空想を演じる底辺役者〜キャラ設定でデスゲームを生き残る〜

リズリンザ

プロローグ

 真っ暗な部屋の中に大人数の人間が閉じ込められている。


「退けって!!! 邪魔だよおばさん! 死ぬならアンタみたいな年増が死ねや!!! 俺はまだまだ生きるんだよバーカ!!!」


「はァ!!? アンタみたいなガキなんかよりも私の方が命の価値は高いのよ!!? 死ぬならアンタが死になさいな!!!!」


「おま!! ブッッ!!」


 空を蹴って猛獣から逃げ回る少年と、その少年の足にロープを巻き付けて地面へ叩き落す婦人。

 お互いがお互いにを擦り付け、我先にとその何かから逃げようとお互いの足を引っ張る。


 しかしそんなことをしては生き残れない。

 逃げるなら他人に干渉せずに徹底的に。

 妨害するなら何が何でも他人を囮にするのだと執拗に妨害を。


 何かに徹底しなければこのゲームは生き残れず、甘い覚悟で挑む者は殺される。


「おい、猟銃のおっさん死んじまったぞ!? 弾もなんも効かねぇってアイツ!!」


「お、おまえ! お前確かなんか攻撃できるんだろ!? やってみてくれって! もしもんときはお前のことは守ってやるからよ」


「え、えぇっと。「早くやれ!!!」は、はいぃ! やってみますぅぅ!」


 気弱な青年の腕が変形し、弓の形になる。

 引き抜いた髪の一本が矢となり、腕の弓に番える。


 手本のようなきれいな所作で矢を引き、少しの溜め―――発射。


「GIaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」


 空気を裂く音すら鳴らさずに飛んで行った無音の矢は猛獣に突き刺さり、猛獣が叫び声を上げる。


「さ、刺さった!!」


「おーし、よくやった!! じゃ、お前ヘイト担当でよろしくゥ!!」


「え、守ってくれるっていう約束は……」


「そんなん守るわけないじゃん!! 誰かが気ィ引いてくれりゃそれで十分だったんだよォ!!」


「そ、そん―――


 青年の上半身が消える。

 下半身からは血を噴き出しながら力なく倒れ、その場に血の池を作り出す。


 青年だったものを咀嚼し、飲み込む。

 そして次の目標を探すべく猛獣は部屋の隅々まで目を凝らす。


 逃げ惑う者、囮を作る者、隠れる者、犠牲になる者。様々な人間がフィールドを走り回り、お互いを害し、お互いを陥れようと知恵を回す。

 そんな光景を見た猛獣は、小さく笑って一番近くにいた人間へと飛び掛かる。


 程よく引き締まった身体、硬すぎない筋肉、多すぎない脂肪。さぞ美味いだろう。

 次の瞬間にはその肉の感触と風味が口の中に広がることを疑わず、大きくその顎を開き、獲物を口内へと招き入れる。





 次の瞬間、口内に感じる灼熱。

 溶岩を思わせるその温度にさしもの猛獣も耐えられずに口を開けて獲物を吐き出す。


「おぉ~、いいじゃねぇかこの身体。食われそうになった時に使えるな。でもよぉ、お前の表皮に炎が効かねぇことは分かってんだよなぁ……」


 炎が喋っている。

 もはや炎そのものが人の形を取っているかのような存在を前に猛獣は一歩下がる。

 だが、自分の体のことを思い出して二歩前に進む。


 自分の身体に炎は効かない。

 今のは口の中が熱かっただけだ、と自分に言い訳をしながら。


「しゃあねぇ。この身体じゃ無理ならよォ―――こっちの身体で切り刻むまでですわ」


 炎が消えて人間が現れる。

 先ほどの炎よりも一回り小さくて声も違う。

 しかしその姿は先ほどの人間よりも魅力的に見えた。

 柔らかそうな皮、肉、骨。すべてにおいて猛獣にはご馳走にしか見えなかった。


 目の前の小柄になった人間へと飛び掛かり、その肉を咀嚼しようとした瞬間に体に現れる激痛。


 全身の健が断ち切られ、猛獣がその場に崩れ落ちる。


「勝負アリ、ですわね―――さっさと殺して肉にしてしまおう」


 手に持ったナイフを弄びながら猛獣へと近づく青年。

 今までのどの姿とも違う柔和な笑みを浮かべた平凡な人間。


 それが、今あまたの命を奪った猛獣の首を切り裂かんとゆっくりと歩みを進める。


「やっぱり昔に演じた役は良いね。すっと体に馴染む。協力的だしね」


 ナイフをしっかりと握って、剥き出しになった猛獣の首の付け根へと向かって構え―――


「じゃ、これでゲームクリアだ」


 それを振り下ろした。

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