第6話 王都には二度と行きたくない

 (便利な場所ほど、心の休まる場所ではない)


「都会って、なんかこう……“めんどくささ”が凝縮されてると思うんだよね」


「朝から重いな」


「いや、心が重いんですよ。これから王都行くって考えただけで、もうだいぶしんどい」


「まだ行ってもないのに?」


「“まだ”じゃない、“すでに”しんどい」


 



王都――それは、この国の中心にして、異世界版“全部あるけど全部高い”場所。


魔導ギルド、騎士団本部、城下町、高級住宅街、転移者向けのカフェテリアまであるという噂。

けどレイの目的はただひとつ。


「買い出しです」


「夢もロマンもないね」


「必要な物があるの。洗濯ひもと、保存食と、あとできれば座布団」


「座布団?」


「地べた生活、そろそろ腰が泣いてる」


 


王都の門をくぐった瞬間、人の波に飲まれる。


転移者風の服装、魔術師風の杖、ドワーフ風のヒゲ、よく見たらスライム風の帽子。

なんでも“風”がつくとオシャレになるらしい。風だけに。


「うわぁ……人多すぎる……」


「ここ、平日の朝だよ? なんで祭りみたいな混み具合なの?」


「“今月の魔導祭”ってチラシあったよ」


「月イチで祭りするの、もうそれ恒例行事じゃん」


 



人波をかき分けて市場にたどり着いたレイは、目的の雑貨店を発見。


「すいませーん、洗濯ひもってあります?」


「あるよ、でも今週ちょっと高いよ。素材が魔物の腱だから」


「腱!? もっとこう……麻とか……布とか……そういうのでいいんですけど」


「じゃあ“腱じゃないほう”は銅貨6枚」


「そのネーミングどうにかならなかったんですか、“腱じゃないほう”って」


 


次は保存食屋。


「干し肉、これで1週間もつよ。味は……うん、たぶん大丈夫」


「今の“たぶん”が一番信用ならない」


「気になるなら、“味見用サンプル”あるよ。1口で銀貨1枚」


「それもう味見じゃなくてフルコースの価格ですけど!?」


 



なんやかんやで買い物を終え、王都のベンチに座る。


「……人の多さでMP削られる世界、初めて見た」


「王都って、物も人も“多けりゃいい”って思ってるよね」


「逆に減らしてくれ。あと、喧騒に魔力とか使ってんじゃないかってくらい騒がしい」


「ていうか、今、騎士団の募集車が通ったけど、“即日入隊OK!”って叫んでたよ?」


「ファスト就職かよ……異世界の就活、恐ろしいな……」


「ちなみに“王様の趣味で突然リストラされる”って話もある」


「なにその人事フリーダム制度……」


 



歩いていると、観光案内所で転移者向けパンフレットを配っていた。


《王都生活スタートガイド:この街で“成功する人”と“迷う人”の違い》


「表紙がすでに圧かけてくるタイプ」


「“迷う人”の99%が“方向音痴”って書いてある」


「残りの1%が“心の迷い”って書かれてて震えた」


 


結局、レイとトトは1泊だけして王都をあとにした。


帰り道、夕焼けの道を歩きながらレイはしみじみとつぶやく。


「王都、もうしばらくいいかな……」


「都会の空気は毒だった?」


「人混みと価格とテンションの高さに、心がやられました」


「それでもまた行くんでしょ? どうせ何か買いに」


「うん……でも次はネット通販が発達してからにするよ」


「この世界、通販ねぇよ」


「じゃあ……王都在住の知り合いがほしい」


「お金じゃ買えないやつきた」


 



今日のまとめ:

王都には何でもある。

でも、落ち着きはない。

本当に必要なものって、

だいたい騒がしくないところにあるのかも。


【トト】「結論、“都会で消耗した人”のテンプレだね」


【レイ】「でも干し草のベッドが一番落ち着くのは事実だからね……」




次回 → 第7話「迷宮の出口でお待ちしています」

依頼主:近所のおばあちゃん。

配送先:ダンジョンの奥。

荷物:爆発物。

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