第1ゲーム:殺ってみよう、猛獣君解体ショー(人間も死ぬよ)
第6話 檻
「さて、では説明の為にも全員落っこちてもらいましょうかね。あそれポチッとな」
バカン!!と大きな音を立てて床が開き、それに従って参加者たちの身体も落下していく。
浮遊感を身体全体に感じながら、真っ直ぐに落下していく。
落下時間は相当に長く、体感として20秒程度だろうか。落下の瞬間にはパニックで大声を上げ叫ぶだけになっていた参加者たちが段々と顔面蒼白になっていきながら黙り込む。
これから死ぬのだと確信しているのだろう。
声こそ出していないが、春瀬もかなり恐怖の感情に支配されており、この後人体の無事が保証されていないことは分かっていた。
これだけの時間落下していれば、落下速度は時速700kmにも相当する。そんな速度で地面に衝突すれば、人体がどのような結末を迎えるのかなど想像に難くない。
―――デスゲームの移動で全員を殺す気か? 殺し合いをさせるのが目的じゃないのか? いや、あのゲームマスターのことだ。落下している最中の僕たちの様子を観察するためにわざとこういった演出にしている可能性も十分にあり得る。
そう考えていると、下からバカン!!と床が開いた時と同じような音が鳴り、次の瞬間には地面へとたどり着く。
しかし全員が予想していたような凄惨な死体となった人物は存在せず、床にクッションなどは一切敷かれていないのにも関わらず誰一人として怪我をしていない。
もはや魔法の類だ。現代の科学でも説明が出来ないこの現象に参加者たちは小さなざわめきを起こす。
―――訳の分からない超常の能力とやらを僕たちに与えることのできる人物だ。このくらいのことなら出来て当然なのかもしれない。にしても黒いなこの部屋。
参加者が落とされたのは右も左も上も下も、すべてが真っ黒の部屋だ。部屋に何があるのか分からず、上を見ても自分たちがどこから落ちてきたのかも分からない。
灯りも何もかもが遮断され、黒以外の色が存在しない真っ暗な空間の中、どういうカラクリなのか、参加者同士の姿ははっきりと視認できる。
自分の姿も視認できるが、その視認性の高さと周囲の様子とのギャップによって、自分たち以外のものが切り取られてしまったかのような錯覚さえ覚える。
そんな空間の中、際立って不自然なものが一つ。
檻だ。
大きな、人を100人詰め込んでも余裕がありそうな程に大きな檻が真っ黒な部屋の中心に配置されている。
流石に参加者たちも危機感が生まれてきたのか、不用意に檻に近づく者はいない。
しかし、能力を使って調べようとしている者はいるようで、火達磨になって近寄り、檻の中の様子を炎を照らして確認していた。
遠目から眺めていた者たちにもその光景は良く目立ったようで、全員が火達磨の少年へと目を向けていた。
何かの根拠があるのか、それとも無謀なだけなのか、一切怖気づく様子を見せずに檻へと近寄っていく彼の様子に注目が集まる。
ついに檻の中身がすべて見えるほどに近づく。
「中に何」
不意に声が途切れ、炎が消える。
はっきりと視認できていた火達磨になる少年の姿も消え、再び檻の中には黒が満たされる。
「おい、どうした……? 悪ふざけはやめろって、流石に笑えねぇよ。なぁ、なぁ!!!」
先ほどまで火達磨の少年と多く会話をしていた何人かの参加者が恐る恐る檻へ近づく。
檻の傍に向かわないように、少し離れた場所から手を伸ばして床の辺りを探ろうとする彼らの手に少年の身体が触れることはない。
伸ばした手には、床に落ちている少し粘性のある液体、それが付着しただけだった。
「なんだこれ、水……?」
「違うこれ、血だ……ってことはアイツは、死んだ?」
泣くでもなく叫ぶでもなく、その場に呆然とへたれ込んだまま。今さっき出来たばかりの友人の死を噛み締める。
彼らの目から何か光るものが落ちる。であったばかりの人間のあまりに呆気ない死に対しても涙を流せるというのは、人としての美徳だろう。
そんな彼らを脇目に、この空間で産まれた初めての死者に気が引き締まる参加者たち。先ほどまでは無かった『本当に死ぬかも』という緊張感が部屋の中に充満する。
それを見計らってか、偶然か。
見覚えのある白いタキシードにシルクハット、そして顔を隠すマスクをかぶった人物が上空から降りてくる。
「は~~~~い! お待たせしましたァ~! ワタシに合えなくて悲しかったですかぁ? 悲しかった人、手ぇ挙~げて!!」
当然ながら誰も手は上げない。
そんな様子を見て分かりやすくゲームマスターがテンションを下げる。
「はぁ、まぁ分かってましたよ。ど~せワタシのことなんで誰も必要としてませんからね。だってこんなデスゲームなんて企画する奴と友達になりたいわけないもんね。と、いうことで!! な~んか皆さんからの好感度がマイナス完凸っぽいので、もっと嫌われるようなことしていきたいと思いま~す!!!」
両手を広げて真っ黒な天井を仰いでいるゲームマスターが唐突に頭をぐるりと動かし、俯いている二人の姿をその目に捉える。
そのままその二人の元へ降り立って、その顔を覗き込むように顔を近づける。
「おや? おやおやおやァ?? なぁぜ泣いているのでしょう? あ! もしかして、もしかしてもしかして???」
何処からともなくクラッカーを取り出してそのまま紐を引っ張る。
パァン!!!!!
クラッカーが破裂し、周囲へ大きな破裂音が鳴り響いた。
「おめでとうございまァァす!!! このゲーム初めての死者ですねェ~!! いやァ~めでたい!! デスゲームっぽくなってきましたよォ?? やっぱり誰か死なないと緊張感って出ないですよね!? 現実味がないというか、どこか「自分は問題ないとか」考えちゃいますよね? いやぁ、分かります分かります。でもそれってゲームとして面白くないですよねぇ?? 危機感持ってください? これから皆さんには殺し合い、もとい生き残りをかけたいろいろと戦ってもらうんですから。ね?」
拍手をしながら部屋の中を歩き回るゲームマスター。
その声は本当に嬉しそうで、心の底から死者が出たことを祝福しているのだと分かる様子だった。
春瀬もゲームマスターの動きや声音から裏の感情がないかを確認するが、どうも動きからは落胆や後悔といった負の感情は読み取れず、本当に死者が生まれることを歓迎しているのだと理解する。
―――狂ってやがる。なぜ貴重な才能を殺して喜ぶ? 現代でも才能の上振れは起こりにくい。世界を揺るがすほどの才能なんてめったに生まれるはずがないのに……目的、目的……間引き?」
思わず考えが口に出る。
周囲を確認するが、幸い春瀬の声が聞こえた人物はいないようでホッと胸をなでおろす。
―――そろそろ説明が始まる。一旦自分の考えは奥に仕舞い込んでおこう。
自分の思考を無理やり止め、これから喋り出すであろうゲームマスターの姿を見据える。
相も変わらず大仰な動きで話すゲームマスターの姿に僅かな苛立ちを感じながらも、これから始まるであろうゲームの解説を耳から脳へと取り込むことに集中する。
「ではァ! そろそろ説明に参りましょう!! 行きますよ~? せーのッ!!!」
「〈殺ってみよう、猛獣君解体ショー(人間も死ぬよ)〉ォォォォ!!!」
「あれ、ワタシだけですかァ? 残念残念。では今回はボーナスは無しということで、こちらはボッシュートとなります」
妙な効果音と共にゲームマスターが手に持っていた袋が上から伸びてきたアームによって回収されていく。
何かボーナスがあるなんて話は事前に聞いていない為、意味も分からず何かを没収された参加者は怒りの声を上げる。
「なんか寄越すなら先に言え!! それでオレが死んだらどうすんだよ!! 責任取れんのか? あぁ!?」
「知りませんよそんなこと。ゲームには隠し要素が付き物でしょう? だからやってみただけですゥ~~。あ、次のゲームからも同じようにボーナスがあるので、こぞって参加くださいねェ~?」
「さてと、少し話題が逸れましたね。では改めて説明をさせていただきます」
ゲームマスターがパチンと指を鳴らせば、説明用のモニターが降りてくる。
そこに書いてあったのは、謎の動物のようなシルエットと、それを狩る用の武器であろう猟銃や鉈などが一緒に表示されている。
「こちら! このシルエットは猛獣君です。皆さんご存じですよね? 猛獣君。え、知らない? 仕方ないですねぇ、猛獣君とは、私たちタレントセレクション運営が作り出した遺伝子操作生命体でございます。様々な薬品と、様々な生物の強い部分を抽出して作り出した生き物ですねェ、いやぁカッコいいなぁ~、ぶっ殺して差し上げたい。」
「今回のゲーム〈殺ってみよう、猛獣君(以下略〉では、この猛獣君を殺して、解体して、その解体した肉をこちらの台座に納品していただければクリアとなります。簡単ですねぇ~。猟師経験がおありの方ならすぐに達成できそうです。能力の使用はご自由に、武器もこちらに一通りそろっていますよ~。ナイフからロケットランチャーまで、幅広ぉ~く取り揃えておりまァす! ただし! 武器の使用には制限がありますので、武器置き場に書かれている注意書きを読んでくださいね~。破ったらペナルティですよ?」
「皆さん理解できたでしょう。出来たに決まってますよね。だって皆さんは天才ですもの~! 質問は受け付けておりませ~ん。では! スタートォ!!!!!」
そう言ってゲームマスターがボタンを押し、檻の格子が外れる音がした。
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