追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち-

晴本吉陽

第1部 星霊隊結成

第1話 悪魔を裏切った男

「悪魔軍最高司令官、悪魔神王あくましんおうの名において、コーキ!貴様は悪魔界から永久追放だ!」


 ビルが立ち並ぶ街の、その陰になっている薄暗い路地裏。そこで1体の悪魔がひとりの人間を見下ろしながら言う。黒いロングコートに身を包んだその人間は、自分を取り囲む無数の悪魔たちの姿を見ると、口角だけをあげて何度も頷いた。


「皆かかれ!!」


 悪魔が叫んだかと思ったその瞬間、黒いロングコートの男は、いつの間にか右手に握っていた日本刀で、自分よりも背の高い悪魔の喉を貫いていた。

 悪魔が死に、その体が黒い煙へと変化する。黒いロングコートの剣士は、自分を壁のように取り囲む無数の悪魔たちを眺めると、刀を握り直して構え、小さく微笑んだ。


「いいだろう。ならば、お前たちが誰を敵に回したか、思い知らせてやろう」


 彼が小さく呟くと、並外れて大きな棍棒を構える無数の悪魔たちが一斉に彼へと襲いかかってくる。


 彼が悪魔に押し潰されたかと思うほどに接近された次の瞬間、その悪魔の群れを潜り抜け、彼が姿を現す。

 彼がゆっくりと刀を鞘に納めた直後、無数の剣閃が悪魔たちの首筋に走ると、あたりを埋め尽くすほどに存在していた悪魔たちは、一瞬のうちに黒い煙に変わっていた。


 悪魔たちを一掃した彼は、振り向くこともせずに前に歩き出す。


(この地上から一匹たりとも残さず悪魔を消滅させてやる。俺や、俺を支えてくれた者たちの誇りのために)


 そう心に誓う彼の名は、東雲しののめ幸紀ゆきのり。一見して人間だが、その正体は、悪魔軍最強の剣士である。



 黒髪を全て後ろにまとめたオールバック、鋭い眼光に傷だらけの顔、ロングコートから靴に至るまで黒一色に染めた、どう見ても悪人しか見えない男。東雲しののめ幸紀ゆきのりはそういう男だった。


 そしてその見た目に違わず、彼は悪人、どころではなく、その正体は文字通りの悪魔、それも悪魔軍最強の剣士だった。


 あらゆる世界の支配を目論む悪魔軍は、人間世界の各地にスパイを派遣していた。幸紀も、本当はコーキという悪魔であるが、人間に化け、人間界の有力者である、清峰きよみね侯爵という女性の部下として、スパイ活動に勤しんでいた。



星暦せいれき2043年 6月18日 心泉しんせん府 霊橋れいきょう区 清峰屋敷 

 ある日、幸紀は清峰侯爵に呼ばれて5階建ての洋風な屋敷の最上階、その角にある執務室の扉の前にやってきた。

 幸紀は木製の分厚い扉を叩く。すぐに部屋の中から清峰侯爵の声が聞こえてきた。


東雲しののめです」


「どうぞ」


「失礼します」


 幸紀は低い声で短く言う。扉を開けて中に入ると、正面にあるデスクに向き合って座っている、黒髪にメガネで地味な顔立ちのスーツの女性、清峰侯爵が、幸紀の方に顔をあげた。


「待っていたぞ、幸紀。さっそくだが本題に入る。先ほど、女王陛下から書面が届き、ようやく『星霊隊せいれいたい』の結成が許可された」


 清峰はそう言うと、デスクの上の封筒を見せる。幸紀は僅かに眉を動かすと、頭を下げた。


「『星霊隊』…今後侵略を強めるであろう悪魔に対抗するため、霊力に秀でた人間たちを集めた部隊…おめでとうございます。これも清峰侯爵の地道な訴えがあってこそ」


「いいや、それだけではない。実際に被害に遭っているのは民衆だ。罪のない民が苦しむのは、女王陛下も見ていられなかったのだろう。だからこそ、私に命令が下ったんだ。やるからには、悪魔を滅ぼすつもりでやる」


 清峰が言うと、幸紀は僅かに眉をひそめるが、清峰はそれに気づかずに話を続けた。


「そこでだ、幸紀。『星霊隊』のメンバー集め、そしてその指揮や訓練を、君に任せたい」


「俺にですか」


「あぁ。君ほどの実力者はそうはいない。悪魔との戦いの主力を担う組織なのだから、1番腕のいい人間に全てを委ねたい。やってくれるか?」


「お引き受けします」


 幸紀は堂々と言う。清峰侯爵はそんな幸紀の態度に微笑んだ。


「ありがとう。悪魔の侵攻も近づいてるという話がある。なるべく早く、腕のいい人々を勧誘してくれ」


「了解しました。すぐに準備して出発します」


「頼む」


 清峰侯爵の言葉を聞くと、幸紀は深々と頭を下げてから部屋を足早に出る。

 廊下に誰もいないことを確認すると、自分の部屋がある屋敷の1階へと歩きながら、1人邪悪な考えを巡らせるのだった。


(俺が悪魔軍のスパイであることも知らずに…バカな女だ。最強の悪魔であるこの俺が人間のために働くわけがないだろう)


 幸紀はそんなことを考えながら階段を降りていく。途中メイドとすれ違うこともあったが、軽く会釈をして通りすぎると、すぐに自分の個室にたどり着いた。


 ベッドと机しかないこの部屋の中に、誰もいないことを確認した幸紀は、机の上に置いてあった大型のタブレット端末に手を伸ばす。ベッドに座りながら、そのタブレット端末でビデオ通話を始めるのだった。


「こちらカザン」


 タブレット端末から声が聞こえる。端末のモニターには、赤褐色の肌に立派な一本角が生えた、鬼のような姿の悪魔、カザンが映っていた。

 幸紀は特に端末の方も見ずに、靴下を履き替えて出かける準備をしていた。


「カザン、俺だ」


「おぉ、コーキ。いや、今は東雲幸紀と呼んだ方がいいか?」


「コーキでいい。ところで、人間どもは俺たちが侵攻するのに備え始めたぞ。俺にも精鋭を集めてこいという命令が出て、今から出かけるところだ」


「ふははは!遅いな人間どもは!我らは今日から侵略を開始するというのに!」


「計画に変更はなさそうか?」


「あぁ。まずは今お前のいる清峰屋敷から攻略を開始する。お前はその国の北部にある、飛岡県とびおかけん千年町せんねんまちの集合ポイントに行き、遊撃隊を指揮しろ。連絡役にはサリーがいる」


 カザンは幸紀に命令する。幸紀は端末の前に立つと、ニヤリと笑った。


「そいつらで北部から侵攻するのが俺の仕事、か。承知しました、カザン司令」


「同期のお前にそう言われるのは気分がいいなぁ!はは、まぁ上手くやれよ!」


 カザンは大きく口を開けて笑うと、通信を切る。幸紀も端末をカバンにしまうと、部屋を見回した。


(この部屋とも遂におさらば、か。楽しかったぞ、清峰)


 幸紀は1人そう思いながら振り向き、扉を開けて部屋の外に出るのだった。



 屋敷を出て歩くこと十数分、幸紀は最寄りの駅から「千年町行き」と書かれた電車に乗りこむ。平日の昼前は比較的電車は空いており、幸紀は電車のドア付近に立った。

 電車の窓から街並みが見える。現代的なビルや住宅が立ち並び、道路は車が行き来している、いつもの光景。幸紀はそう思いながら、ふと腕時計に目を落とした。


(現在10時…この街並みもあと2時間の命だな…目に焼き付けておいてやろう)




11時 悪魔の侵攻開始まであと1時間 飛岡県 千年町

 幸紀は「千年町駅」にたどり着くと、慣れた手つきで改札を通過する。駅の構内から外に出ると、天気は晴れ渡り、立ち並ぶビルも輝いているように見えた。


(悪くない町だ。これから滅びるにしては)


 幸紀がそんなことを考えながら仲間との集合場所へと歩き始めようとした直後だった。


「きゃあああ!!!」


 耳に突き刺さるような悲鳴が、幸紀から少し離れたところから聞こえてくる。

 幸紀がふと見ると、カザンのような赤褐色の肌をした、角を生やした筋骨隆々の人型生物と、ゴブリンのような緑色の肌をした、ハゲ頭の人型生物が、1人の女性に2体がかりで襲いかかっていた。


(始まったか。少し予定より早いが…)


 幸紀はそんな様子を尻目に、辺りを見回す。

 平和だった街に、突如としてあらゆる方向から、普通の人間ではありえない赤褐色や、青、緑といった肌の人型の生物、悪魔たちが現れ、平和に生活している人間たちを蹂躙し始めた。


「ケヘヘ!コロセェ!!」


「助けてくれぇ!!」


 逃げ惑う人々を、悪魔たちは手に持っている棍棒のような鈍器で殴り伏せ、倒れた人間たちにさらに棍棒を振り下ろしていく。

 人間の警官は、持っていた拳銃を悪魔に向けて撃つが、悪魔たちはいくら銃撃を食らっても怯まず、逆に棍棒で警官を叩き伏せた。


 老若男女問わず聞こえてくる人間の悲鳴と、殴打音、運転手が殺された車のブザー音。幸紀はそんな中を一切表情も変えずに、堂々と、悠々として歩みを進めていた。


 そんな幸紀の前に、1体、赤褐色の肌に角を生やした悪魔が立ち塞がる。幸紀は険しい目つきでその悪魔を睨んだ。


「邪魔だ、退け」


「ニンゲン!コロス!」


「俺を知らんのか、コーキだ。わかったら仕事の邪魔をするな、退け。俺は貴様みたいな低脳でも好きなように暴れられるように…」


「ウッヒャアァァァ!!」


 悪魔は幸紀の言葉を聞かずに、片手に握っていた棍棒を、幸紀に振り下ろす。

 幸紀は全く怯まず、霊力を左手に集中すると、何もなかったところに黒い鞘の日本刀を形作る。

 次の瞬間、棍棒が幸紀の頭に当たる寸前、幸紀は刀を抜き放つと、悪魔の棍棒を握る腕を斬り飛ばした。


「アギャァアア!??」


「敵味方の区別くらい付けろ」


 幸紀はそれだけ捨て台詞を残すと、刀を鞘に納めてから刀を光の粒に戻し、目的地まで大股で歩き出した。


「オマエ…テキ…!」


 斬られた悪魔がそう言って黒い煙になっていったのを、幸紀は知らなかった。




10分後

 悲鳴が飛び交う街の中を通り抜け、幸紀はビルの間を潜り抜け、待ち合わせ場所である路地裏にやってくる。幸紀は薄暗いビルの日陰で、腕時計に目をやった。


(待ち合わせまで時間があるが…)


「コーキ殿~」


 幸紀の背後から声が聞こえてくる。幸紀が振り向くと、赤褐色の肌の悪魔が1体、幸紀の方に向けて歩いてきていた。頭には2本の角を生やし、2メートルはある巨体で、その身長ほどの大きさの棍棒を持っていた。


「お前は…カザンの取り巻き…百鬼隊長のドージか」


「そ〜です~、コーキ殿~」


「妙だな、待ち合わせにはサリーがくるはずだが」


 幸紀が言葉を発しているうちに、幸紀の背後にゾロゾロと無数の悪魔たちが集まってくる。幸紀は一瞬だけ背後を確認すると、正面のドージがニヤニヤと笑っていることに気がついた。


「これが俺の率いる遊撃隊か」


「いいえ~、俺が、率いる部隊ですよ~」


「なに?」


 幸紀は背後にいる悪魔たちから殺気を感じ取る。同時に、ドージから笑顔が消えたのを見て、腰を落とした。


「どういうことだ、ドージ」


「まだわかんないんですか~?あなたは悪魔軍から追放されたんですよ~」


「なんだと?」


 幸紀は信じられずに聞き返す。ドージが薄ら笑いを浮かべ直すと、幸紀は言葉を続けた。


「なぜ俺が追放されねばならん。今日ここに至るまで有用な情報をもたらしてきたはずだ」


「でも血を流して戦ったのは俺たち実働部隊ですよ~。出世するなら俺たちがするのが道理ですよね~?なのに今の制度じゃ、間違いなくあんたが昇進する。そんなのおかしいですよね~」


「その程度の理由でお前もカザンも俺を裏切るのか?」


 幸紀は鋭い眼光のまま尋ねる。それに対し、ドージは微笑みながらアゴをあげて幸紀を見下ろした。


「大事な理由ですよ。あんたみたいな、人間の血が入った奴なんかが上に立ったら、悪魔軍は終わりですから」


「たった4分の1だ」


「どんな綺麗な水でも、ションベンが入った水は汚いでしょう?人間の血も同じ!一滴入っているだけで汚らわしいんですよ!あんたは悪魔の風上にも置けない、生まれついてのクズだ!」


 ドージの言葉に、幸紀の背後にいた悪魔たちも声を上げる。幸紀は表情を動かさずに背後の熱狂を確認すると、前に立つドージを見上げ、静かに声を発した。


「わかった。ではこれが最後の質問だ。今の言葉は、悪魔軍全員の総意ということで問題ないな?」


「えぇ。悪魔軍最高司令官、悪魔神王あくましんおうの名において、コーキ!貴様は悪魔界から永久追放だ!」


 ドージは堂々と言う。幸紀はそれを聞くと、口角だけをあげて何度も頷いた。


「よくわかったよ」


「皆かかれ!!」


 ドージが幸紀に言い放とうとしたその瞬間、目にも止まらぬ速さで、幸紀はドージの喉元を刀で突き抜いた。

 直後、ドージの体は黒い煙になって消え去り、悪魔たちは動揺する。

 幸紀はゆっくりと振り向き、日本刀を握り直した。


「俺の生まれが悪いから追放、さらには死ね、か。つまり、お前らはもう同胞でもなんでもない、俺や俺を育ててくれた全てを侮辱した、ただの敵というわけだ」


 幸紀は自分の目の前にいる無数の悪魔たちに尋ねる。一般市民をあれほど一方的に蹂躙し、銃撃すらも無効化する悪魔たちが、幸紀たった1人の気迫に、たじろいでいた。

 幸紀はそんな悪魔たちを見て、小さく微笑んだ。


「いいだろう。ならば、お前たちが誰を敵に回したか、思い知らせてやろう」


「シネェエエエヤァ!!!」


 20体はいるであろう悪魔たちが、一斉に幸紀に対して武器を構えて突進していく。幸紀はそんな光景に、目を閉じてゆっくりと息を吐くと、刀を両手で握り、小さく呟いた。


「『無尽閃むじんせん九十九つくも』」


 幸紀の言葉など気にしない悪魔たちは、幸紀のそばに駆け寄ると、武器を振り下ろす。瞬間、幸紀の体は文字通り目にも止まらない速度で正面に走り出すと、一瞬のうちに悪魔たちの間を駆け抜け、悪魔たちの背後にやってきた。


「ナニィ!?」


 悪魔たちは慌てて振り向く。幸紀は、ゆっくりとした動作で刀を納刀しており、悪魔たちには隙だらけに見えた。


「バカメ!コロシテヤ…」


「とどめ」


 幸紀がひとこと、そう呟きながら刀を納めると、次の瞬間、悪魔たちの体に無数の剣閃が走り、その場にいたはずの全ての悪魔が物も言わずに黒い煙に成り果てた。

 幸紀はその場にいた全ての敵を片付けたのを背中で感じると、振り向くこともせずに前へ歩き始めた。


(俺は何度となく悪魔軍のために尽くしてきた。だが、それに対する報いがこれだと言うのなら、俺は全ての悪魔を滅ぼしてやる。正義も悪も、種族も関係ない。俺は俺の血を、俺の誇りを侮辱した全てを許さない。この地上から一匹たりとも残さず悪魔を消滅させてやる。俺や、俺を支えてくれた者たちの誇りのために)


 表情をほとんど変えない幸紀の心に、何よりも固い誓いが芽生える。幸紀はその誓いを果たすため、より多くの悪魔がいるであろう、人間の悲鳴が聞こえる方へと歩き出していた。



同じ頃

 幸紀がビルの陰で悪魔たちを蹴散らしていた頃、同じ町の、そこから少し離れた場所で、1人の若い女性が声を上げていた。


菜々子ななこー!どこにいるのー!?聞こえたら返事をしてー!!」


 彼女が声を上げながら歩いている場所は、すでに悪魔が暴れるだけ暴れ回り、静まりかえっていたが、車はあらぬ場所に突っ込んで炎上し、足下には悪魔によって無惨に殺害された人々が転がっていた。


(ひどい有り様…これじゃあ…菜々子も危ないかも…!)


 彼女は息を飲むと改めて顔を上げ、妹の名前を呼び始める。

 そんな彼女の背後から、何かの物音が聞こえてくる。すぐに振り向いた彼女は、赤褐色の肌の悪魔が、止まっている車の屋根に座って彼女を睨んでいることに気がついた。


「悪魔…!」


「ニンゲン!」


 彼女はすぐに表情を鋭くすると、両腕を開く。

 すると、ピンク色の光の粒が彼女の両腕と両脚に集まり、次の瞬間には黒い籠手とスネや脚を守るプロテクターが現れた。

 彼女はすぐさま腰を落とし右の手の平を目の前の悪魔に向けると、霊力を右手に集中させた。


「『桜花拳おうかけん』!」


 彼女が叫ぶと、霊力が込められた桃色の気弾が、悪魔へと飛んでいく。気弾は悪魔へと当たりそうだったが、悪魔は凄まじい勢いで跳躍すると、彼女の頭上に飛び上がり、重力に身を任せて彼女の頭を割ろうと棍棒を構えた。


「シネェェエエエ!!」


 しかし、彼女はそれを見ると、すぐに頭上に来た悪魔へ狙いを定め、自分の脚のプロテクターに霊力を集中させ、同時に霊力で自分の身体を軽量化した。


「『初虹閃しょこうせん』!」


 彼女が叫んだ次の瞬間には、彼女の体は宙返りしながら空に飛び上がっていた。そして、霊力を集中させていたその脚で、迫ってきていた悪魔のアゴを思い切り蹴り上げると、ふわりとした動きで地上に着地し、悪魔を黒い煙に変えていた。


「…よし」


 彼女は敵を倒したのを確認すると、ゆっくりと立ち上がる。彼女の腕と脚のプロテクターは、戦闘を終えて光の粒にへと変化し、彼女は改めて正面を見回した。


「やっぱり菜々子はいない…大丈夫かな…」


「ヒャァアッハァアア!!」


 彼女が妹のことを考えていたほんの一瞬、背後から悪魔の声が聞こえてくる。

 彼女が振り向こうとした時にはもうすでに遅く、悪魔の強烈な一撃が、彼女の後頭部を襲っていた。


「いやぁっ!!」


 彼女は悲痛な悲鳴を上げながら吹き飛び、地面を転がる。なんとか意識を保った彼女は、3体の悪魔が自分に迫ってきているのに気がついた。


(どうしよう…逃げないと…!)


 彼女はそう考え、正面の3体から逃げようと地面を這いずって距離を取ろうとする。

 その瞬間、彼女の腕は、新たに現れたもう1体の悪魔に、思い切り踏みつけられた。


「!!」


 彼女が顔を上げると、悪魔が武器を掲げて彼女を見下ろしていた。


(嘘…!これじゃ…!)


「シネェェエエエ!!」


 彼女は必死にその場を逃れようともがくが、悪魔は無慈悲に叫びながら武器を振り下ろす。


(ごめん…菜々子…!)


 彼女は全てを諦め、目を閉じた。


 瞬間、次に聞こえてきたのは、悪魔たちの断末魔だった。


(…え?)


 彼女はゆっくりと目を開ける。

 そこには悪魔など1体もおらず、黒い煙の中に、黒いロングコートの剣士が1人、ゆっくりと刀を納めながら立っているだけだった。


(この人…助けてくれたの…?)


 彼女が呆然としていると、黒いロングコートの剣士、東雲幸紀は、彼女の方へと歩み寄り、しゃがみ込んだ。


「おい、生きてるか」


 幸紀は、目の前で倒れている、明るい金髪にピンクメッシュのミドルヘアをポニーテールにした女性に尋ねる。彼女は、ゆっくりと体を起こし、その場に座り込んだ。


「はい…いてて…助けてくれてありがとうございます…」


 彼女は後頭部を抑えながら幸紀に礼を言う。幸紀は、パーカー越しでもわかる比較的筋肉質な彼女の体つきと、今の様子を見て、ふと考えを巡らせた。


(この女…霊力も比較的上手く扱えていたし、悪魔とも戦えていた…人間にしてはやるな…俺には関係ないが)


 幸紀がそんなことを考えているのもつゆ知らず、幸紀に救われた彼女は汚れをはたくと、改めて居住まいを正して幸紀に頭を下げた。


「改めて、本当にありがとうございました!」


「…何度も言わなくていい」


「私、桜井さくらい日菜子ひなこって言います。お兄さんのお名前、教えていただけませんか?」


 日菜子は純粋そうな笑顔で言う。年齢は成人を越えていそうだが、その割には純粋そうな態度に、幸紀は小さくため息を漏らすと、名乗った。


「…東雲しののめ幸紀ゆきのり


「幸紀さん。幸紀さんって言うんですね。本当にありがとうございました!幸紀さんがいなかったら、今頃どうなってたか…」


「何度も言わなくていいと言っているだろう。ただの成り行きだ」


 幸紀はどこまでも純粋に感謝をしてくる日菜子を突き放すように言う。すると、日菜子は思い出したように着ているパーカーの内ポケットに手を突っ込んだ。


「そうだ、助けてもらったのに厚かましいとは思うんですけど…」


「助けてください!!誰か!!」


 日菜子が話をしようとすると、どこかから誰かの悲鳴にも似た叫びが聞こえてくる。

 幸紀がゆっくりと声がした方を向いたその瞬間には、日菜子は走り出していた。


「待っててください!今行き…うっ…!」


 日菜子は殴られた後頭部を抑えてしゃがみ込む。しかし、すぐに立ち上がると、おぼつかない足取りで声の聞こえた方へと進み始めた。


(人間の悲鳴…あちらに悪魔がいるということだな。好都合だ)


 幸紀はそう思うと、たどたどしい足取りの日菜子を追い抜き、声のした方へと早歩きで進んでいくのだった。




 日菜子を置いて声のした場所にたどり着いた幸紀は、暗い緑色の髪をサイドテールにし、赤い眼鏡をかけた、高校の制服姿の女性が、ビルの看板と思わしきものの下敷きになっているのを発見した。


「ここです、助けてください…!!」


 制服姿の女性は、腕こそ自由に動かせたが、胸から下は看板やガレキの下に埋まっている。幸紀が冷静に状況を観察していると、遅れてやってきた日菜子は、ガレキの下敷きになっている女性のもとに近づいた。


「大丈夫ですか!?」


「いいえ…上から落ちてきた看板に挟まれて….霊力で少しは身を守れたんですけど、全然抜け出せなくて…!」


 日菜子の質問に対し、制服姿の女性は身をよじりながら言う。しかし、すぐに制服姿の女性は呼吸を乱し始めた。


「ごめんなさい…このままじゃ、霊力も長く保ちそうにありません…助けてください…!」


「任せてください!」


 日菜子は二つ返事をすると、制服の女性の上にあるガレキを退かそうと、力一杯押していく。しかし、ガレキは少しも動こうとしなかった。

 同時に、幸紀たち3人の周りから、悪魔たちの唸り声が聞こえ始めた。3人が見ると、前と後ろから、それぞれ無数の悪魔たちの陰が迫ってきていた。


「す、すごい数…このままじゃ…2人とも、私のことは置いて逃げてください!」


 制服姿の女性は、自分たちが置かれた状況を察すると、日菜子と幸紀に向けて言う。しかし、日菜子は首を横に振った。


「嫌です!絶対に助けます!」


「でもそしたらあなたが殺されてしまいます!」


「だとしても!困ってる人が目の前にいるのに!見捨てることなんてできない!あなたのことは、絶対に助ける!」


 日菜子はそう言うと、霊力で自分の武器である籠手とスネのプロテクターを装備して、改めてガレキを思い切り押していく。そんな日菜子を横目で見ながら、制服姿の女性は訴えた。


「ダメですよ!今なら私1人が死ぬだけで済むんです!だから私を置いて2人で逃げてください!あなたたちだって家族がいるでしょう!?見ず知らずの人間のために死んでしまったら、家族が悲しみますよ!」


「私が他人を置いて逃げたって聞いた方が、うちの家族は悲しむよ!そりゃあああ!!」


 日菜子は口答えをしながらガレキを押し除けようと力を込める。しかし、日菜子がいくら押してもガレキは動く気配を見せない。

 悪魔はどんどんと近づいてきている。横並びになり、逃げ道を塞ぎながら。

 幸紀が無言で様子を見ていると、制服姿の女性は幸紀に叫んだ。


「そこのお兄さん!あなただけでも逃げてください!このままじゃ、私のせいであなたも…!」


「俺に指図するな」


 制服姿の女性の言葉に、幸紀は表情を変えないまま低い声で言い放つ。彼女が驚きで言葉を失うのをよそに、幸紀は霊力で刀を形作ると、背後から迫る悪魔の大群に向き合った。


「なんでですか!?こんな数の悪魔に勝てるわけがないです!私なんか構わず、早く逃げてください!!」


「ナメるな」


 幸紀は自分を心配する言葉を無愛想に払いのけると、悠々と、迫ってくる悪魔たちに向けて歩いていく。日菜子はそんな幸紀を見送ると、ガレキを押し続ける。制服姿の女性は俯いた。


「ごめんなさい…私のせいで…こんな…!」


「いいえ、顔を上げて!」


 制服姿の女性が弱音を吐いた直後、日菜子が明るく声をかける。制服姿の女性は顔を上げ、赤いメガネをかけ直すと、信じられない光景が繰り広げられているのに気がついた。


「アギャァアア!!」


「…え?」


 悪魔の断末魔と共に彼女が理解したのは、幸紀が無数の悪魔たちを相手に、一方的とまで言えるほどの攻撃を繰り広げている光景だった。

 幸紀が少し動くたびに悪魔が1体煙に変わり、悪魔が幸紀を攻撃しようとすれば、直後に悪魔の首が飛ぶ。壁のように並んで迫ってきていた悪魔たちは、瞬きする間に消えていき、彼女がもう一度メガネを掛け直した直後に見えたのは、1人だけ。刀を鞘に納める幸紀だけだった。


(嘘…30体はいるように見えた…それが、こんな一瞬で…1体倒すだけで、警官の人は何人も殺されてた…なのに、この人はたったひとりで、こんなに…!)

 

「よし、動きそう!せーの!」


 彼女が驚きを隠せないでいると、日菜子が声を上げてガレキを押す。日菜子がガレキを持ち上げると、制服姿の女性の足も、動けるようになった。


「今!」


「は、はいっ!」


 日菜子の合図に従って、制服姿の女性はガレキの下から這い出る。日菜子は、女性が脱出できたのを確認すると、ガレキから手を離した。

 女性はすぐに立ち上がると、日菜子に頭を下げた。


「助けていただいて、本当にありがとうございます!」


「無事そうで良かった!幸紀さん!救助できましたよ!って、あれ?」


 日菜子は女性の言葉を聞くと、幸紀を呼ぶ。しかし、日菜子が先ほどまで幸紀がいた場所に目をやっても、幸紀の姿はなかった。もしやと思った日菜子が反対側に振り向くと、幸紀は悪魔の群れの中で刀を振るっていた。


「やっぱり。手伝ってきますから、ここにいてください!」


 日菜子は制服姿の女性に言うと、幸紀の方に走り出す。制服姿の女性は、日菜子の背中を見ると、首を横に振った。


「そんなことできません!助けてもらった恩、少しでもお返しします!」


 制服姿の女性はそう言うと、右手を開き、そこに霊力を込めると、刃渡り90センチほどの剣を形作る。彼女はその剣を持ち、日菜子と共に、幸紀が戦う場所へと駆けつけた。

 しかし、時はすでに遅く、彼女と日菜子がたどり着いた頃には、幸紀は最後の1体を真っ二つに両断していた。


「…造作もない」


 幸紀は吐き捨てるように言うと、右手に握った刀を鞘に納める。そんな幸紀の横にやってきた日菜子と、制服姿の女性は、文字通り悪魔たちが一掃された周囲を見回し、言葉を失っていた。


「すごい…なんて強さ…」


 制服姿の女性は思わず呟く。幸紀はそれを一切気にせず、納刀した刀を光の粒に変えてどこかへと歩き去ろうとする。そんな幸紀を見て、制服姿の女性は幸紀の正面に回り込んだ。


「あの!助けていただきありがとうございました!そちらのお姉さんも、本当に!」


 女性は日菜子にも合わせて礼を言う。日菜子が軽く会釈をするのに対し、幸紀は足を止めて短く言葉を返した。


「礼などいらん。助けたつもりはない」


「でも結果として助けてもらいました!助けていただいたからには、しっかり恩返しがしたいです!」


 制服姿の女性は、幸紀に堂々と言うと、メガネを掛け直してからそのまま名乗り始めた。


「私は、千条せんじょう四葉よつばといいます!白鷺しらさぎ女子高校の2年生です!そちらのお兄さんと、お姉さんのお名前を教えてください!」


 制服姿の女性、四葉はハキハキと言う。それを聞くと、日菜子が幸紀の様子を見ながら名乗り始めた。


「私は桜井日菜子、私も、四葉ちゃんと同じで、そっちのお兄さんに助けてもらいました」


 日菜子はそう言って幸紀の方を見る。幸紀は肩をすくめてから無愛想に名乗った。


「東雲幸紀だ。忘れてくれていい」


「東雲さん…ですか。悪魔との戦いにすごく慣れてらっしゃるようですけど、東雲さんは、一体何者なんですか?」


「私も気になってました。私や四葉ちゃんみたいに、霊力を多少なら扱える人間もいるのは知ってたけど、幸紀さんほど強く扱えて、あんなふうに悪魔を倒せる人なんて、絶対ただものじゃないですよね?」


 幸紀の無愛想な態度を気にせず、日菜子と四葉は幸紀に尋ねていく。幸紀は表情を変えないまま、無言で考えた。


(面倒な女たちだな…こいつらが納得できるような、適当な回答を出さないと…)


 幸紀はそう思うと、ふと人間世界での自分の立場と、ここに来た表向きの理由を思い出すと、それを話し始めた。


「…俺は清峰侯爵の部下だ。だから悪魔とも長年戦っている」


「清峰侯爵…ニュースで聞いたことあります!悪魔関連の事件で、積極的に女王陛下や国会に訴えかけている人ですよね!」


 幸紀のひと言に、四葉が大きく反応する。幸紀は四葉の言葉を肯定すると、話を続けた。


「俺は侯爵の指示を受け、悪魔に対抗する部隊、『星霊隊せいれいたい』のメンバーを集めるためにここに来た」


「悪魔に対抗する部隊…それに入るための条件は!?今、何人いるんです?」


「加入の条件は…霊力を有して、悪魔に対抗できること。今のところ、メンバーは誰もいない」


 日菜子の質問に、幸紀は咄嗟に思いついた条件を加えて答える。すると、すぐに日菜子は手を挙げ、幸紀に言った。


「はい!私、星霊隊に入りたいです!」


「??」


「悪魔のせいで、いろんな人が困ってると思うんです。それを黙って見ていたくないんです!私は、多少なり霊力を扱えます。悪魔だって、1対1でなら倒したこともあります!それに…」


「それに?」


「…悪魔に襲われて、妹とはぐれちゃったんです。だから、星霊隊として悪魔を倒しながら、行方不明になった妹のことを探したいんです!お願いします!」


 日菜子は真っ直ぐな瞳で幸紀を見ながら訴え、そして頭を下げる。幸紀が無表情で戸惑っていると、日菜子の隣に立っていた四葉も話し始めた。


「東雲さん、私も星霊隊に入れてください!霊力は…あんまり強くないですけど…でも、できることはなんでも頑張ります!助けてもらったご恩を、なんとかしてお返ししたいです!お願いします!」


 四葉もそう言って頭を下げる。幸紀は追い払うつもりがそういかなかったことに頭を抱えた。


(…面倒なことになったな…いや、待て…ちゃんと強いやつを集めれば、それは巡り巡って悪魔どもを苦しめることになるのでは…だとすれば…)


 幸紀はふと先ほどまでの日菜子と四葉の言動を思い返し始めた。


(このふたりは俺に比べれば弱い。当たり前だ。だが、こいつらは愚かにも常に他者のことを考え、他者を救おうとする。そういう奴だからこそ悪魔の群れにも平気で突っ込む。となれば、弱くてもこいつらを味方にした方が、悪魔どもを蹴散らす機会は増える。言ってることは綺麗事だから人を騙して強い奴を集めるのにも使える。好都合だ)


 幸紀はそう結論づけると、頭から手を離し、日菜子と四葉を見下ろした。


「よし、わかった。君たちふたりを星霊隊として歓迎しよう」


「本当ですか!?」


 日菜子と四葉は声を揃えて幸紀に尋ねる。幸紀は二人を見下ろして頷いた。


「あぁ。日菜子、君が隊長だ。四葉、君は日菜子を支える副長をやれ」


「えっ、幸紀さんが隊長じゃないんですか?」


 日菜子が驚いて尋ねる。幸紀は一瞬下手を打ったのを悟ると、すぐにカバーを始めた。


「俺は星霊隊のメンバーを選ぶだけだ。実際に結成できれば、俺は単独で別行動をする」


 幸紀が言うと、日菜子も四葉も納得した様子で頷く。日菜子は四葉の方に向いて軽く会釈をした。


「そういうものなんですか…四葉ちゃん、頼りないリーダーだけど、よろしくね」


「いえこちらこそ!よろしくお願いします!桜井さん!」


 日菜子と四葉のやりとりを横目で眺めていた幸紀は、二人に尋ねた。


「俺は清峰侯爵の屋敷を目指す。君たちはどうする?」


「侯爵のお屋敷っていうと、霊橋区れいきょうくの方ですよね。途中に私の通ってる高校もありますから、東雲さんについていきます!」


「私も行きます!菜々子…妹も、そっちの方に逃げたかもしれないし!」


「ならまずは駅に行こう。電車が動けば、2時間程度で屋敷にいけるはずだ」


 幸紀はそう言うと、ひと足先に振り向いて歩き出す。日菜子と四葉も、幸紀のあとに続いて歩き始めた。


 正面しか見ない幸紀に対し、日菜子と四葉は周囲を見回しながら歩いていく。今3人が歩いているあたりには悪魔は全くいなかったが、それでも足元の人間の死体や、窓が割れたビル、崩れ落ちた看板など、悪魔が暴れ回り、平和だった街が破壊された形跡がそこかしこに見え隠れしていた。


「こんなの…ひどすぎる…悪魔たちはどうしてこんなことを…」


 日菜子は歩きながらふと呟く。幸紀は背中越しに聞こえてきた日菜子の疑問に、思わず答えていた。


「それが生きがいだからな」


「え?」


「他人が作ったものを奪い、壊し、それによってまた他のものを奪っていく。そうしていずれは全てを支配する。それが悪魔たちの目的だ」


 幸紀は吐き捨てるように言う。幸紀の語る言葉を聞いた日菜子は、悲しそうに俯いた。


「…それが本当なら、私、許せないです。殺された人たちにも家族がいて、必死に今日まで生きてきたはず。それを、そんな理由で奪うなんて…」


 日菜子の言葉を、幸紀は背中で受け止める。日菜子は顔をあげ、幸紀の背中に言葉を投げかけた。


「幸紀さん、私、強くなりたいです。星霊隊のリーダーとして、妹を持つ姉として、人間として。みんなを守るために、悪魔なんかに負けないくらい強くなりたいです。いっぱい色んなこと、教えてください」


 日菜子に言われると、幸紀はしばらく沈黙する。日菜子の言葉は、幸紀にとっては完全には理解しがたいものだった。


(他者のための強さ、か…俺には理解できんな。俺の力は、俺のためだけにある。結局、俺は悪魔で、この女は人間なんだな)


「幸紀さん」


「…わかっている。だが俺は手取り足取り教えるつもりはない。戦いの中で、自分なりに経験を積め。必要があれば、手伝おう」


 幸紀は日菜子に対して雑にあしらう。しかし、日菜子はそんな幸紀の言葉に、前を向いて明るく返事をするのだった。



数分後 12:10 千年町駅

 1時間前に幸紀が来た時には小綺麗で、人で賑わっていた駅の改札は、改札機が乱雑に破壊され、人間の死体が転がり、割れたガラスの破片や、ガレキがあたりに散らばっていた。


「ひどい有様…この駅、少し前に改装されたばかりなのに」


 日菜子が思わず呟く。四葉も言葉を失う中、幸紀は眉ひとつ動かさずに改札機の残骸を踏み越え、階段を降りてプラットホームにやってくる。

 プラットホームにも多くの死体が転がっており、いくつかの電光掲示板は落とされ、時刻表やベンチも破壊されていたが、悪魔の姿は見えなかった。

 幸紀は破壊されていない電光掲示板を見上げる。同時にそこに表示されている文字を読み上げた。


「『現在悪魔の襲撃により地上線全線で運転を見合わせています。運転再開のめどは不明です』、か」


 幸紀が読み終えると同時に、文字は流れていく。幸紀の隣でその様子を見ていた四葉は、幸紀に提案した。


「この書き方だったら地下鉄は動いているかもしれませんよ!2、30分は歩くことになりますけど、近くに地下鉄の駅があったはずですから、そっちを目指してみませんか?」


 四葉の提案を受けると、幸紀はスマホをコートの内ポケットから取り出す。マップ機能で確認しようとしたが、なぜか接続できなかった。


(悪魔軍の電波妨害か…わかっていたが、不便だな。この小娘の言うことが真実か確認もできない。地理に疎い以上は、従うしかないか)


 幸紀はそう判断すると、小さく頷いた。


「四葉の案に従おう。案内してくれ」


「了解しました!」


 幸紀に言われると、四葉は明るく答える。四葉が振り向いて階段を登っていくと、幸紀もそれについていくようにして階段を登るのだった。


 2人が改札前まで戻ってくると、日菜子が辺りを歩き回り、何かを探している。幸紀はそんな日菜子に声をかけた。


「おい、日菜子」


「あ、幸紀さん」


「これから四葉の案内で地下鉄を目指す。何をしていたんだ?」


「妹を探してました!もしかしたらいるかもと思って…」


「いたか?」


「いいえ…」


 幸紀に尋ねられた日菜子は、俯きながら答える。幸紀は表情を動かさず、無愛想に指示を出した。


「…そうか。とにかく地下鉄に行くぞ、お前の妹もそこにいるかもしれんしな」


「…はい!」


 日菜子は顔を上げると、力強く頷く。そして、幸紀の前を歩く四葉の隣に立ち四葉と共に幸紀を案内し始めた。


「四葉ちゃんの言う地下鉄って、南矢倉みなみやぐら駅のことだよね?」


「そうです!」


「だったら案内は任せて!近道知ってるんだ!」


 日菜子はそう言うと、駅の出口の階段を駆け下りる。四葉と幸紀も、それに続いて階段を降りると、日菜子はちょうど階段を降り切ったあたりで足を止めた。


「本当はこのまま真っ直ぐいくのが近いんですけど、人通りが多い分、悪魔も多いと思うんです。だから、左の人通りが少なくて近い…」


 日菜子が話していると、どこからか人の声が聞こえてくる。日菜子は話すのを中断し、周囲を見回し始めた。


「え?なに?」


「この声はどこから…?」


 日菜子と四葉が戸惑っていると、幸紀は1人だけ声のした方向を見て呟いた。


「上だ」


「えぇっ?」


 日菜子と四葉は信じられない様子で上を見る。すると、空から1人の人間が、悲鳴のような声を上げながら、幸紀たち3人の頭上へ降ってきていた。


「どどど、どうしよう!空から女の子だよ!?受け止めないと!」


「でも受け止めたら私たちも怪我しますよ!?助けられるかもわからないですし!」


 日菜子と四葉が軽いパニックに陥る中、幸紀は1人、腰を落とすと、自分の下半身に霊力を集中させ、大きく空へと飛び上がった。

 霊力によって身体能力を一時的に強化した幸紀は、10階建てのビルの屋上よりも高いところにいる、空から降ってきている人間のもとへ近づき、その人間をお姫様抱っこのような要領で抱えた。


「えっ!?」


「降りるぞ」


「うわぁああ!!??」


 幸紀は驚く相手をよそに、重力に身を任せて地上に降りていく。幸紀に抱えられている方は、たまらず悲鳴を上げるが、幸紀は気にせず、地上に着地すると同時に、霊力で衝撃を軽減した。


「幸紀さん!?」


「無事ですか!?」


 日菜子と四葉が幸紀に声をかける。幸紀は抱えていた人間をゆっくり立たせてから、短く答えた。


「あぁ。問題ない」


「そっちの人は!?」


 日菜子は、幸紀に助けられたその女性に尋ねる。その女性は、明るい水色の短髪をしており、豊かな胸と細い腰で、幸紀と比べて頭ひとつ小さい、女性としては長身な体つきをしていた。

 彼女は、まだ自分の身に起きたことがよく理解できないような様子で、幸紀に頭を下げた。


「マジでありがとっした、お兄さん。お姉さんたち、オレなら大丈夫だぜ」


 目の前の女性の口から聞こえてくるのは、やや低い女性の声、しかし口調としては男性のそれだった。日菜子と四葉が戸惑うのと同時に、その女性も、自分の声を聞いて驚いたようだった。


「ねぇ、オレ、なんか声変じゃね?」


「いや、綺麗な声だと思いますけど…」


「そんなわけねぇって」


 彼女はそう思って喉に手を当てようとすると、その手が自身の胸にぶつかる。彼女は自分の体に目を落とすと、大きな声を上げた。


「なんじゃこりゃぁ!?えっ!?えっ!?これ、まさか、胸!?」


「大丈夫?」


「ちょっとお姉さん、鏡貸して!スマホでもいいから!」


 彼女は慌てた様子で日菜子に言う。日菜子が慣れた手つきでスマホを操作してから手渡すと、彼女はスマホの内カメラで自分の顔と体を目の当たりにし、声を上げた。


「う、嘘ぉ!?オレ、オレ、女になってる!!?」


 彼女は自分の姿を見ると、信じられない様子で大声をあげ、周囲を見回すのだった。




隊員紹介コーナー


隊員No.1

名前:桜井さくらい日菜子ひなこ

年齢:21

身長:166cm

体重:58kg

スリーサイズ:B88(E)/W59/H86

武器:籠手とスネ当て

好きなもの:鍛錬

嫌いなもの:人を傷つけること

特技:力仕事

趣味:鍛錬

外見:明るい金髪にピンクメッシュ、ポニーテール

能力:霊力で体を強化して格闘する

紹介

幸紀に助けられて星霊隊に加入し、リーダーになった女性。

困っている人がいると、自分がどんな状況だろうと助けずにはいられないお人よし。

菜々子という妹を探している。



隊員No.2

名前:千条せんじょう四葉よつば

年齢:17

身長:157cm

体重:45kg

スリーサイズ:B82(C)/W59/H84

武器:剣(両刃剣)

好きなもの:可愛いもの

嫌いなもの:ルールを破る人

特技:勉強(学校で3位、全国模試で偏差値61)

趣味:かわいいグッズ集め、クラシック音楽鑑賞

外見:高校のブレザーに赤いメガネ、暗い緑の髪をサイドテールにしている

能力:霊力自体は強くないが、剣と飛び道具のリーチを活かす堅実な戦い方

紹介

白鷺女子高等学校に通う高校2年生で生徒会長。

生真面目で責任感の強い性格をしていて、曲がったことを許さない、典型的な優等生タイプ。

怒ると口調がキツくなりがちで、厳しくすると決めた相手には素直になりきれないタイプ。


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