シスターリノと20人の追放系主人公

龍田乃々介

第1話 黒っぽくて短い髪のパッとしない顔をした男が20人も

 礼拝堂に入ると、シスターリノはぎょっとして立ち止まった。

 ぱっと見20人くらいの同じ顔の人間がこちらを向いていると思ったからだ。


「わっ。……えぇ?」


 よく見ると彼らは一人ひとり違う顔をしている。

 だが全員が短く黒っぽい髪をしていて、身長は平均か少し高いくらいで、冴えない顔で疲れたような表情をしていることは共通していた。


 シスターは戸惑いをもごもごと口内に渦巻かせながら壇上に上がる。


「えっとぉ……ミサの前にお集まりのみなさんにお聞きしたいんですが……」


 同じ特徴を持つ違った男たちの視線が集まる。

 シスターはため息を吐くような調子で訊いた。


「みなさんどっか別の宗教上の理由でそういう容姿だったりします……? うちはクラスト教の教会なんですが……」


 質問を受けた男たちは、答えを返す代わりに周りを見回した。

 左右、前後の男たちの顔を見て、彼らは驚愕の表情を浮かべる。

 気づいてなかったんかい。 シスターリノは密かにツッコんだ。


「あ、あはは。ほんとだ、なんか似てますね僕たち」

「へえービックリだ。こんなことがあるもんなんだな」

「運命的なものを感じる」

「他人とは思えない……」

 男たちは顔を見合わせて疲れた顔に朗らかなほほえみを浮かべた。

「わあー偶然でこんな集まったってことですかー? おもしれー……」

 言葉とは裏腹に、どうしたものかと辟易するシスター。


「実は俺、今日突然パーティを追放されたんだ。これからどうしようか迷ってたらこの教会が目に入って……、神様の教えでも聞きながら考えるのも悪くないかなと思ってここに来た」


 一人が突然周りの男たちに自分語りを始めた。

 おいおい、と言わんばかりのじとりとした目をシスターが向けるのも知らず、その横に座っていた男が続く。


「奇遇だな、オレもだよ。小さいころからお世話になってたパーティなんだけど、お前は全然役に立ってないからいらないって言われてさ……」


 流れ出した水は止まらない。男たちは次々に語り出す。

「僕もだ! 荷物持ち、料理当番、アイテム管理と色々やってきたんだが、戦闘で貢献できないなら辞めろって言われて……」

「俺もだよ。大盾持ちをやってるんだけど、パーティの火力に繋がってないだろってクビにされちまった」

「ぼくは回復術師なんですが、回復させるのが遅いと言われてしまいました。まあ、これは僕が悪いんですが……」

「オレもそんな感じ。S級錬金術師のクセに戦闘中の調合もできないようじゃ一緒に戦えないってさ」

「俺も。俺は斥候役なんだけど……」「僕も。精霊使いで……」「僕は強化術師で……」



 十分後、礼拝堂奥の扉から菓子の袋を脇に戻ってきたシスターが目にしたのは、傷の舐めあいにすっかりお熱の男たちだった。


「みなさんまだやってたんですか」

「あっ、シスター。 ……なんですかそれ」

「故郷のお菓子です。ジャガイモを狂ったように薄くスライスして油で揚げたものですね。で、あなたたち結局どういう集まりだったんですか?」


 また顔を見合わせる男たち。しかし彼らはもう他人ではなく、兄弟のような繋がりで結ばれた一つの共同体だった。

 その共同体を端的に言い表すなら……。彼らの一人が全員の答えを代表した。


「追放者仲間です。僕たちみんな、今日突然パーティを追い出されちゃったんですよ」

「追放費用無料キャンペーンでもやってたんですか今日?」


 どっと笑いが巻き起こる。古巣を追い出されたすぐあとらしいが、彼らの声はすでに軽やかだった。

 こういうカウンセリングあった気がするな……。シスターリノはそう思った。


「まあ、みなさんの心が救われたのでしたらなによりですね。あ、そうだ。これも何かの縁です。追放者同士でパーティなりクランなり結成なさってはいかがですか?」


 ジャガタラ芋のチップスを口に放り込みながらシスターは提案した。

 思いつきをそのまま言ったが、自分でも案外悪くないと思ったので続けて言う。


「ほら、みなさん追放されたそうですけど、それって仕事に貢献できてなかったら即日クビのきびしーパーティが20コもあるってことじゃないですか。追放者一人あたりに他のパーティーメンバー4人いると仮定したら、80人以上ですよ? 再就職先、不安じゃないですか?」

「確かに……」

「言われたらちょっと不安になってきた……」

「そうでしょうそうでしょう。だから追放される苦しみを知る者同士でパーティを組むんです。無能なのももう承知の上ですし安心できるでしょう?」

「ひどい言い方だけど……、それもそうだな」

「お互い迷惑かけちゃうのをあらかじめわかってるわけだから、気楽にやれそうだよね」


 ざわざわとした活気が追放者たちの胸に湧き上がってくるのを、シスターリノは見て取った。

 うし、良いことしたわ。リノは心中でそう呟き、開けた口にチップスを放り込む。

 良いことをしたあとのスナック菓子の美味さはひとしお。

 奥の休憩室でゆっくり楽しもうと、彼女はその場を後にしようとした。


「シスター待って! ご相談したいことがあるんですが!」

「んぇ?」


 追放ブラザーズはその量産型のような顔がよく見えるよう横一列に並んでいた。


「実は俺たち、みんな口下手なところがあって……」

「? 今打ち解けてるじゃないですか」

「それはまあ同じ境遇だったから……なあ」「そうじゃなくて、強く言い出せないというか、重要なことをすぐ決められないというか……」「主体性がない、ってやつかもな……」

「はあ。 ……え、なんですか?」


「つまり、ぼくたちだけじゃパーティもクランもまとまらなそうっていうか、ね」


「ぶっちゃけ、クランマスターがいてくれると助かるって話だな」



「は、え?」


 視線はシスターリノに集まっていた。




「えぇ……ええぇぇぇぇぇぇぇ…………んまあいいですけど」

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