ヒロインだってえっちしたい

上城ダンケ

第1話 映画研究部の水無瀬るらる

「どうしよう、慶太くん……」


 9月1日月曜日、2学期始業式の放課後。映画研究部の部室で高校2年で部長の水無瀬さんが目に涙を浮かべ、俺に訴えてきた。


「私、映画見るのは好きなの。だけど……作るのは……無理だよお」


 幼いころから映画、というより映画館それも映画館で食べるキャラメルポップコーンが大好きだったという水無瀬さん。ぽわっとしたゆるふわな雰囲気がとっても魅力的な女性である。


 下の名前はるらる。ひらがな三文字るらる。字面からして超かわいい。いうまでもなく美少女だ。


 そんな部長で美少女な水無瀬さんが泣きながら困っているのは、生徒会から「活動実績を作れ。10月の文化祭で自主映画を上映せよ」と命令されたからである。


 映画研究部には俺、鳴尾慶太と先輩で部長の水無瀬さんしかいない。春に入部した新入生は俺だけである。2学期から新入生が入ってくる可能性はほぼゼロだ。


 そんな二人だけの映画研究部の活動は「部室でお菓子食べながら映画鑑賞」。


 4月から7月まで、つまり1学期の間、そうやって過ごしてきて。だから部活動予算はレンタルDVD代とお菓子&ドリンク代に消えて。


 部活動計画書に書いてあった「新入生歓迎自主映画上演」とやらはやってない。ていうか、書いてあるの最近知った。


 貰った部費でビデオ借りてお菓子食べる。当然、生徒会は問題視した。活動計画に偽りあり。部費すなわち学校予算の横領ではないかと言ってきたのだ。


「どうしよう鳴尾くん。文化祭で映画上演しないと今まで使った部費、全部返さなくちゃいけないんだって」

「今まで使った部費……全部、ですか?」

「うん」


 映画研究部部費は10万円。既にその半分がその全てがDVDレンタルとお菓子&ジュースに消えている。すなわち5万円。ワリカンにして一人2万5千円。高校生にとっては大金だ。


「どうしよう。そんなお金ないよお」


 もちろん俺にもない。


「うーん……。生徒会の言うとおり、映画を上映するしかないです。昔の先輩が作った自主映画がどっかにないですか? それ上映するのでよくないですか?」

「そっか! そうだねっ!」


 入部以来起動したことのなかったデスクトップパソコンに俺と水無瀬さんの視線が集中する。


 そして起動。動画フォルダを開く。


「あった! あったよ、慶太くん!」

「おー結構な本数ですよね」


 希望に満ちた目で再生開始した俺たちだが、その希望はあっという間に打ち砕かれた。


「これ……昔の制服ですね」

「だね……」


 一番新しい動画で10年以上前だった。画面上で熱演を繰り広げる女子はセーラー服を来ていた。男子は詰め襟。今の制服は女子も男子も高名なデザイナーの手によるブレザータイプだ。


「使えないっすね」

「……うん。映画作るしかないね」

「生徒会から内容や分数の指定は無いんでしょ、水無瀬さん? だったら大丈夫ですよ。なんとかなりますって」

「慶太くん、もしかして映画作ったことあるの?」

「もちろんありません」

「だよね。鳴尾くん、もともとこの部活に入るつもりなかったくらいだもん。ごめんね、無理矢理誘ったりして」

「謝らなくていいですって、水無瀬さん。俺は映研が気に入っているんですから。入部したことを後悔したことはありません」

「ほ、ほんとう?」

「ええ」

「でも……私、結構強引だったよ?」

「とはいえ、最終的に映研に入部したのは俺の意思ですから」


 思い出す。水無瀬さんとの出会い。


「あの、お願いです! あと一人入部しないと……廃部なんです! あ、そこの君! 部活動、決まりましたか?」

「いいえ」」


 晴れて高校生となった俺は部活には入らず放課後はバイトでもしようかなと考えていたため、どの部活にも所属していなかった。


「だったら映画研究部に入りませんか!?」

「いや、俺、部活動に入るつもりは……」

「このままじゃ、廃部なんです! 部活動って、部員2名以上が条件なんです。今、私しかいないの! どうしても誰か入部しないと……今日で廃部になっちゃうんです!」


 涙目で水無瀬さんは訴えた。


 かわいかった。すごく、かわいかった。とてつもなく、かわいかった。

 小柄でちょっと幼い感じがして俺と同じ1年生、いや中学生に見間違えてしまいそうなくらい。


 白い肌はまるで陶磁器のように透明で滑らかだ。軽くウエーブした黒髪とのコントラストが美しく、神が揺れるたびになにやらいい匂いが漂ってくる。


「お願い!」


 くりん。大きな瞳が俺を見つめた。


「俺、映画とかあんまり……」


 水無瀬さんはいきなり俺の手を握るや俺の胸に飛び込んできた。


「入って! 少しだけでいいの! 幽霊部員でいいの! 来なくていもいいの! だから……入って!」

「えっと……」

「お願い! お願い! お願い!」


 ぐいぐい。水無瀬さんは身体を押しつけた。とっても柔らかいなにかが俺に当たった。


「入って!」


 ぎゅ。俺の手を握ってきた。

 15年間知らなかった女子の手。なんて……温かくて柔らかくて気持ちよいのだろう。さらに女子のいろんな部位が俺の体に当たっている。なんかすごくぷにぷにな気分だ。おまけになんか良い匂いがする。


 この状況で入部を断る男子高校生がいるだろうか。いやいない。


 とゆーことで俺は映画研究部に入部した。入部後は映画を見てお菓子を食べてジュースを飲む日々だった。


 映画部のソファは2シーター。昭和の時代からあるのではないかというその革張りソファは昭和らしくとっても狭かった。二人並んで座ると腰のあたりがくっつく。


 そして水無瀬さんがお菓子に手を伸ばすたびに肩が触れる。時には開いたポテチの袋の上で水無瀬さんの手に触れたりもした。


「ごめん、手、当たっちゃった」

「こ、こちらこそ」


 最初の方こそ謝っていた俺と水無瀬さんだが最近は謝らない。手が触れるなんてことは日常茶飯事になったからだ。


 部活が終わって鍵を警備室に返しに行くとき、水無瀬さんは毎日聞いてくる。「してほしいこと、考えた」と。俺は答える。「まだです」。


 それだけで十分だった。美しい先輩と過ごす放課後の数時間を楽しめればそれでいいと思っていた。そんな時間が続けば良いと願った。


 クラスに陽キャが多くていまいちなじめなかったとか、校則でアルバイトが禁止だったりとか、いろんなことがあったのだけれども、そんなことがどうでもよくなるくらい幸福な毎日だった。


 だが。そんな毎日は、今、生徒会執行部によって破壊されてしまった。


 10月の文化祭までに映画を撮影、上演しなければならない。今は9月の頭。約一ヶ月しか時間が無い。急がないと。


「あの、慶太くん。映画の内容なんだけど……」


 水無瀬さんが目と声に力を入れる。大きく息を吸って吐き出すように言った。


「私、ラブコメ映画を撮るつもり!」

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