【PV 290 回】『フォーチュナ ― AIが占う、僕らの未来』
Algo Lighter アルゴライター
📘第1章:春、フォーチュナと君がきた
第1話 🌸転校生と予言アプリ
春一番の名残を残した風が、教室のカーテンをふわりと揺らしていた。
黒板には担任の字で新しいクラスの名簿が書かれ、窓辺には、まだ名前も知らないざわめきが漂っていた。
杉山悠斗は、教室のいちばん後ろで静かに文庫をめくっていた。
話し声も笑い声も耳には入ってこない。けれど、その内容がほとんど同じ単語で埋め尽くされていることには気づいている。
「フォーチュナ、今日の運勢マジで神ってた!」
「“偶然の出会いが未来を変える”って出たの!で、駅でイケメンに……」
「うわ、それフラグじゃん!🔮」
“フォーチュナ”。
最近爆発的に広まっているAI占いアプリ。SNSの投稿、検索履歴、体調ログ、会話の傾向──あらゆるデータを元に、その人だけの“最適化された運勢”を導き出すという。
(それ、もう占いじゃなくて分析だろ)
そう思いながらも、悠斗はアプリをインストールしていなかった。
占いには、いい思い出がない。
幼い頃、ある“占い結果”が家族を傷つけた。それ以来、未来を他人の言葉に決められることに、強い違和感を覚えるようになった。
「……はい、静かにー。転校生を紹介するぞー」
担任の声で、教室の空気がぴりりと変わった。
そして、彼女が入ってきた。
「宮下彩音です。東京から来ました。よろしくお願いします」
明るい茶色の瞳。落ち着いた声。けれど、不思議とその場に溶け込む力を持っていた。
「ちなみに、今日のフォーチュナでは“新しい出会いが、静かな予感を連れてくる”って出ました🌸」
そのひと言で、教室がぱっと和んだ。
笑いが起き、緊張が解ける。
占いを“信じている”というより、“使いこなしている”ような印象を受けた。
──この子は、フォーチュナを“操っている”。
休み時間。悠斗は、教室を抜けて廊下に出た。
スマホを開くと、広告欄に“今日の運勢を占ってみませんか?”の文字と、青い輪を描いたアプリアイコンが表示されていた。
フォーチュナ。
指が、一瞬だけインストールボタンの上で止まる。
……そして、画面を閉じる。
「使わないの?」
背後から声がした。振り返ると、そこにいたのは転校生の宮下彩音だった。
「うちのクラス、ほとんど使ってるみたいなのに。君だけ、見てないよね?」
さらりと放たれた言葉に、悠斗は少し驚いた。
観察力が鋭い。あるいは、必要以上に人を“見ている”。
「……占いって、誰かに決められるもんじゃない気がしてさ」
「ふふ、それ、正しいと思う。でもね――」
彩音は、自分のスマホを彼に見せた。
《ラッキーキーワード:読書/風通しの良い場所/交差点》
「たまに、こういうのが“言ってほしかった言葉”になることもあるよ」
その声は、どこか遠くを見ているようだった。
言葉を“使っている”ようでいて、本当は“すがっている”ような気配があった。
彼女の笑顔には、微かな作り物めいた硬さがあった。
◇ ◇ ◇
放課後。
悠斗が教室を出ようとしたとき、彩音は数人のクラスメイトに囲まれていた。
「彩音ちゃん、“今日の占い通り”だったね!」
「“新しい出会いで静かな予感”、まさに転校生登場じゃん!」
「これもう的中でしょ〜!」
彩音は少しだけ笑って、首を傾げた。
「……そうだといいな」
その言葉に、嬉しさも自信もなかった。
まるで“そうであってほしい”という、願いだけがにじんでいた。
◇ ◇ ◇
夜。
杉山悠斗は、ベッドの上でスマホの画面を見つめていた。
そこには、まだインストールされていないフォーチュナのアプリページ。
指は動かないまま、彼女の言葉が脳裏で反響する。
“言ってほしかった言葉になることもあるよ”
それは、誰かに与えられた言葉ではなく、
自分の心が、どこかで待っていた言葉。
(選ぶのは、自分だ。けど……)
画面をそっと閉じる。
ただ静かに、夜の気配だけが、部屋に満ちていた。
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