第6話 王都には二度と行きたくない
(便利な場所ほど、心の休まる場所ではない)
「都会って、なんかこう……“めんどくささ”が凝縮されてると思うんだよね」
「朝から重いな」
「いや、心が重いんですよ。これから王都行くって考えただけで、もうだいぶしんどい」
「まだ行ってもないのに?」
「“まだ”じゃない、“すでに”しんどい」
◆
王都――それは、この国の中心にして、異世界版“全部あるけど全部高い”場所。
魔導ギルド、騎士団本部、城下町、高級住宅街、転移者向けのカフェテリアまであるという噂。
けどレイの目的はただひとつ。
「買い出しです」
「夢もロマンもないね」
「必要な物があるの。洗濯ひもと、保存食と、あとできれば座布団」
「座布団?」
「地べた生活、そろそろ腰が泣いてる」
王都の門をくぐった瞬間、人の波に飲まれる。
転移者風の服装、魔術師風の杖、ドワーフ風のヒゲ、よく見たらスライム風の帽子。
なんでも“風”がつくとオシャレになるらしい。風だけに。
「うわぁ……人多すぎる……」
「ここ、平日の朝だよ? なんで祭りみたいな混み具合なの?」
「“今月の魔導祭”ってチラシあったよ」
「月イチで祭りするの、もうそれ恒例行事じゃん」
◆
人波をかき分けて市場にたどり着いたレイは、目的の雑貨店を発見。
「すいませーん、洗濯ひもってあります?」
「あるよ、でも今週ちょっと高いよ。素材が魔物の腱だから」
「腱!? もっとこう……麻とか……布とか……そういうのでいいんですけど」
「じゃあ“腱じゃないほう”は銅貨6枚」
「そのネーミングどうにかならなかったんですか、“腱じゃないほう”って」
次は保存食屋。
「干し肉、これで1週間もつよ。味は……うん、たぶん大丈夫」
「今の“たぶん”が一番信用ならない」
「気になるなら、“味見用サンプル”あるよ。1口で銀貨1枚」
「それもう味見じゃなくてフルコースの価格ですけど!?」
◆
なんやかんやで買い物を終え、王都のベンチに座る。
「……人の多さでMP削られる世界、初めて見た」
「王都って、物も人も“多けりゃいい”って思ってるよね」
「逆に減らしてくれ。あと、喧騒に魔力とか使ってんじゃないかってくらい騒がしい」
「ていうか、今、騎士団の募集車が通ったけど、“即日入隊OK!”って叫んでたよ?」
「ファスト就職かよ……異世界の就活、恐ろしいな……」
「ちなみに“王様の趣味で突然リストラされる”って話もある」
「なにその人事フリーダム制度……」
◆
歩いていると、観光案内所で転移者向けパンフレットを配っていた。
《王都生活スタートガイド:この街で“成功する人”と“迷う人”の違い》
「表紙がすでに圧かけてくるタイプ」
「“迷う人”の99%が“方向音痴”って書いてある」
「残りの1%が“心の迷い”って書かれてて震えた」
結局、レイとトトは1泊だけして王都をあとにした。
帰り道、夕焼けの道を歩きながらレイはしみじみとつぶやく。
「王都、もうしばらくいいかな……」
「都会の空気は毒だった?」
「人混みと価格とテンションの高さに、心がやられました」
「それでもまた行くんでしょ? どうせ何か買いに」
「うん……でも次はネット通販が発達してからにするよ」
「この世界、通販ねぇよ」
「じゃあ……王都在住の知り合いがほしい」
「お金じゃ買えないやつきた」
◆
今日のまとめ:
王都には何でもある。
でも、落ち着きはない。
本当に必要なものって、
だいたい騒がしくないところにあるのかも。
【トト】「結論、“都会で消耗した人”のテンプレだね」
【レイ】「でも干し草のベッドが一番落ち着くのは事実だからね……」
次回 → 第7話「迷宮の出口でお待ちしています」
依頼主:近所のおばあちゃん。
配送先:ダンジョンの奥。
荷物:爆発物。
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