第21話「二つの国家」

「話は世界に魔力と呼ばれるものが観測された二十二年前の少し後、精霊種エルフ地霊種ドワーフと呼ばれる種族がこの世界で誕生し、二つの国家が設立された十二年前に遡ります」


 それは天より下りし世界の変革。


 魔素と呼ばれる物質が観測された二十二年前。

 世界が魔力に覆われ既存の種族、植生、無機物にまで影響を及ぼしたある世界初の魔力異常現象。


 ある一点からヲレイナス上に広がった白い光のように見える魔力が全ての始まりだった。


 ある種族は魔力に適合するように空想上でしか描かれなかったファンタジーな見た目へと────────。


 ある植物は現世にありし理から外れた見とれるほどの美しさとは反面、生きるための醜い残酷な姿を────────。


 ある鉱石は星々に引けを取らないほどに鮮麗に光り輝く魔力という未知をその身に含んだ姿へと────────。


 世界は魔力で満ち魔力にさらされ新たな姿へと変わった。


 そしてそれは人でさえも───。


 世界各地に現れた魔力による人類の突然変異種。

 人はそれをを二つの種族に分けた。


 耳が長く魔力を色濃く見ることができ、精霊と呼ばれる未知の物質を操るのに長けた種族を精霊種エルフと。


 背が低く力が人並み外れ、様々な魔力体に対する加工技術が優れた種族を地霊種ドワーフと。


 元々人間であると知りながら人類は身体構造の違いから全く別の種族と定義した。


 それほどに既存の生物とはかけ離れていたのだ。


「二つの種族が命名され、数年は嫌悪や畏怖から差別され酷い仕打ちを彼らは受けました」


 異なる外見は恐怖と畏怖を存在させ、世界には受け入れられなかった。


 この世ならざるとして粛清の名目で殺害、その希少性から売り飛ばされた例はいくつもあったらしい。


 混乱の渦にあった国々は自国で手一杯。

 差別の流れは止められず法律の制定には時間を要し、事が世界に関わる故対応は遅れることになった。


 結果、理解不能な生物に突如として生まれ変わった者たちは逃げ隠れするようにして世を渡った。


 もはや彼らに昔のようにかつての友、家族と過ごすなどという淡い希望など抱いてはいなく、ただただ平穏に命を脅かされない場所だけをを彼らは求めていた。


「ですがその時、二人の精霊種エルフ地霊種ドワーフは立ち上がりました。彼ら二人は世界の表に登壇し、そして宣言しました。誰にも脅かされず誰にも忌み嫌われないその種族だけの国家を精霊種エルフ地霊種ドワーフ同盟の元設立すると」


 精霊種エルフ地霊種ドワーフ同盟による国家設立宣言。


 各国は他の国々がどう出るかを様子見し、排他的な境遇に晒された二つの種族は国々が予想できないほどの早さで一箇所に集まった。


 この時点でもうすでに他国は介入する最後の機会となり、二人の王は目標達成はほぼ確実なものとなる。チェスでいうチェックを掴んでいただろう。


「そして、他を際置いて二つの国家は誕生したった一年で急成長。他国が無視できない国力を手にし二人の王達はある一つの要求をしました。正式な国家として世界から認めてもらいたいと」


 それは復讐の選択ではなく共存。

 かつてと同じように人が人と接するのと同じ扱いをしてほしいというただそれだけの純粋な願望だったと言われている。


 なんと慈悲深いと、皮肉にも過去の遺恨は水に流され精霊種エルフ地霊種ドワーフは世界の敵ではなく、世界の味方として好印象を持つに至った。


「手を取り合うか争うか二者択一の選択で人類は二つの種族を筆頭にした国家を正式に認めることになりました」


 これによりチェックはチェックメイトへと彼らは目標を達成した。


 精霊種エルフ地霊種ドワーフは二国の庇護下に入り安全は保証される。


 国家と認められた以上下手な手出しをすれば国際問題になりかねない状況。手出し無用の国家として世界に君臨した。


 脅威と見るか、世界の最先端技術を取引できる良き相手と見るか。どっちにしろ世界に居なくてはならない存在へと徐々に影響力を獲得していった。


「人類には到底理解できない精霊魔導学に長けた精霊種エルフと緻密すぎて人類の技術では真似する事が不可能な魔導加工学に長けた地霊種ドワーフ。二つの種族は力をつけていきました」


 地霊種ドワーフは単純な力と魔鉱石を活用した武具で武力に優れ、精霊種エルフは人間にはどう防ぐのかも分からない精霊を使った魔導技術と類まれな頭脳がある。


 純粋に考えて数以外は人間より優れている種族は力と金、影響力によって大国にまで上り詰めた。


「そして終末世界になった今でもその二つの国家は存続しています。地霊種ドワーフは地下に一人の王の元国家が存在し、精霊種エルフ安全圏境界アルウォスナレス内に一人の女王の元国家が地上に存在しています」


 長い話を終えた茜は一旦休憩をとり、位置替えで木の札と水筒を入れ替え水を飲んだ。


「そこまで詳しく知らなかったけどそんな歴史があったんだ」


「一応、一般的に学校で習う話にちょっとだけ公開されていない情報を混ぜただけですが」


 (くッ…。耳が痛い。学校に言っていたら知っている常識のようなものだったなんて………。でも仕方ない。お母さんに学校には行ってはいけないと言われたんだから。友達は居たよ。ボッチではなかった)


「それでアルウォスナレスって何?」


 茜の言葉から出た知らない単語を聞いた。


「魂喰霊を一切通さない国ごと覆う結界です。詳細

精霊種エルフが絞っているのでそれだけしか分かりませんが」


「え?今魂喰霊を通さないって言った!?」


「はい」


 当然のように当然じゃない事を茜は言った。

 魂喰霊を通さない。それは本当の安寧の地を意味する。何せ化け物に殺されるといった死におびえる恐怖がないのだから。


 もしその技術があるのならこの世界では無敵の要塞だと名無しは思った。


「そして、その二つの種族と私達前進隊は外交関係にあります」


 協力関係ではなく外交関係という点からゲートをどうにかする目的自体、完全には協力して居ないのだと名無しには感じ取れた。


「あとは残された四つの陣営。我々前進隊、教魔団は知っているとして残りの二つ。元々前進隊に所属していた者達について話します」

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