第31話 ブラウンウルフ
ビービー。
「グルルル!」
腕輪の警告音が鳴り響くとともにテントから出ると、そこには茶色いオオカミ型の魔物がいた。
ザンッ。
「キャン……」
瞬間転移スキルを発動させようと身構えたが、そのオオカミは俺の目の前で真っ二つになった。
「ガクトさん、馬車の横の方まで移動してくれ!」
「あ、ああ!」
腕輪の音を止め、大きな斧を持った護衛の人はオオカミの真っ赤な返り血を浴びながら、馬車の方を指差す。
俺はその指示に従って、馬車の方へと移動した。元々馬車と夜の見張りをしていた護衛の人に挟まれる形でテントを立てていたので、すぐに馬車の横にまで辿り着いた。
「大丈夫ですか!」
「ええ、おかげで怪我はなかったです」
すでに御者さんはこちらに馬と一緒に避難をしていた。こっちも怪我はないみたいだ。
「俺たちも加勢するぜ!」
「すまない、数が多いから助かる!」
「おう!」
冒険者の3人組も加勢してくれている。
改めて周囲を見て見ると、先ほどと同じ茶色いオオカミが10匹近くいた。護衛の人も1対1なら問題なく倒せそうな相手だったが、さすがに数が多いようで冒険者たちに助力を求めた。
「誰かが負傷したり、危ないと思ったらこっちに集まってくれ!」
「おう!」
「せいっ!」
「おらあ!」
瞬間転移スキルのことは他の者には伝えていないが、緊急用の魔道具を持っていると伝えてある。いざとなったら迷わずみんなでここから離脱するつもりだ。
そしてそれとは別に煙幕と目つぶし用の魔導具をバックパックから取り出す。俺に戦闘能力はないが、逃げるための道具は用意してある。
「……ふう~なんとかなったみたいだな」
「ああ、俺一人では他の者が負傷していたかもしれない。助太刀感謝する」
「いいってことよ」
「ええ、困った時はお互い様よ」
オオカミの群れはしばらく戦ったあと、数体やられたのを見て引いていった。数では勝っていたが、こちらの戦力が思ったよりも強くて諦めたのだろう。
とりあえず危機は去ったようだ。護衛の人も冒険者の3人組もかすり傷くらいでほっとした。
最悪の場合は俺の瞬間転移スキルを使って逃げることはできたが、その場合馬車と馬は持っていくことができなかった。この数日間俺たちを運んできてくれた馬だし、見捨てることがなくてよかったな。
「皆さん、本当にありがとうございました。まさかあれほどの数の群れに襲われるとは……」
「ついていなかった。だが、あんたたちがいてくれたのは運がよかったよ」
護衛の人も結構な強さだったけれど、いかんせん敵の数が多かったから、ヴァルドたちがいてくれて運が良かった。異世界の旅路はこういったことも稀にあるんだよな。
オオカミの血で他の魔物が集まってくる可能性があるため、すぐにテントを撤収をし、牙などの必要な素材を回収して早々にこの場を出発した。
「街まで到着したら、ぜひともお礼をさせてください」
「大した怪我もしてないし、気にしなくていいぜ」
「ああ、みんな怪我無くて良かったぜ」
前にいる御者さんがそう言うと、それを断る3人組。
こういう状況なら対価をもらう資格が十分にあるというのに、謙虚な冒険者たちだ。
「それじゃあ街に着いたら飯と酒くらいは奢らせてくれ。俺もみんなのおかげで助かったよ」
「いやいや! ガクトさんのおかげでうまい飯が食べられたからな。礼を言うのはこっちのほうだぜ!」
「そうよ、本当に気にしないでいいわよ」
「いや、飯についてはしっかりと対価をもらっているからな。助けてもらった分の対価はしっかりと渡すのが俺の主義だ。飯と酒だけで申し訳ないが遠慮なく奢られてくれ」
「ええ、ぜひお礼を受け取ってください」
俺に続いて御者さんもそう伝える。危険のある異世界だからこそ、こういった善意にはきちんと報いなければならないと思う。
「わかった、それじゃあ今晩の飯だけご馳走になるよ」
「ありがたくご馳走になるわ」
俺と御者さんが強く言ったこともあり、食事は奢られてくれることになった。
「大変長らくお待たせいたしました。ミロネスの街が見えてきましたよ」
前から御者さんの声がして外を見てみると、街の壁が見えてきた。
最後にいろいろあったけれど、誰も大きな怪我をすることがなく無事に到着してなによりだ。
街の入り口でチェックを受け、今朝にオオカミ型の魔物の群れに襲われたことを報告し、全員が街に入ることができた。とりあえずそれぞれやる事があったので、夜に店で集まる約束をして一度解散をする。
いつもならすぐに市場を回りたいところだが、さすがに今日は長旅の疲れや早朝の出来事もあったので、宿でお湯をもらって身体を拭いてからベッドへ倒れ込んでぐっすりと休んだ。
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