第9話 自分の物は自分で買うのが普通です。

「ねえ、このノート素敵ね。お揃いで買わない?」

「遠慮します。私の趣味じゃないの」

「えーじゃあこっち?」

「遠慮します。私は買わないわ」

「もうっなんなのアネモネったら!」


 その台詞をそっくりそのまま返してやりたい。ダリアはどうしても私に何かを買わせ、そのついでに自分の欲しいものも一緒に払わせようとしている。ノート一冊くらい自分で買えばいいのに……もしかしたら他のものも色々と押し付けて払わせようとしているのかしら。


「買わないといっているでしょう? 私の財布を期待しても無駄よ、自分でお支払いしなさい」

「こ、こんな高級品買えるわけ……っ」


 ダリアは初めから自分で支払う気もないのに買い物に来たのね。図太さを通り越して感心すらしてしまいそうだ。


「良いじゃない、買ってよ」

「何がいいか分からないわ。自分のものは自分のお金で買うのが当たり前よ……失礼するわ」

「あっ待ちなさいよ! アネモネのくせに!」


 本当に私はどうしてこんな子と一緒にいたのかしら? ウィンフィールド家の馬車に乗り込んで扉を閉める。


「ちょっと! 私を置いて行く気!? ナルクに言いつけるからね!」


 叫ぶダリアを置いて家に帰る。ナルクに言いつけるってなんていうつもりなのかしら? 私がお金を払わなかったとでもいうのかしら? 当り前じゃない、自分の物は自分で買うのが普通だもの。


「疲れるわ。ルシー、家に帰ったら学用品の精査をするわ。まったく、今までの私は何をしていたのかしら? これでは皆さんに低く見られて当然ね」


 ため息をついて揺れる馬車の窓辺に寄りかかる。正面に座ったルシーは何故か泣いている……えっ?! どうしたの??


「お、お嬢様が、お嬢様が元に戻られたぁ! 学園へ行ってあの憎らしいダリア嬢と仲良くなられてからおかしくなったお嬢様が! ルシーは、ルシーは嬉しくて嬉しくて!」


 うわぁーん! と声をあげて泣くルシー。ああ、ごめんなさい、そしてありがとう。ルシーは過去私があの人達に騙され続けた時もずっとそばにいて親身になってくれた。いえ、我が家の使用人たちは全員私の味方だった。それなのに過去の私はナルクの言いなりになってこの優しい人たちを全員解雇してしまった。なんて無知だったんだろう。


 思えばナルクもダリアの言いなりだったのね。お父様が事故で亡くなり、ナルクしか頼れなくなった私は実に操りやすかったでしょうね。元々依存気質だった私……。自分にも言い聞かすようにルシーにハンカチを差し出して決意を新たにした。


「もう大丈夫よ、ダリア……いえ、あの子爵令嬢との縁は断つわ。だって我が家に何にも関係ないものね」

「ええ、ええ! むしろ敵対関係と言っても過言ではないのに、お嬢様はあんなに良くしてやって……私、私、苛立たしくて!」

「……本当にそうだわ……」


 ダリアの家、マリクス子爵家はお父様の政敵であるトッドリア侯爵家の遠縁のはず。何かきな臭さを感じる……これは調べる価値があることだ。

 過去の私はすべてナルクを信じて自分で調べることをほとんどしなかった。ナルクが財産管理や領地管理をせず、遊び回っていた時も何か理由があるんだと疑いもしなかった。そして私が異変に気付き、調べ始めた時はもう財政は破綻していた……。


 そんなんじゃ、駄目だ。


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