第3話 能力=役

◇ デイドリームアクター

 詳細:自身が自身の内に思い描く人物を自分自身とし、その人として行動することが出来る。


 簡単な説明のみだが、それだけで演技に特化した能力であることが理解できる。しかし、書いてあることが抽象的なため、細かい能力が理解できない。


【自身が自身の内に思い描く人物を自分自身とする】


 要するにその人物になり切って演技を行う能力ということだが、それにしたって説明不足に感じる部分が多い。


 ・何を以て自身の中に思い描いたと判定するのか

 ・自分自身とするためにはどの程度の理解度が必要なのか

 ・まともに演技をしたことがないような役であっても想像することさえ出来るのならその人として行動可能なのか


 ひとまず明確にしたい部分はこの通り。

 分からないことを完全に理解しないと行動できないわけではないが、ゲームマスターが言っていることが本当なのであれば、この場に居る者たちで殺し合いが起こるはずだ。


 だとするならば、戦いの為の武器も、才能も持たぬ春瀬が生き残るためには把握が必要だ。

 受け取った役がどんな役なのか、何が出来て何が出来ないのか、何を悪とし何を正義として行動するのか。


 能力台本を受け取ってしまったのだから仕方がない。

 役を受け取ってしまったのだからしょうがない。

 オファーが来てしまったのだから受けるしかない。


 春瀬は役を断らない。

 なぜなら与えられたということは、


 自分自身を否定しても仕方がない。

 それはただの逃走だ。

 自分から逃げて何に立ち向かえるというのか。

 役から逃げて作品に向き合えるのか? 観客には? 監督には? 同じ役者には?


 否だ。


 作品は見るのではない、向き合うのでもない。

 入り込んでその一部となるのだ。


 役は演じるのではない。

 受け入れてそうなるのだ。


―――ならば今回は


「〈空想を演じる底辺役者〉ってところだね。これでデスゲームを乗り越えてみようか」


 役は決まった。



――――――――――



「皆様ぁ!! 能力は把握頂けましたでしょうかァ?? 皆様に与えた能力とはァ!! これから死ぬまで共に生きることとなる自身の、いわば半身!! しっかり理解し、100%の力を引き出してあげてくださいねェ!!!!」


 ゲームマスターが甲高い声を上げる。

 身体をくねくねと捻りながら話す姿は、真面目に話していないどころか、自分がどんなことを話しているかさえ忘れていそうで、理解させる気もないというように感じる。


 しかしこれまでの説明やその内容は、その口調や行動に反してしっかりとしたものであり、ゲームの進行司会として十分な役割を果たしていると言える。


「な、なあ」「ハイなんでしょう? 質問ですか? いいでしょうとも答えましょうとも! さっさと要件を言いやがれ下さいませアァン!!?」「ヒェッ……!」


 声を上げた少年の元へ目にも留まらぬ速さで駆け付けたゲームマスターがその言葉に食い気味で回答をする。

 少年が小さな悲鳴を上げるが、そんなことはお構いなしにグリグリとマイクを押し付けて話を強引に聞き出そうとする。


「なんですかなんですか? もしかして私の興味を引きたくて声を出してみちゃっただけですかァ?? そう言うの困りますぅ~、私が魅力的なのは分かりますけどぉ、ナンパは別のところでやってくださぁい♡……それで? ご用件は何でしょう」


「あ、その、このカードに書いてある能力がよくわからなくて……書いてある文字とかの意味は分かるんですけど。その、抽象的というか、明確に何ができるかが書いていない、というか……ゲームだったらこう、使用条件とか、デメリットとか、書いてあるじゃないですか。そう言うのがないので、その、どうやって使えばいいのかなって……」


 プルプルと震えながら必死に口を動かす少年にキスをするのではないか、という程に顔を近づけてその言葉を聞くゲームマスター。


 少年が話し終わった瞬間に、まるでカートゥーンコミックのような動きで体をグニョングニョンと動かし、口から「ドゥルルルルルルルルル……」と正解発表前のようなドラムの音を響かせる。


 デン!!!!


 という明らかな電子音と共にどこからともなく巨大なモニターが現れ、何かが表示される。


「い~い質問ですねぇ!! 正直今の質問がなければこの表は出すつもりなかったんですけどねぇ~? まぁ、全員に野垂れ陣でほしいわけじゃないし? 能力も使わずに泥仕合見せられても詰まんないですからぁ? こちら! カードの情報公開フォローチャートでーす!! 私とこの少年に感謝しながら読んでくださいねぇ? 絶対ですよォ!! 特に私への感謝は忘れないよォにィ!!!」


 ゲームマスターを無視して、参加者のほとんどがモニターを見上げる。そこには、【カードに表示される情報のアップグレード方法】と書かれている。


◇ カード情報のアップグレード方法

『カードには現在、開示レベル1の情報が開示されています。こちらは、能力の概要情報だけを表示させるものとなっております』

『開示レベルを上げるためには、他人のカードを奪い、カードとカードを合わせる必要があります』

『最大開示レベルは10。最大までレベルを上昇させる場合、9人からカードを奪う必要があります』

『カードを奪われても能力を失ったり、デスゲームへのペナルティが発生することはありませんが、ゲームマスターにより再配布されることは滅多にありませんのでご注意ください』

『開示レベルの名の通り、レベルを上げることで解放されるのは開示される情報のみ。開示レベルと実際に使える能力は関係ありませんので、開示レベル1の状態でも、最大レベルで開示される能力が使える可能性も大いにございます』


 所々に変なマスクをつけたミニキャラが登場するのが集中力を削いできて邪魔だが、理解できたようで、春瀬やその他参加者も、自身のカードと他人のカードをチラチラと見比べている。


 ―――奪えば能力の情報が分かる。だけど、レベルが1でも他のレベルの能力の出し方が分かればその力は出せるってことかな。


「マニュアルがあるかどうかって話だよね。初めてのことには大体マニュアルが欲しいけど……」


 周囲の参加者の様子をぐるりと見渡す。

 ほとんど全員が自身のカードを丁寧に懐へ仕舞い込み、他人に取られないようにしている。

 それどころか隙のありそうな相手に対してカードを奪いに行こうとする者たちも見えた。


 そして、その者たちの目線が自分に向いているのだと春瀬が気付く瞬間には超スピードで跳んできた何かによって、手の中のカードが抜き取られていた。


「もーらい」


「あっちょっと!!」


「デスゲームって言ってたでしょ。残念だけど早い者勝ちだよ」


 そう言ってカードを取ったフードを目深に被った人物は、自分のカードと春瀬のカードを重ね合わせる。

 すると、カードの中にカードが吸い込まれていき、一枚のカードとなる。


「ふ~ん、これがアタシの能力ねぇ……いいかも」


 フードの中から犬歯が覗き、不気味なほどに輝く金色の瞳が見えた。

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