第6話 優子と智子の拉致未遂、2017年11月24日(金)深夜

 JR東海の21:51東京着のぞみ52号で大阪から東京に戻ってきた優子と智子は、東京駅のオフィスで報告と翌週のスケジュール調整を終えた。私服に着替えた二人は、いつものように山形新幹線のホームの喫煙室でタバコを吸う。智子は吸わないのだが、長時間禁煙していた優子に付き合う。


 楊少校の部下の屈強な体格の男が彼女らの後を尾行していた。彼女らを尾行していた富田の部下の二人の公安警察の人間がその男に気づいた。わざと尾行に気づかせたのを公安の人間は知らなかった。彼らは、富田に連絡した。富田は、警視庁大井警察署の所轄の警官5名に尾行のことを知らせ、待機させた。


 富田が紺野のスマホに電話した。「紺野三佐、優子と智子に尾行がつきました。かなりガタイの良い男性のようです」

「そうか、今度は三國と小林に狙いをつけたんだな。尾崎と比嘉ひがの警備は?」

「尾崎技官の錦糸町のマンションには、警視庁本所警察署の所轄の警官が12名、公安警察関係者は5名。駒込の比嘉ひが美香のマンションには、警視庁駒込警察署の所轄の警官が8名、公安警察関係者は4名です」


「遠藤の北千住のマンションには、警視庁千住警察署の所轄の警官が15名、警察庁公安警察関係者は5名だったな。そうか、奴ら、三國と小林の方が手薄と踏んだのか。おい、富田、私たちも大井町に向かおう。東京から大井町までJRで13分くらいだったな。今、三國と小林はどこに?」

「東京駅の山形新幹線ホームの喫煙室で雑談中です」

「よし、富田は大井町までどのくらいで着く?」

「30分で優子と智子のアパートの近くに着きます」

「よし、すぐ出発してくれ。私も同じくらいに着く。中国人共め、一網打尽にしてやる」


 優子と智子のアパートは、JRの引込線区を左手に見てJR大井町駅から500メートルにある。徒歩で約8分。富田は、大井警察署の所轄の警官5名に連絡して、浅間台小学校の線路側の植え込みに3名、ゲームカフェの手前の路地に2名を配置した。優子たちと男を尾行している公安の人間2名に配置を知らせる。7名と俺と紺野二佐で9名。なんとかなるだろう。ただ、所轄の人間は銃を携行させていない。急な事態だったのだ。銃を携行しているのは俺と部下の2名。紺野二佐は自衛隊の人間だから銃は持っていないだろう。


 路地が多いのが気になったが、片側はJRの引込線だ。右手だけに注意しておけばいい。富田は彼女らのアパートの手前の内科医院の横道で紺野と落ち合った。その横道に富田と紺野は車を駐車した。


「紺野さん、男が通り過ぎたら所轄に職質させますか?」

「いや、三國と小林の確保を優先だ。男一人なのか?」

「報告ではそうです」

「う~ん、所轄には周囲を見張らせたか?」

「アパート近辺に誰も不審なものはおりません」

「そうか。どうするかね?」

「優子と智子、男が、浅間台小学校の3名とゲームカフェの2名の間に入ったら、逮捕しましょう。男を尾行している俺の部下が2名。そして俺。優子と智子の確保は大丈夫でしょう」

「わかった。私は?」

「ここで、車の中で待機していて下さい。自衛隊員は民事に介入しちゃマズイ」

「了解だ」


 二人は建物の影に潜んだ。線路沿いの道を優子と智子と思われる人間が通り過ぎた。その後、20メートルほど離れて、体格のいい男が通り過ぎる。更に100メートル後に公安の人間が2名。富田は彼らに合流した。


 富田たちがゲームカフェを通り過ぎる。所轄の人間2名も合流する。これでこちらは5名。浅間台小学校の3名もアパートの方に行かせる。


 アパートの手前で、富田の側の所轄の人間が男に声をかけた。「もしもし、あなた、ちょっと質問があるんですが・・・」と男に声をかける。「え?俺ですか?」と男が答えた。浅間台小学校の3名は優子と智子に近づいた。優子と智子は、警官の職質の声に振り向いた。


 品川方面から、大型LLクラスの黒のミニバンが音もなく浅間台小学校の3名の後ろに来る。ハイブリッドタイプで低速なのでモーター走行で無音だった。ヘッドライトもテールランプもオフになっていて、ナンバープレートのランプも抜いてあるのだろう。真っ黒な車体色。


 ミニバンの後部座席のスライドドアが開く。男が2名降りて来る。バラクラバ帽をかぶっている。彼らは無言で、浅間台小学校の所轄警官3名の脚を撃った。サプレッサー(消音器)付きの銃で、シュポという音しかしなかった。彼らは優子と智子に駆け寄ってくる。


 瞬間、何が起こったかわからなかった富田は、事態を飲み込むと、公安の2名に男を指さした。公安の2名が男と対峙する。彼らを大回りして、富田と所轄の警官2名が優子と智子の方に駆け出す。


 男を確保しようとした公安の2名は、銃を引き抜いた。しかし、男のほうが速く、サプレッサー(消音器)付きの銃で彼らの右手を撃ち抜いた。


 男は富田たちの方に駆け出した。今度は逆に、男とバラクラバ帽の2名に富田、所轄の2名、優子と智子が挟まれることになった。内科医院の横道から事態を覗いていた紺野は、男の後を追って車を発進させた。


 富田が、優子と智子の後ろに近づくバラクラバ帽の二人に発砲。富田のもサプレッサー(消音器)付きの銃だ。彼らも撃ってくる。所轄の警官が線路側に退避した。富田の弾丸が二人の腕に当たった。二人の後ろからミニバンが近づく。男二人は速度を落とさないミニバンに飛び乗った。


 紺野は、男に撃たれた公安の人間を追い越し、男を後ろから車で跳ね飛ばす。男は前につんのめった。持っていた銃が吹っ飛ぶ。それでも男は起き上がって、富田の方に向かっていく。富田が振り向いた。男は大型ナイフのようなものを胸元から引き抜いた。


「いい度胸じゃねえか。ナイフかよ。こっちは銃だぜ。降伏しろ!」と富田が怒鳴った。間合い2メートル、銃がはずれるわけがない。


「そうかね、富田警視。ナイフは飛ばないとでも思っているのか?」富田警視?男は富田の所属を知っていた。男が流暢な日本語で言うとナイフを富田の前に突き出し、握りのボタンを押した。ラッチが外れ、刀身が発射される。ナイフはスペツナズ・ナイフだった。握りに内蔵したスプリングの力で刀身を射出することができる特殊武器だった。


 富田はとっさによけようとしたが、刀身が右肩の上をかすった。


「富田警視、また会おう」と男が富田に声をかけて、横を通り過ぎた。アパートの手前で座り込んでいる優子と智子をチラッと見ると、彼女らに手をかけるでもなく、横に来たミニバンに乗り込む。ミニバンは、素早くUターンして品川方面に逃走した。

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