第37話 塩釜焼き


「……ふむ、加減がなかなか難しいな。これくらいの時間がちょうどいいくらいか」


 テントの設営を終え、焚き火台の上で料理を作っている。


 生物がいないということもあって、いつもより安全に外で料理ができるのはありがたい。


 ただ、この塩釜焼きという料理はなかなか塩加減が難しい。


「よし、これで再挑戦だ」


 塩を持ち出すことは禁止されているが、現地で少し使用する分にかんしては制限されていない。


 地面にいくらでもある塩を削り取り、新鮮な卵の卵白を泡立ててメレンゲ状態にしたものと混ぜて、それで魚などの食材を包み込んで焼き上げる日本の伝統的な調理方法である。


 塩釜が食材の水分や旨味を閉じ込めてしっとりとした食感と濃厚な風味を引き出し、塩分が適度に食材に染み込み、ほのかな塩味が加わって外側の塩釜が熱を均等に伝えて焼きムラを防ぐという理にかなった調理方法だ。


 ただ、卵白にどれくらいの塩を入れるかと、どれくらい蒸し焼きにするかで塩加減がまったく異なってくる。初めは小さめの魚で試してみたが、あまりにもしょっぱかったので、今度は葉物の野菜や海藻などで魚を包んだところ、程よい塩加減となってうまくいった。


「……うん、これならいける。本格的にいろいろと試してみるか!」


 もちろん食材の種類や大きさによっても塩加減は変わる。他の物も試してみよう。




「さて、こんなものだろう。それじゃあ久しぶりに女神と食べるか」


 こうして苦労していろいろと作った時には誰か一緒に食べてくれる人がいるのはありがたいことだ。特にこのミロネス塩湖は広大な自然の中に俺ひとりなので、さすがに孤独感がヤバい。いつも以上に独り言が多い気もする。


 完成した料理をテーブルに載せ、両手を合わせた。


 いつものように真っ白な空間へと移動し、目の前には先ほど作ったばかりの料理が並んでいる。


「数日ぶりじゃな、ガクト。1週間もせずに妾を呼ぶのは良い心掛けじゃが、もっと頻繁に呼んでも良いのじゃぞ」


「……そうだな。もしかしたら明日もご馳走するかもしれないぞ」


 いつもなら少しうざいくらいの女神だが、今は話し相手のいること自体がありがたい。ここ1週間近く大勢と行動をしていたから、今日の孤独感は思ったよりも堪えたようだ。


「むっ、今日の料理は全部真っ白なのじゃ。前のタコスとやらはおいしかったが、今回は外れかのう……」


「そう慌てるなよ。この料理はまだ完成じゃないからな」


 女神にそう言いつつ、ナイフとフォークで塩釜焼きの塩の部分を取り除いていく。


「おおっ、茶色く焦げたものの中にいろんな食材が入っているのじゃ!」


 焼けた塩釜焼きの表面は薄らと焦げ目が付いて茶色くなっているが、その中には野菜や海藻に包まれた魚や肉が現れた。


「これは塩釜焼きという俺の故郷の調理方法だ。今はミロネス塩湖という塩湖にいてな、せっかくだから周囲にある塩を使って作ってみたぞ。切り分けるからちょっとだけ待っていてくれ」


 塩釜焼きはこの見た目も大事だからな。塩の塊の中からいきなりおいしそうな食材が飛び出してくれるので、お祝いの席の料理なんかにも選ばれる。女神もしっかりと驚いてくれたようだ。


「こっちの魚はセレタイラで、こっちの肉はワイルドディアの肉を使ってみたぞ」


「これはおいしそうなのじゃ!」


 中から出てきた魚と肉を食べやすいように切り分ける。今回ソースはなしだ。ミロネス塩湖の塩と中に入れた香草の味で楽しんでもらうとしよう。


「おおっ! これはシンプルじゃが奥深い味わいじゃな! こいつはうまいぞ!」


 まずはセレタイラの塩釜焼きを口に運ぶと、鼻をくすぐるのはほのかに香る塩と魚の旨みが織りなす芳醇な香りだ。箸で身をほぐすと、しっとりと柔らかな白身が現れ、一口噛めば魚の甘みと塩のキリッとした塩気が絶妙に調和し、舌の上でじんわりと溶け合う。


 塩釜で蒸し焼きにされたことで凝縮された旨みが、噛むほどにジュワッと広がり、ほのかな香草の風味が後味を爽やかに締める。女神の言う通り、シンプルな味なのに奥深く、普通に焼いた味とは異なる豊かな味だ。


「ロースト風にしたワイルドディアの塩釜焼きもいけるな。塩加減も良い感じだ」


 ワイルドディアの方は普通のローストビーフを作る時と同じように表面を焼いて焦げ目を付け、その後は魚と同じように香草と海藻で包み、塩と卵白を混ぜたもので包んで蒸し焼きにした。


 完成した肉を切ると、中はほんの少しだけ赤い部分が残るちょうどいい焼き具合だった。こちらも何度か焼き具合を試してみたこともあって、塩加減もばっちりだった。


「うむ、どちらもおいしいのう!」


「ああ。初めて作った料理だったがうまくいったな。さて、この塩気の強い魚と肉にはエールもいいし、ワインも捨てがたいところだな」


「おおっ、どちらももらうのじゃ!」


「………………」


 相変わらず仕事中だというのに女神のやつは相変わらずだな。


 まあ確かにこの魚や肉には酒がほしいという気持ちもわからなくはない。俺も両方飲むとしよう。

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