動き出す推理
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第二章 ― 動き出す推理
ざわつき始めた山荘の空気は、
まるで霧よりも濃く、重く、
肌にまとわりついてくるようだった。
ほどなくして、ほかの作家たちも集まってきた。
顔を青ざめさせた恭子、美月、
そして高杉もやってくる。
「うそ……野村さんが……?」
誰かのつぶやきが、重苦しい空気を引き裂いた。
誰もが動けず、立ち尽くす中で、
アオイだけは静かにその場にしゃがみ込んだ。
「……額を、何かで殴られてる。即死に近い」
アオイは独り言のように言った。
「グラスの破片、椅子の位置、倒れ方……自分で倒れたとは考えにくい」
「ちょ、ちょっと佐伯さん……」
と恭子が声を上げた。
「あなた、なんでそんなに冷静なの……?」
「……小説のネタになるかもしれませんから」
アオイは微笑んだ。
その笑みが、かえって空気をさらに冷やしていく。
「それに、警察が来るまでに時間がかかる。霧で山道も使えないでしょう。誰が何をしていたか、早めに確認しておくべきです」
その言葉に、美月が眉をひそめた。
「もしかして……あんた、探偵のつもり?」
「いえ。あくまで、作家としての“観察”です」
アオイは立ち上がり、皆を見回した。
「まず、野村さんの最後を見た人はいますか?」
沈黙。
紀子が震える声で言う。
「わ、私……寝付けなくて、紅茶でも飲もうと思って、ダイニングに戻ったんです。そしたら……もう、倒れてて……」
「紅茶?」アオイが聞き返す。
「ええ、夕食の時に気に入ってたから……ポットにまだ残ってるかと思って……」
アオイはすっと目を細める。
(それは本当かもしれない。でも……何かがおかしい)
「それ以外に、夜中に起きていた人は?」
しばらくして、高杉が手を挙げた。
「……私は、読書してた。部屋でな。誰にも会ってないが」
「私は……シャワー浴びてた」恭子が言う。
「音で何も聞こえなかったわ」
「私は寝てた」美月が言い切った。
「こういう合宿、苦手なの。体力使うし」
アオイは一人ひとりの顔を順に見て、うなずいた。
――今、この中に、殺人者がいる。
その事実だけは、疑いようがなかった。
そして同時に、
自分の中にひとつの仮説が浮かび上がる。
(野村祐一が死んだ理由――それは、彼が知ってしまったからだ)
アオイの眼差しが、ふと一点に鋭く向いた。
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