第24話「平穏な朝」
「それでは皆様揃ったようですので会議を始めます」
任務開始の前日。深夜と言うには少し早い20時頃。
ラルが無事合流した丁度一時間後に会議は行われた。
ここにいる人達は私、勇人、ラル、島名、新城茜、緋狐、浅葱狐、十目裏炎弍、リスウェルの任務に関係しない者を含めた9名。
新城茜が前に会議室にいたように正面を向き後方左右に狐の少女が立っている。そして新城茜に一番近い席に島名が座らずに立っている。
「といっても人員は決まっていますので救出方法と時間の確認程度ですが」
今回救出に参加するのは私と勇人、緋狐、ラルの四名。
その他は中で残り、こっちが危なくなったら応援に行ける体制らしい。
「ラルが四名を回収し運搬。名無しが負傷者の手当て。勇人と緋狐はその護衛となります」
若干の戦力不足は否めないが不足分は茜が補助してくれると信じるしかない。
「例の場所に生き残りがいるのは確かめられましたか?」
「魂達が近くに行きたがらないので仲間かどうか見分けられませんが今は動かない魂が地下に三人、それと自由に動いている三人が見えます」
上を向き遠くを見透すようにそう言った。
茜の能力による魂の視界共有は魂を見るのに特化し障害物があろうと誰がどこにいるのかが分かるらしい。
─────だが、魂が近くに行きたがらない?
感じた疑問を茜に投げかけたが、理由は不明だと言う。ただ、4名が失踪した時と同種の感覚がそこからすると茜は言った。
「確かに指定されたこのポイント」
机に広げられた赤い線で丸く囲まれているとある点を指差し島名は納得したように続けた。
「教会には曰く付きの地下牢獄があります。ここに閉じこめられていると考えれば道理が通るでしょう」
「ああ。俺もそれを保証するぜ。勘だがな」
炎弐が雑に座りながら言った。
勘が頼りになるのかは定かではないが今は手がかりがこれしかない。
何がこの先に立ちふさがっていようと進むしか道はないのだ。
「教会は入り口が二つあります」
本来使用していたであろう噴水がある正面入り口と裏庭から外に通じる裏口。名無しは資料にあった知識が頼りに大体の構造を把握出来た。
「ですのでラルは裏口から。勇人と緋狐、名無しは正面から入って敵の注意を引いてください」
「いやいや待て!ワイ1人なん!?」
「はい。他に何か質問ありますか?」
「はいはい!ワイの方の戦力が不足してる!!!」
「ないようですので進めます」
「お〜い!!!!」
ラルの悲痛な願いは聞き届けられず会議を進もうとする島名を勇人があんまりだと思ったのか止めた。
「僕も流石に戦力が不足していると思います。リスウェルをラルの方につけるのはどうですか?」
「勇人……」
勇人の思いやりがある優しい提案に繰り返し頷き、やっぱり勇人が弟子でよかったと再度思うラル。
だが勇人による提案はある二人によって却下された。
「それは出来ねぇな。リスウェルはここにいるべきだ。じゃねぇと最悪全てが終わる。そんな予感があるからな」
他人には理解出来ない勘で判断する炎弐。
「そもそもそこまで弱くは無いですよ。この人は」
これまで付き合ってきたなかで出来た強さへの信頼で判断する島名。
信頼された嬉しさよりも放り投げられたような対応に二人に否定されたラルはしょんぼりと机に突っ伏しこれ以上は無理だと諦めた。
「話を戻します。勇人達は正面から敵を引きつけ、ラルがその隙に侵入し救出。このときラルがバレれば交戦し時間稼ぎ、バレなければ救出後札の合図で逃走してください。あとは個人の判断に委ねます」
「これって時間制限あるよね」
確か特殊型が来るのが………
「明日から明々後日に日付が変わる深夜0時。誤差はそこから最大6時間でこの街に特殊型が来ます。統計的にはですが」
「つまり明日の昼間12時から特殊型が来る最低6時間がタイムリミット」
時間としては余分にある。
こっちはそこまで気にしなくていいだろう。
「こんな所でしょうか。他には何か?」
「では不本意ですが私からある提案を」
茜のある救出成功率が上がる提案を最後に会議は終了した。
皆がこの会議室を立ち去る中、茜のお願いで私はこの場に残ることになり今は茜と私だけがこの場にいる。
「貴方は何のため戦いますか?」
ずいぶんとアバウトな質問を茜は投げかけた。
「人を助けるため?」
急な問いにぱっと出てきた答えは人を助けるため。だがこれが戦う理由なのかと言われれば少し違う。私はもう一度その問いに答えた。
「いや、みんなが笑えるような世界を作るため」
下を向かず今度は茜の目を見て確信したように言った。
「──────珍しくはないとは思いますが隊長と同じ理由なのですね………」
「え!そうなんだ……」
あの人が同じ理由で動いていたとは………。
「それで私に何でそんな事聞いたの?」
「………その目的が揺らがないよう強く持ってください。そう言いたかっただけです」
「?」
意図が読めない返答にどう返せばいいのか分からず首を横に傾け無言で相手の言葉を待った。
「今は関係ないですね。明日のご武運をお祈りします」
そう言い茜は部屋に入ってきた狐の少女二人に肩を貸してもらい左足を引きずりながらゆっくりと歩いて部屋を出ていった。
どこか怪我をしているのかと心配になって手助けしようとしたが茜が大丈夫だと言う。私は狐の少女に茜を託して部屋を出た。
そして私室につき布団の中に入って目を瞑った。だが思うようには寝れず不安が襲う。
──────明日死ぬかもしれない。
直接逃げる手段も戦闘力もなく、あるのは魔力と他人を癒す力のみ。
死ぬ時はあっさりと死ぬのだろう。
いやそうだ。死ぬのが一瞬なら怖くは無いはずだ。そう自分に言い聞かして不安を逸らそうとした
そんな事よりこの力をどう使うかを考えないと………。直接癒し助けることが出来るのは私だけなのたから。
そう考えた私はいくつものシチュエーションを考えていきそのうち何時しか恐怖は消え眠気がこの身を襲い現実と夢の境目が分からなくなり気づけばそのまま眠りについていた。
今日の朝食はいつも通りの時間だ。
しかし量がおかしい。
「好きに食べていいって言ってたけど………」
テーブルにあるいつもと同じような朝食が各人に配られた後、食いたきゃ食えばいいと言わんばかりに別のテーブルに朝食ではなく昼食のようなレパートリーのでかい皿に乗ったでかい料理が並べて置いてあった。
「あれはここにいるみんなで食べれるものなの?」
あまりの料理の大きさに余ってしまうのではないかと、食料が勿体ないと思ってしまうが心配はないと勇人。
「師匠と炎弐さんが大喰らいだから」
そうらしいと言うのは見れば分かった。一瞬でいつもの朝食を平らげもう別の料理に手を伸ばしている。
「おい、肉食えよ肉」
炎弐がトングで唐揚げを皿にめいいっぱいに入れてラルの皿を見て言う。
「肉も大切やけど、栄養バランスは考えたほうがええで」
対してラルは色とりどりに皿に料理を乗せていく。
「俺より食べれる量が少ないっていう言い訳だろ?」
煽るようにして言う炎弐。
「ああ?何やと!そんな訳あるか!」
炎弐の煽りに乗っかり唐揚げを次々入れていくラル。
「てめぇ!俺の肉だぞ!!」
「誰の肉でもねぇやろ!!」
言い争っているうちに見る見る唐揚げの山が減っていく。
「仲むずましいですね」
茜が二人を見て言い、浅葱狐によって料理が口の中に入れられた料理をゆっくりと食べていく。
普段こっちに姿を見せないのは自分の手では食べられず狐の少女に手伝ってもらって食べていて、見られると恥ずかしいという事かららしい。
今日ぐらいは顔を見せるべきだと思い来たのだという。
「いいよね。ああいうの」
唐揚げを頬張り相手の唐揚げを取ろうとしょうもないいたって平和、どこをどう見ても平和な日常に表情が緩む。
「もしよろしければ同じような相手になりますよ」
「あ、大丈夫。ていうか空飛ばれたら終わりじゃん」
リスウェルの提案を料理を食べながら問答無用で却下する。
ああ言うのは見てるのが一番楽しいのだから。
「では手が届く位置で………」
「八百長じゃん」
絶対に最後は私に勝たせるのだというのが分かりやはり却下したのだがショックを受けるリスウェル。
「ご主人様に尽くすことが出来ないなんて。死にます」
「ああ!待って!勇人が頼みがあるって」
「え!?僕!?え〜と…………」
急な無茶振りパスに言葉が詰まる勇人。
だが、何かを閃いたのかポケットから銀色の球を取り出した。
「これを取って来てください」
そしてボールを投げる勇人。
それを空中でキャッチし勇人に渡すリスウェル。
「う〜わ。メイドを犬扱いとか………」
「え?いや……違う!!ごめん!リスウェル。そんな意味じゃ!!咄嗟に思いついたのがこれだっただけで」
勇人は咄嗟に思いついたのが名無しの言葉で犬にやるやつだと気づきすぐさま否定するがリスウェルはさらに混乱を招くようなことを言った。
「犬扱いでも構いませんよ」
「ちょっと黙って!僕が人でなしだと思われるから」
任務が近いというにも関わらず私達は朝食は楽しく過ごした。
それは、これで最後になるかもしれないからか、不安を取り除こうとみんなの気分を紛れようとするからか。それは分からないけれどこの平穏が永遠に続いたらという願いはより一層理想の世界を作り出す決意を固めたと思う。
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