第4話 【三人目】ダン=ロックスキン

クエスト報告の鐘が鳴る中、ギルド《雷迅の鉤爪》は、討伐依頼を終え帰還していた。討伐対象は巨大な魔獣“グレイヴ・ケルベロス”。動きが素早く、三つの首で連携攻撃を仕掛けてくる強敵だった。


 そして、その戦いにおいて最も多くの攻撃を受け、最も動かなかった男がいる。


「──なあ、ダン……今日も、お前ずっと立ってただけだったよな?」


 リーダーのヴェルクが、少し疲れたような声で言った。


 ダン=ロックスキン。巨岩のような体格を持ち、ただ黙々と“そこに居る”男。足を動かすことすら少なく、戦闘中はひたすらに敵の攻撃を受け続ける。彼が動いたところを見た者は、ほとんどいない。


「……挑発スキルは維持していた。敵は全て、俺を狙った。役割は果たした」


「いや、まあ、それは……そうなんだけど……」


ヴェルクは困り果てた表情で周囲を見た。メンバーたちは沈黙しているが、その視線のほとんどが「わかるよ」という諦めに満ちていた。


「なあ、ダン。お前、もうちょっと動けないか? ちょっと避けるとかさ。横にズレるだけでも……」


「……俺が動いたら、味方が被弾する。俺が止まっていることで、他が動きやすい」


「それは確かに一理ある……が、敵の範囲攻撃がきた時、お前、微動だにしなかったよな?」


「……受けるために、動かない」


「せめて避けてくれぇ!!」


 ヴェルクの声が爆発した。溜まりに溜まったものが、噴き出すようだった。


「それにお前、敵の首が後衛に回った時も、向きすら変えなかった! あれ、後衛のエルシェが瀕死だったんだぞ!」


「……範囲挑発の範囲外だった。仕様上、俺にはどうしようもない」


「こっちはパーティーだぞ!? 仕様より仲間だろ!!」


 部屋に静寂が戻る。だが、ダンは変わらない。まるで石像のように、無表情で立ち尽くしていた。


「……悪い。俺には、今の戦術が最善なんだ」


「……じゃあ、うちとは合わないな」


 ヴェルクがそう言うと、ダンは無言で頷いた。

 一礼もしない。謝罪もしない。ただ、自分の盾を手に取り、背負って立ち去ろうとする。


「ダン、お前……怒ってないのか?」


 誰かが、そう尋ねた。仲間だった誰かが。だが、返ってきた言葉はただ一つ。


「……俺は、岩のように耐える。それが俺の、すべてだ」


彼の背中は、あまりにも無言で、無感情で、だが強靭だった。

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