第16話 飲み会
「「乾杯!」」
カコンッという音と共に木製のコップをぶつけあう。
「ぷはあ~うまい! 相変わらずこの店の酒はうまいな」
「ああ。ブドウ酒もエールも他の店のものとは一味違う。この店を教えてくれたニッグには感謝しているぞ」
この店はニッグに教えてもらった店だ。
ブドウ酒、前世でいうところのワインは深いルビー色をしており、ふわりと芳醇な香りが鼻をくすぐる。熟した果実とほのかな樽香が混じり合い、それだけで酔いそうになるほどの豊かさだ。
ひと口含むと、濃密な果実の甘みと、心地よい酸味が舌の上に広がる。すぐに訪れる渋みが味わいに深みを与え、喉を通るたびに余韻が長く続く。
前世のワインは品種改良されてワインに適したブドウを原料に使っていたからこそあれほどの味が出せるのだが、この店のブドウ酒はそれに負けないくらい上品な味である。前世のワインは安くてもそれなりの味がするのだが、こっちの異世界だと安酒は雑味が酷いからな。
「気にするな。ガクトの旅の話を聞くのは楽しいからな。俺は王都からほとんど出られないから、ガクトが羨ましいよ」
「……普通の人はニッグの方が羨ましいと言うだろうな」
イケメンで仕事もできて幸せな家庭を築いているニッグ。俺は前世も含めて結婚願望がまったくなかったが、それでも友人たちが幸せな家庭を築いているところを見て何も思わないわけではない。
とはいえ、俺はひとりで自由気ままに旅をするのが好きなんだよなあ。誰かと一緒にいるのも楽しいが、四六時中誰かと一緒にいるのは俺には無理だ。
「それで今回の旅はどうだったんだ? 結構離れた場所まで行ってきたんだろ?」
「ああ、ぜひ聞いてくれ」
「そんなわけで、転移魔法のおかげで難を逃れたわけだ」
「……旅をしていると危険が多いんだな」
「村ぐるみで人を襲うようなヤバい連中はほとんどいないけれど、ごくまれにいることはいるんだよ」
盗賊や魔物に襲われたことの方が遥かに多いが、それでも睡眠薬や麻痺毒を飲まされて身ぐるみはがされそうになったのは2回目もあった。前世でも治安の悪い海外を旅したことがあったが、それ以上にこの異世界の方が危険である。
「それに人も怖いけれど、俺にとっては魔物の方が怖いんだ。問答無用で襲ってくるからな」
「なるほど」
瞬間転移スキルがあればどんな危機的な状況でも瞬時に離脱することができる。毒などを使ってくる盗賊もいたが超健康スキルで無効化できるからな。
それよりも草原や森で身を隠していきなり急所を狙ってくる魔物の方が怖いのである。魔物に命乞いをしたところで躊躇なんてしてくれないもんな。
「やっぱり俺には旅は無理だな。ガクトの転移魔法は本当にすごいよなあ」
「まあ、いろいろと制限もあるがな」
「制限といっても1日に10回の回数制限と10人の人数制限だけだろ? そんなの制限と呼べるかすら怪しいぞ」
「そうなんだけれど、意外と面倒になる時もあるんだよ。それもあって、できるだけ大人数で移動するような乗り物には乗らないようにしているんだ」
「確かに盗賊や魔物に襲われた時、10人以上だったら誰を助けるかなんて選びたくないもんな。それにしても、そんな魔法が使えたら億万長者間違いなしなのに、なんで旅をしているのか不思議でしょうがないぜ……」
それについてはよく言われる。
商売をすれば遠い国の商品を持ち運ぶだけで大儲けできるし、明日のように王都から俺が行ったことのある村や街まで人を送る運び屋のようなことをするだけで億万長者なるなんて簡単なはずだ。
「人や物を少し運ぶ程度の分相応なくらいがちょうどいいんだよ。あまりにも派手に商売をすると間違いなく暗殺されるだろうからな」
「……確かにそれもそうか。それに国同士の争いに巻き込まれるだろうな」
「ああ。だから国相手には少し協力くらいに留めておくつもりだ。あんまりひとつの国に肩入れし過ぎると面倒になること間違いないからな」
過去に行った場所へいつでも行ける。
そんな能力は争いごとの火種になることは間違いない。一度敵の本拠地に入れば、いつでも瞬時に戦力を送れるなんてヤバすぎる。他にも瞬時に情報伝達が可能だし、戦争などではこのスキルは脅威となるため、間違いなく一番に狙われるだろう。
そのため訪れた国のお偉いさんに会った時はどこかに所属はしないと宣言している。中には俺を拘束して無理やり言うことを聞かせようとした者もいたが、瞬間転移スキルで即座に逃げてきた。毒も効かないし、たとえ拘束されていたとしても俺には関係ないからな。
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