第3話☆国境沿いの村 バロウ村の青年
アデーレ王国、国境付近。
この国は、東側は海、そして西側は内陸で近隣諸国と国境を接していた。
国境の近く、というと国同士の領地をめぐる争いが起きている、と想像しがちだが、ここでは各国の領土は神と女神から成る、聖審査委員会に全て委ねられていた。
神と女神の決定は絶対なのだ。
ということで、アデーレ王国も表面上は近隣諸国も諍いらしい争いが起きたことはない。
しかし、国境付近にはアデーレ王国軍がいつも警備をしていた。
その名目は不法入国者の取り締まりや、密輸の摘発。
アデーレ王国の国産品はどれも逸品だ。その技術者を誘拐し隣国に連れ去る事件などがおきることもある。
そういうときに王国軍はとても頼りになる。
王国軍、といっても司令官クラス以外の一般の兵士は、この近隣の町や村の出身者がほとんどだ。
国境付近の村々には勇者の一族がくらす地域が多くある。
その一つ、国境付近の村「バロウ」
この村にも、多くの勇者一族の者たちが暮らしていた。
彼らは日頃から鍛錬に励み、年に一度の「アデーレ王国軍、兵士採用試験」に挑む。
村の広場では今この時も、勇者の若者が手合わせの最中だ。
月に一度の「若手勇者剣術大会」が催されているのだ。
二人の青年が、向き合い剣を構える。
どちらも手慣れた剣さばきだ。
周囲を大勢のギャラリーが取り囲んでいた。
村人のほとんどがここにいるのではないかというほどの人数だ。
10分ほどして決着がついた。
勝ったのは、村長一族の青年、マルクだった。
大勢の見物人がマルクを祝福する。
手を振り声援にこたえるマルク。
そこに、たくさんの書類を抱えてやってきた初老の男性。
この村の村長だ。
マルクの叔父にあたる。
「おおマルク、お前が勝ったのかさすが血統のいい勇者の血筋だ」
マルクの手柄に村長もご満悦の様子だ。
「叔父上、そんなに書類を抱えて、どうしたというのですか」
とマルクが言う。
「おお、今日ならここに皆が集まっていると思ってな。王宮から、いましがた勇者ロードレース大会の参加許可証が届いた。
今から参加が決まった者を読み上げる。ここにいるなら返事をして前に出てくるように」
そう言うと、側近に荷物を持たせ、自分は拡声器を使っ名簿を読み上げ始めた。
「マルク、シモン、クルド、ドルート、ロイ、カイル」
この村の青年たちの名が次々と読み上げられていく。
呼ばれたほとんどが、その場にいたため村長の横に一列に整列していた。
十数人が並んだところで、
「つぎ、最後の一人だ。ハンス」
と村長が読み上げた。
「え、ハンス?」
皆が顔を見合わせる。
「叔父上、最後の一人がハンスなのですか?
他にも応募した勇者が大勢いるのに、彼らは出られないのですか?」
とマルクが怪訝そうに聞いた。
この場には名を呼ばれることのなかった青年がまだ大勢いた。
彼らはがっかりした表情で、下を向いていた。
「そうだな、今回の出場者は純粋な勇者一族の者、とされている。
王家の魔法使いがかなり細かく血筋を調べたから、純血以外の者がみな落とされたのだ」
と村長。
「では、なぜハンスが選ばれているのですか?
ハンスこそまがいものの勇者一族ではないですか」
とマルクが訴えた。
その時、
「僕も選ばれたんですね」
そう言いながら、歩いてきた青年がいた。
マルクや他の選ばれた勇者の青年と比べると、あきらかに違う体形をしており、
ちがう風貌の持ち主だ。
つばの広い帽子をかぶり、胸当ての付いたズボンに長靴を履き、手にはバケツとシャベルを持っていた。
首にはタオル?いや手ぬぐいというのがぴったりな布切れをまいていた。
布切れで顔の汗を拭きながら、
「いやー土手でミミーズのなえどこを作っていたんですよ。
そうしたら、すぐに広場に来るようにと呼びに来て」
とハンスは言う。
ハンスの名が呼ばれた時、その場にいないのを見た村の誰かが彼を呼びに行ったのだ。
「まあいい、ハンス、お前も皆と並べ」
村長に促され、名前を呼ばれた「勇者ロードレース大会出場者」の面々が並んでいる一番隅に立つハンス。
「ここに並んだ15名の精鋭たちは、村代表の勇者としてアデーレ王国、イレーネ王女の花婿選抜ロードレース大会に出場することを許された。
ぜひとも、わが村から姫の婿殿が選ばれてほしいものだ。
みな、村の威信をかけて誇り高く戦ってきてほしい」
と村長が出場者に向かって言った。
選ばれた勇者の青年に大きな拍手と歓声が沸き起こる。
「優勝候補はマルクだな、村一番の勇者だ。それにイケメンだし、姫様のお相手には申し分ない」
そんな声が聞こえてくる。
まんざらではない表情のマルク。
村長もマルクを見て満足げにうなずいた。
「ロードレースって要はかけっこだよね。なんで戦うっていうんだろ」
とハンスがつぶやいた。
それを聞いていた隣の勇者、返事をするわけでもなく一瞥しただけだった。
王宮、イレーネ王女の寝室。
「ロードレース大会はいよいよ来週でございますね」
と侍女が言う。
それには答えず、夜着の姿で自室のバルコニーに出る王女。
「あのさ、決められた殿方と結婚するってのは仕方ないと思ってる。私、王女だし。
でもさ、なんで勇者なのよ。王女が結婚するのは白馬に乗った王子様かせめて騎士でしょ」
とぼやいていた。
「仕方ないよ、魔女メディアの予言だもん」
そう答えたのはイレーネ王女専属の魔法使い兼妖精のシャロンだった。
「さ、イレーネもうベッドに入らないと。化けの皮が剥がれるよ」
シャロンに促され、ベッドに入るイレーネ。
しばらくすると眠りに落ちた。
すると、みるみるその眉間にしわが寄り始めた。
なにかにうなされているような、険しい表情になった。
「また悪夢か。かわいそうな姫だ」
シャロンがつぶやいた。
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