第6話 仕事探し6

「さて、奥様によくしていただいたお礼をしなくてはいけませんわ!」


 マリアは朝起きると宿の女将に何かできる事はないかと質問をした。


 初めは渋っていた女将であったが、マリアの熱意に負けて渋々おつかいをお願いしたのであった。


「所で、お買い物するにはどこにいけばいいんでしょうか?」


 張り切って道を歩いていたマリアだが、片手にバスケットを持ち、片手に買い物のメモを持ったまま首を傾げた。


「すいませんお買い物はどちらに行けばできるのでしょうか?」


 マリアは通りがかった人に気さくに質問をした。

 質問をされた通行人はマリアを見てギョッとした後、緊張した様子で質問に答える。


「お嬢さん、この辺りにはお嬢さんが行くような服屋や宝石店はないでございます。あるのは市場くらいなもんでございますよ」


「市場ですか?」


 マリアは市場が何かわからずに首を傾げた。

 それを見た通行人はゴクリと唾を飲み込んでから市場について説明する。


「まあ、お野菜やお肉が売ってますのね! きっとそこですわ! その市場の場所を教えてくださいな」


 男性に詳しい市場の場所を聞いたマリアは、鼻歌を歌いながら教えられた道を歩いた。


 マリアを見送った通行人はというと、朝だというのに労働後かというほどに疲れた顔をして「お貴族様の機嫌を損ねなくて良かった」と大きなため息を吐いたのだった。



 市場についたマリアはびっしりと並ぶ露店に目を輝かせた。


「すごいですわ! お店がいっぱい。ここならおつかいができそうですわ!」


 といってもマリアは数ある露天の中からよりいい物を安く買うなどの目利きはできない。

 それどころかメモに書かれた名前の正体もよくわかっていないのだ。


「たくさんありすぎて迷ってしまいますわ! このトマトというのはどこにあるのでしょうか?」


 マリアは市場の入り口の野菜を並べる店の前でそう呟いた。


「お嬢さん、目の前のトマトが見えないのかい?」


「ん?」


 マリアが声をかけられて振り返ると店主がトマトを指差しながら笑っていた。


「これはサラダに入っている赤い果実。これがトマトだったんですね!」


「お嬢さん買ってくかい? 1つ1000ガルだ」


「ではそれを——」


「やっと見つけたわ!」


 トマトを買おうとした時に聞こえた大きな叫び声にマリアが振り向くと、昨日の受付での綺麗な雰囲気から一転目の下にクマを作ったイザベルがマリアを指差していた。


「あら、イザベルさんこんにちは」


 マリアが笑顔で挨拶をするとイザベルは返事をせずにズンズンと近づいてくる。


「貴女のせいで私は寝てないのよ! 一緒に冒険者ギルドに来てもらうわよ!」


「あらあら、寝不足はお肌の敵ですわ。冒険者ギルドに伺うのは後でよろしいかしら? 私今お買い物中ですの」


「な……手伝ってあげるから早く終わらせるわよ!」


「まあ、手伝ってくださるんですの?」


「早く済ませるためよ!」


「あ、あのー」


 マリアとイザベルが話していると、露天の店主がぎこちない笑顔で話しかけてきた。


「お待たせしてしまいましたわ。ではトマトを5ついただけますか?」


「あ、ああ。5つで300ガルだよ」


「あら、間違ってますわ。1つ1000ガルなら5つだと5000ガルですわ」


 微笑んで店主の間違いを指摘したマリアの言葉に店主の口角がヒクリと動いた。


「はあ⁉︎ トマトがそんな値段なわけないでしょ! ぼったくられてるわよ!」


「ぼったくられですの?」


 マリアの不思議そうにする顔を見てイザベルはガーッと頭をかいた。


「1つ50でも高いわ! 市場の買い出しは奥に行った方が安いのよ! ほら、行くわよ!」


「ああ、イザベルさん⁉︎ 申し訳ありません失礼しますわ!」


 イザベルに手を引かれながら、マリアは店主に頭を下げる。

 その後店主はほっと胸を撫で下ろし、早めの店仕舞いをしたのであった。


 ◇◆


「イザベルさんは慣れてますのね、とても助かりましたわ!」


 頼まれた買い物の品をバスケットに入れ、マリアは嬉しそうにイザベルにお礼を言った。


 お礼を言われたイザベルは返事の代わりに「フン」と鼻息を吐いた。


「それじゃ、冒険者ギルドへ行くわよ!」


「待ってください!これを宿屋の奥様に届けないと」


「あー、もう! はやく届けに行くわよ!」


 イザベルに手を引かれて駆け足になるマリアは楽しそうに微笑んだ。


「イザベルさん、ありがとうございますわ!」


「別に、仕事なだけよ! それで宿はどっちなの?」


「あっちですわ!」


 こうして無事におつかいを済ませたマリアはイザベルに連れられて冒険者ギルドへ向かうのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る