第14話
42
(甘やかしてしまった)
私は今、少し後悔している。
あれから、河野くんはやたらとベタベタしてくる。
はっきり言って、少々鬱陶しい。
「杏奈ちゃん、一緒に帰ろう。」
「え、いいの?」
「もちろん、
杏奈ちゃんは駅の方だから、商店街までな。」
そういえば、2人だけでは帰ったことなかったっけ。
いつも皆んなで帰っていたから
すぐ横に河野くんが並んで歩いているのって、なんか新鮮。
ちょっと近過ぎるかな、
時々肩が当たるのは偶然よね。
急に背中に手をまわして、肩を抱いてきた。
(確信犯だった!)
ここ公道だよ。
周囲の目というものがあるのよ!
河野くんには鈍いところがある。
バカップルに陥る前に
はっきり言ってあげなきゃ
「ねえー、河野くん、」
そう言いながら見上げると、真正面には大型犬の顔があった。
「ん、何? 杏奈ちゃん、大好き。」
うわあー、顔面近過ぎ!
ここで言うか?
こいつには距離感が無いのか、
こら嬉しそうに笑うな!
恥ずかしい! 恥ずかしい!
足元でイヌが吠えている、
引き綱を持った男の子が、不思議そうに私を見上げる。
目が合ってしまった。
うわー、いたたまれない、
最悪ー!
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「杏奈ちゃん、今日も一緒に帰ろう。
あれ、なにそのネコ耳のでかいヘッドホンは?」
「一緒に帰る時の、必須アイテムです。
昨日理沙と買ってきました。」
「こうやって並んで歩いても、
私はスマホを持ちながら、前を向いて話します。
河野くんとは目を合わせません。」
「え、なんでよ?」
「触れないでください、お触りも禁止です。
この状態を保ちながら、一緒に帰りましょう。」
「冷てーな、こっち向いてくれてもいいじゃん。」
「ダメです、顔を合わせるとあなたがー」
河野くんの方を見ると、彼は両手で鼻と瞼を引っ張ってヘン顔をしていた。
ブッ!
私は必死で、吹き出すのを堪えた。
「そっ、そういう事をするからです、コホン。」
「なんだよー
.....ふーん、じゃあー」
コチョ コチョ コチョ!
ギャハハハハ
「もうーっ! 何すんのよ、このバカー!」
へへっ
逃げ出した河野くんを、全力で追いかけた。
あっ、痛っ
走った事のない私は、胸を押さえた。
気づいた河野くんが血相を変えて走って来て、
いきなり私を抱き上げた。
「おい、しっかりしろ!」
(すごー、お姫様抱っこできるんだ。)
河野くんは、はっと気づいたように、
「あ、そうだったな。」
と言うと、ゆっくりまた私を地面に降ろして
「あそこの木陰まで歩けるか?」
と心配そうに尋ねた。
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「大丈夫、走り慣れてなくて、息が上がっただけだから。」
小さな公園の、木陰のベンチに座っても、可哀想なくらい河野くんはオロオロしていた。
「頭冷やすか?
タオル濡らしてくるから、
あ、持ってねーや。
じゃ、シャツ脱いでー」
「本当にもう平気だから、」
なあに、この可愛いくて愛しくてしょうがない存在は?
「あ、こっちの方が冷たくて気持ちいい。」
私は河野くんの手をおでこに当てた。
「こんなんでよければ、両方ともどうぞ。
寄り掛ってもいいぞ、
ここなら誰も見てないから。」
「ごめんな、
俺、舞いあがっちゃって、
杏奈ちゃんの気持ち全然考えて無くて、
情けねーな。」
「違うよ、
私の事、一番考えてくれていたのは河野くんじゃない。
だからまた会えたんでしょう?
神様ってステキだね。」
「ああ、そうだよ。」
そう言った彼は、少し大人っぽくて、誇らしげだった。
誰もいない公園での初めてのキスは、少しだけ冷たかった。
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