第3話 仕事探し3

 階段を降りると灯りはあるものの薄暗く、足場の悪い洞窟であった。


「ダンジョンって薄暗いのですね。足元に気をつけなければいけませんわ」


 マリアはドレスにヒールという格好なので、スカートを摘んで転ばないようにしながら歩いてた。


 と、いってもゴツゴツした洞窟の地面をヒールで歩けるというのも特殊な技能に思える。


「所で、冒険者とはどのようなお仕事ですの?」


 道を歩きながらマリアは男達に質問をした。娼館の時然り、マリアは仕事を探さなければという思いから仕事内容を聞かずに話を進めていたのである。


「もう少し奥に行ってから話すぜ。簡単に言えば魔物を倒しして金を貰う仕事だ」


「まあ、わたくしはお父様やお兄様に戦うのを禁止されています。どうしましょう」


 冒険者が戦闘職だということを知ってマリアは不安そうに顔を曇らせた。


「このダンジョンは深く潜らなければ強い魔物は出てこない。群れで行動する魔物もいないし危険なんてないさ! それでも食う分くらいは稼げる。まああんた1人じゃ無理だろうが俺達と一緒に行動すれば大丈夫だ」


「あらあら、何から何までありがとうございます」


 マリアは男の説明に感謝して1人立ち止まって頭を下げた。


 先を歩くもう1人の男が「まあ、その前に俺達もおいしい思いをさせて貰うけどな」と呟いて男に肘打ちされているが、声が小さかったのと広い洞窟でマリアの方を向いていなかったのでマリアには聞こえなかった。


「ほら、出てきやがった。ゴブリンだ」


 男が足を止めてマリアに説明しながら振り向いた。

 すると洞窟の奥から緑色の体をしたボロ切れを腰に巻いただけの人型の化け物がマリア達に向けて歩いて来ていた。


「それじゃあ見てな! やるぞ!」


「おう!」


 男達は剣を引き抜くと1匹のゴブリンに向けて走っていく。


 マリアの家で訓練していた騎士達とは違って型も無く、剣を振り回しているだけであったが、ゴブリンの持つ木の棍棒を1人が受け止めてもう1人が反対側から切って止めをさした。


 騎士道精神などないゴロツキの喧嘩のような闘い方だが、ゴブリンを倒したことは間違いない。


「ほら、大丈夫だろ?」


「でも、私武器を持ってませんわ」


「大丈夫。パーティは持ちつ持たれつだ。俺達が魔物を倒してアンタは俺達を癒してくれればいい」


 男達はマリアの心配を他所にパーティの役割について説いた。


「でも、私は魔法も使えませんわ」


「なに、癒しは魔法だけじゃない。アンタなら立派に俺達を癒すことができるさ」


「そうですのね! やり方は教えてくださいますの?」


「勿論さ。もう少し奥に行けば広い空間がある。そこでやり方を教えてやるからちゃんとついてこいよな」


「分かりましたわ!」


 自分にもできる仕事だと分かったマリアが嬉しそうに微笑むと、男達は見惚れて鼻の下を伸ばした。


「どうしたのです? 行かないのかしら?」


「今行くさ、なあ相棒!」


「ぐふふ、ああ! 行こう!」


 マリアに声をかけられた男達は慌てた様子で顔をそらすとマリアを連れてさらに奥へと進んでいった。



 しばらくゴブリンを倒しながら進んでいくと、男が言った通りひらけた場所へ出た。


「よし、アイツらを倒したら休憩だ! たっぷりと癒して貰うからな!」


「よっしゃやるぜぇ!」


 ゴブリンが2匹と道中よりも多いが、問題ないとばかりに男達はゴブリンに向かって行く。


「お2人とも、あの色が違うのはなんなので——行ってしまわれましたわ」


 2体のうち一体の体がこれまでの緑では無くグレーっぽいのが気になったマリアが質問しようとしたが、男達はその前に走って行ってしまった。


「うぉりゃ!」


「よいしょー!」


 ウキウキとした声を発しながら男達はゴブリンを一体ずつ倒していく。

 色違いのゴブリンは特別強いというわけではなく、男達はこれまでと同じように倒した。


 ただ、色違いのゴブリンはこれまでのゴブリンと違い断末魔がダンジョンに響くような大きいものであった。


「さて、いよいよだぜ」


「さっきのコイントスは有効だよな? 俺からな、俺から!」


 男達がいい笑顔で話していると、ダンジョンが震えるような地響きが起こった。


「なんだ?」


「わかんねえよ。なんだこれ?」


 ゴゴゴゴという地響きはこのひらけた場所へ迫ってくるように感じる。


「お、おいなんだよあれ!」


「ゴブリン、だと?」


 先程の笑顔は何処へやら。男達の顔は驚愕に染まっていく。基本単独でしか行動しないゴブリンが群れをなすようにしてこの空間へと走ってきていたのだった。


 しかもこれまでに戦ったゴブリンに比べて行動が素早い感じがある。


「クソ! 逃げろ!」


「そんなの間に合わねえよ!」


 ゴブリン達は一目散に男達に向かって走ってくると勢いよく飛びかかった。


 男達はなんとか剣で受け止めてなんとか弾いた。


 しかし、迫るゴブリンへこれだけではなく、このままでは男達もマリアも群れに飲み込まれてお陀仏である。


「どういたしましょ。私もなんとかしなければいけませんわ! あら?」


 マリアはオロオロとしながら足元に先程の色違いのゴブリンが持っていた棍棒が転がっていることに気づいた。


「これがあれば私も戦えますの? お父様、お兄様、言いつけを破ります。申し訳ありませんわ」


 マリアは意を決して棍棒を拾い上げる。


「ふふ、ふふふふ」


 マリアが棍棒を握った瞬間、貴族令嬢にそぐわない笑い声がマリアの口から漏れた。


(なんだか少し懐かしい感覚……)


「よっしゃあ! やぁってやりますわぁ‼︎」


 マリアは先ほどまでの清楚な雰囲気から一転、棍棒を振り上げてゴブリンの群れに向かって突進していくのであった。


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