第37話 今更のレクチャー1
城がハインツの脱獄で騒がしくなっている頃、朝食を終えたマリアは冒険者ギルドにやって来ていた。
「これでよしっと! それじゃあ気をつけて行って来なさいよ。くれぐれも味方を攻撃しないようにね!」
マリアの腰にマジックバッグとメイスを着けたイザベルがそう言ってポンとマリアの腰を叩いた。
「大丈夫ですわ! それくらい気を遣えますの!」
本日マリアは初めてちゃんとパーティでダンジョン探索する事になっていた。
マリアが何も考えずにダンジョンで魔物を討伐して回った結果、入り口付近のゴブリンやコボルトが減少してしまい下級冒険者達から冒険者ギルドに苦情が来るようになった。
これは他の冒険者と関わって来なかったマリアが冒険者の暗黙のルールを教わらなかった結果である。
暗黙のルールというのは基本冒険者ギルドは関与しないのだが、ゴブリンやコボルトから狩尽くしてマジックバッグの容量を圧迫してしまうのはお互いにとって不利益である。と判断して、今更ながらルミナスの白虎にレクチャーしてもらいながらダンジョンを探索する事になったのだった。
「お待たせしましたわ」
「大丈夫。それにしても毎回ああして着けてもらわないといけないなんて面倒」
マリアがルミナスの白虎に合流すると魔法使いのペルカがそう言った。
貴族時代は洋服さえもメイドに着せてもらっており慣れているマリアはよく分からないという風に首を傾げる。
「自分でつけたら時間がかかりそうですし、イザベルさんにしてもらうのはとても嬉しいですわ?」
「わーお、さすが元お嬢様って感じだね」
弓師のルミアが苦笑してそう漏らすと、隣でペルカも頷いた。
「それでは、ダンジョンへ向かいましょうか。これから下級冒険者狩場は無視してマリア嬢のレベルに合わせた場所まで突っ走ります。ついて来てください」
「はい、ギルバート様。皆様、今日はよろしくお願いしますわ」
マリアの反応にルミナスの白虎のメンバーが苦笑いする中、今日の予定をギルバートが説明してマリアは会釈する。
「それじゃみんな、説明した通りだ。まあ、驚かないようにな」
ルミナスの白虎と共にダンジョンへ入ったマリアは、入場早々メイスを手に取った。
メイスを持たなければ魔力で体を強化できないため、ルミナスの白虎と共にダンジョンを攻略するのが困難なためである。
「よっしゃあ! 皆さん、やぁってやりますわよ!」
話には聞いていたものの、肩にメイスを担ぎ、好戦的な笑みを浮かべるマリアの印象の代わりようにギルバート以外のルミナスの白虎のメンバーは目を見開いて絶句した。
「マリア嬢、私達が案内する所までは魔物は倒さないのよ?」
分かってはいても、魔物が出てきたらすぐに攻撃しそうなほどに攻戦的な雰囲気のマリアに対して弓師のルミアが確認をとった。
「分かってますわ! ほら、早く行きますわよ!」
「それでは、行きましょう」
「皆さん、早く行きますわよ! 血がたぎりますわー!」
ギルバートの言葉を聞いて、ルミナスの白虎に案内されるように後ろをついていくのではなく、我先に走り出したマリアをルミナスの白虎は慌てて追いかける。
マリアは軽やかに走っているように見えるが、ルミナスの白虎にとってはいつもよりもハイペースなダンジョン探索となる。
他の冒険者に残すように、魔物を置き去りにしてマリアとルミナスの白虎はどんどんダンジョンの奥へ進んで行くのであった。
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