声が出ない僕の魂を刈りにきた悪魔の話。

鳩森穂々

六月二十一日 僕が彼女に出会った日


 夜になっても、暑いな……。


 服のすそをパタパタとあおぎながら、僕は病室の扉から、有り得ないものを見た。


 そこには、さっきまではいなかったはずの、ベッドの窓際で空を眺めて、どこか寂しそうな顔をしている美しい少女がいた。


 腰まである、ゆるりとカーブした黒髪に、月明かりに照らされた伏せられている紫紺の目。その煌めきに、思わず見とれてしまう。


 が、しかし、何よりも特徴的だったのは、その頭に生えた上にひねりながらそびえ立つ、黒曜のような厳かな艶めきを持つニ対の角。


 僕がいるのが窓の反射で見えたのか、角を持つ少女は一瞬泣きそうな顔をしたあと、ばっと僕の方を振り返る。そして今までの様子が嘘だったかのように、明るい笑顔で僕に告げたんだ。


「こんばんは! 私は悪魔! 君の魂をもらいに来たんだ!」




 それが、僕と彼女が初めて出会った瞬間だった。

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