある。
猫はそこに飛び乗ると慣れた様子で前足を使い、ひざ掛けを整え自分専用の寝床を整えコロンと寝転がった。
小川を流れる水音と噴水から滴る水音が心地よいハーモニーを奏で、鉢植えの黄色いジャスミンの香りに包まれて猫はゆっくり紺碧の瞳を閉じた。
ゆったりとした時間が流れる美しい庭園は、まるで猫の為に存在するかのように穏やかな空間を作り出していた。
どれぐらいの時間が経っただろうか。ウッドデッキの奥の開け放たれたガラス戸から一人の男が現れた。
ウェーブの掛る薄茶の髪を左耳の下で緩く束ね、長いまつげに縁どられた瞳がブランコで眠る猫を見つけ笑みの形に変わる。黒のタンクトップの上に雰囲気と似た柔らかなシフォンのシャツを羽織り、白い細身のパンツを履いた長い足は迷うことなく猫へと近づいた。
「ちいちゃん、ココア飲む?」
優しく首のあたりを撫でながら猫に話掛ける。
「ニャア」
紺碧の瞳で男を見上げ甘えた声で鳴いた。
猫の返事をどう捉えたのか、男はスッと立ち上がり部屋の中へ消えて行った。
「ん~…」
男が消えてからブランコで大きく伸びをしたのは、白猫と同じ紺碧の瞳をした小柄な少年だった。
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