第9話 ゴブリン調査先遣隊2

 今冒険者ギルドではゴブリンのメスの出現における増殖が問題になっている。


 雪だるま式に増えているのを想定して早く処理をしなくてはならず、今日中にも騎士団と合同で討伐隊が出向く予定である。


 しかし、騎士団には貴族が多く所属しているので討伐作戦が行われたものの取り越し苦労であり、ゴブリンの群などいませんでしたとなれば無用なトラブルが起こる可能性がある。


 そのため冒険者ギルドは先遣隊を派遣して今の状況をしっかりと確認しておく必要がある。


 そこで白羽の矢が立ったのが《ルミナスの白虎》であった。


 しかし、ルミナスの白虎は現在休暇期間をとっており、メンバーのほとんどがバカンスのために今この街にいない。


 体を鈍らせないために定期的にダンジョンに通っているリーダーのギルバートと引きこもりタンカーのギャリアンだけであった。


 今回のような偵察任務にタンカーのギャリアンは向かないので、依頼を受けたギルバートは臨時パーティで依頼を受ける事にしてパーティメンバーの選抜を冒険者ギルドに依頼したのであった


「では、これからゴブリン増殖の確認に向かう。今回の目的は討伐や殲滅ではないから確認次第急いで撤退する。そのためのこのパーティだ」


「なるほど、だからギルバートさんはそんな軽そうな剣なんですかい」


「そういう事だ。このメンバーも足の速さで選んでもらった」


 探索メンバーはパーティの最小人数である4人。


 ギルバートは以前背負っていた大きな剣ではなく片手で扱える剣を腰に挿している。

 他のメンバーも片手で扱扱える装備の冒険者であった。


「それは理解しましたがこのお嬢さんは?」


 ギルバートの話に頷いた冒険者であったが、武器を持っておらず、冒険者らしくない洋服のマリアを見て眉を顰めた。


「彼女はメスのゴブリンを発見して生き残ったヒーラーだそうだ。怪我をして撤退に支障が出ないように来てもらう事にした。撤退の時も俺が担げば問題ない、いつもの剣よりよほど軽いだろう」


「違いねえ」


 マリアがヒーラーだというギルバートの説明を聞いて顔を顰めていた冒険者は納得したようである。


「皆さんを癒せるように頑張ります!」


「まあ、そんな事にならずに帰ってこれるのが1番ですがね」


 マリアの存在は保険。マリアのやる気を見た冒険者はそう言って笑ったのであった。


 ◆◇


「ギルバートさん、本当にゴブリンが増殖してるのか?」


「それを確かめるのが今回の仕事だ」


「だけどよ、いつもよりゴブリンは少ない。どころかここまで魔物がいませんぜ?」


 ダンジョンを進みながら、冒険者達がギルバートに質問した。

 もうそろそろマリアがゴブリンの群を倒した開けた場所だが、これまでゴブリンを発見しておらず、拍子抜けといった状況なのであった。


「見逃して取り返しのつかない事態になるのは避けないといけない。まだここは浅い場所だ、とりあえずゴブリンを見つけるまで奥へ行こう」


 ギルバートの指示に冒険者達は頷いて、マリア達はさらに奥へと進むのであった。



「お、やっとお出ましかな」


 しばらく進んだ所で、奥からゴブリン達の鳴き声が聞こえてきて冒険者がそう呟いた。


「1匹じゃないみたいだ。気を引き締めろ!」


 ゴブリンの声は複数聞こえてきており、ギルバートの指示に冒険者達が頷くとマリア達はゴブリンの声のする方へ向かう。


「おい、なんだよこれ!」


「ここまでゴブリンがいなかったのはこのせいだったのか!」


 マリア達は巨大な魔物の背中を見上げた。

 魔物の奥の開けた空間にはゴブリン達がひしめき合っており、そのゴブリンを巨大生物が食らっていた。


「ロックタイタン⁉︎ おいおい、コイツはこんな所にいていい魔物じゃないだろ」


 冒険者の1人が魔物を見上げて呆れた様子で笑った。


「見つからないように引くぞ。ゴブリンの増殖は確認したし、それ以上にやばい事になっている事を伝えなきゃいけない」


 マリア達が撤退しようとした時、ロックタイタンから食われまいと逃げ出したゴブリンがマリア達の方へ抜けて来た。


「く、まずい!」


 そのゴブリンを追ってロックタイタンが振り向いてマリア達は視界に入ってしまった。


「急げ! 逃げるぞ!」


「え? きゃあ!」


 ギルバートが叫んでマリアを肩に担いだ。

 冒険者は既に走り出している。


 ロックタイタンが叫びながら腕を振り回すと、洞窟の壁を叩き、マリア達の帰る道を塞いでしまった。


「チッ、こんな事ならいつもの剣を持って来たらよかったな」


 ギルバートはマリアを肩から下ろして庇うように立つと、腰に携えた片手剣を引き抜いた。


「おい、大丈夫なのか?」


「大丈夫だ! お前達は急いでギルドに報告しろ!」


 ギルバートがマリアを担ぐあいだに走り出していた冒険者達は未知の崩壊に巻き込まれずに崩れた通路の先にいけたようだ。

 ギルバートの指示を聞いて慌てて駆けていく足音が聞こえる。


「私もなにかできないかしら?」


「大丈夫、貴女は私が守ります。下がっていてください!」


 ギルバートに言われてマリアが後ずさると、何かに躓いてバランスを崩してしまう。


「あら? これは——」


 マリアは躓いてしまったあるものに手を伸ばした。









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