アイツ、私と話がまたできたって、涙ぐんでんだよ ❤️

 紗栄子の部屋に着いた。さすがに、祝日の午前六時。紗栄子に言われたように左右を見回して確認。誰もいない。ドアに鍵はかかっていない。ドアを開けて、バイクを引き入れた。玄関狭いなあ。仕方がない。

 

 部屋は二重カーテンが引かれていて、天井の蛍光灯だけ。紗栄子がコタツに入っていた。仰向けで大の字に寝転がっていた。ハイネックのグレーのセーターとジーンズ。「よお、色男、おいでなすったな」と紗栄子がぼくを見上げる。

「どうしたの?紗栄子?元気ないじゃん?」と紗栄子の隣のコタツにぼくも入って、仰向けになった。蛍光灯が眩しい。紗栄子がぼくの手を握ってくる。ぼくも握り返した。

 

「オ◯ンコのヒリヒリとガニ股は治ったぜ」

「そりゃあ、よかった。でも、それにしては元気ないじゃん?」

「まあな。なぜかっていうとさ、月曜、火曜で、アキラのこと考えてたんだよ」

「LINEもしてくれなかったし。ぼくのメッセも既読はつかないし。今日、来ようかどうしようかも迷ったんだよ?」


「悪かった。実は、昨日、純子に会ったんだ」

「え?彼女、そんなこと言ってなかったよ?」

「キミにあまり関係ないことだから言わなかったんじゃないか?」


「いつ会ったの?」

「トイレで。女将さんにも頼まれていたしな、でも、どうしようかと考えて、女子トイレの回りで、純子が来るんじゃないかって、休み時間のたびに待ってたら、三時限目の休みで、純子がきてさ。声をかけたんだ。『純子、久しぶりだな』ってね。そうしたら『紗栄子、久しぶりも何も、私を無視してなんだよ?どうしちゃったのよ?』って言われて。『ちょっと、神社の仕事の話で相談事があるんだ。三十分ぐらいでいいから、話聞いてくれないか?』って言ったら、『いいよ、放課後にD組の教室に行こうか?』って言われた。それで、純子と話したんだよ」

「ああ、それで、昨日、純子が帰り際、ちょっと待っててと言ったのか。紗栄子に会っているなんて知らなかったよ」

「まあ、彼女と、話したんだけどね・・・」


 紗栄子の言うには、まず、開口一番、純子が紗栄子をなじったそうだ。

 

(紗栄子、相談ごとの前に、私、言いたいことがあるんだけど。言っていい?)

(いいよ)

(紗栄子と私、小学校からずっと同じ学校だったじゃない?あなた、私に仲良くしてくれたよね?それがだんだん、ヤンキーになっちゃって・・・高一で紗栄子が強姦されたって話を聞いた。心配したけど、あなたの回りの田中先輩とか節子さんとか佳子さんがいて、近寄りがたかった。紗栄子、変わっちゃって、私も無視されるし、どうしたらいいのか、っていつも思ってたのよ。私、本当の友達っていないじゃない?紗栄子は本当の友達だと思ってたのに。ずいぶん悲しかった)


(最近、紗栄子がヤンキーの格好止めちゃってさ、ああ、良かったな、って思ってたんだ。それで、今日、トイレで声かけてくれてうれしかった。田中先輩とか節子さんとか佳子さんと仲良くしてても構わなかったのに、私となんで距離をおいちゃったの?私、紗栄子のことを親友と思ってたんだよ。心配してたんだよ。バカ!)


(あのさあ、まあ、いろいろあったし、純子と私と世界が違っちゃったみたいに思ってね。いったん、離れちゃうと、また声をかけずらかったんだよ)

(水臭いよ、紗栄子。ひどいじゃない?ずっと一緒に遊んでたのに。わかった。神社の仕事の話でもいいのよ。こうして、紗栄子とまた話せるんだから。紗栄子のバカ!私、寂しかったんだよ、紗栄子)


「って、話をしたんだ。それでさ、美久ネエさんの絡んでいる事故物件の話をして、純子のパパにお祓いをお願いしたい、ってことを説明したんだけどさ、その後、純子が言うのが・・・」


(紗栄子、もうちょっと話を聞きたいけど、神社のお祓いってエクソシストみたいなもんじゃないからね。誤解しないでね。神社の宮司ができるのは、その場を清浄にすることだから。私は巫女だから、お榊でお祓いをできない。お鈴で清浄な音を出すぐらいよ。神楽鈴(かぐらすず)っていうんだけどね。こういう場合に、宮司が何ができるのか、パパに聞いてみる。田中先輩からも話を聞きたいな)

(うん、美久ネエさんに紹介するよ)


(紗栄子、この神社の仕事は仕事として、また、私は紗栄子と仲良くなりたいのよ。仲良くしてくれる?もう、無視しない?)

(わかった、純子。少しずつ、話をしような。私も悪かった。ゴメン)


「アイツ、私と話がまたできたって、涙ぐんでんだよ。私も涙でちゃったよ。親友が戻ってきたんだなあ」

「いい子なんだ」

「知ってるよ。長い付き合いだもん。それで、親友が戻ってくる前にその彼氏とセフレになっているバカな女の子と、彼女ができる前にセフレを作ったバカな男の子のことを考えていたら、元気がなくなった」


「先週だったら、まだ間に合ったのに。ぼくが強引にセフレを止めて紗栄子を恋人にしちゃえばよかったんだ。ゴメンよ」

「でも、そうしていたら、親友は戻ってこなかったかもしれないじゃないか?そうなっていたら、純子に私は声をかけなかっただろう?」


「最初から、この組合せがこうなっちゃうようになっていたのかなあ」

「運命の悪戯さ。仕方ねえ、初志貫徹しような」

「え?」

「純子やみんなに隠し通す。自衛隊入隊までセフレを続ける。その後はアキラのいい思い出の女の子になってやる、ってさ」


「隠し通すのは、それだけじゃないだろ?紗栄子?」

「他に隠すことがあるか?」

「あるよ。ぼくと紗栄子のこと」

「私とアキラの何?」

「ぼくと紗栄子がお互い好きだってこと。これをお互い隠すのが一番つらいじゃないか?」


「それは・・・なんで、体からはいっちゃったんだろうな?私の最初のボタンの掛け違いだ。でもな、どう考えても、来年四月からは付き合うのが難しいんだよ。会えないんだよ。それも辛い話だろう?」


「他に選択肢も・・・」

「ねえよ、そんなもん。そういう別の選択肢を考えて夢見ちゃいけないんだよ。まあ、自衛隊の休みには、私と浮気してくれればいいさね」


「紗栄子はそういうことをしないと思う」

「なぜ?」

「来年の四月から、紗栄子はぼくに連絡してくれないと思う」

「う~ん、そうかもしんない、かな?わかんないや」

「ねえ、紗栄子?」

「なんだ?」

「抱いてもいいかい?」

「うん、抱いて欲しい」



※高校生の飲酒シーンが書かれてあります。

 性描写を含みます。

 この物語は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

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