悪魔払いの祈祷師:Zoe

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形容しがたい

「これはこれは、何ともはや……」

「いかがいたしましょうか?お嬢様」

「いかがも何も、どう見たって手遅れだろう?この惨状は」



 深夜であるにもかかわらずホールと思われる場所に押し入ってみれば、ステンドグラスから漏れ入る月明りによって照らし出された惨状といえば、祭壇の間と思しき場には死屍累々の数々を照らし出していた。


 それらは、物言わぬ躯となり果てた幾種々の人の生命体だったもの。



「宗教がらみとは分かってはいたが、ここまでとはな」



 そう呟いてる最中でも、どこからか現れてはこちらに牙をむけては襲ってくる異形の存在。


 だが、その存在は背後に連れ立っていた従者の一人がその場から消えた瞬間には、獣は獣だったものという細切れにされてはモノだけに変換され、そしてそれを行った存在といえば、何食わぬ顔をしながら定位置に戻っていたりする。


 室内へと歩を進めるたびに、そんな事が数回ほど起きているにもかかわらず、自身は一切関係ないとばかりに周囲を調査するかの如く目くばせをし、その視界の中に入ってくる異様な存在感を醸し出しているモノに視線をようやく向ける。



「依頼は依頼ではあるのだが……」



 目の前に存在する「形容する言葉」と「表現する方法」を持ち合わせていない見た目をしているモノ。


 まぁ、そういう存在を直視した結果が、目の前の惨状を作り出していたというのも、理解できるといえば理解できる、のだが……



「ああいうのを観測したら"SAN値チェック"というのをするんだったか?」



 そう言いながら影響をうけることもなく、相手を"しっかりと見据える”少女の姿をしている存在。


 その丈は、160は超えてはいるだろうが170は超えておらず、幼さを残した顔立ちの中に凛とした表情をして、誰がみても一度は見返すぐらいの綺麗さをゴシック調の衣類とブロンドというよりは銀色がかった髪が風にゆらせば、さもありなんというだろう。



「テーブルトークにはそんなに詳しい訳ではないのだがな」

「十分お詳しいかと」



 その後ろに配置しているのは、クラシックスタイルの給仕服に身を包みつつも、その身体のラインの主張が協調されてもおり、社交界にでも出れば誰しもが射止められる美貌をもちえているのだが、その目は閉ざされたままで、再び襲い掛かってくる獣を認知がされる前に排除していたりする。


 そして、その二つの存在へと襲い掛かる異形の存在といえば、気づけば血しぶきすら上げずに肉塊と変貌していたりするまでに洗練された処理を行っていた。



「たしか、ライカンスロープ、という奴だったか?」

「躾がなっていない駄犬ですね」

「いやまぁ、お前からしたらそうかもしれんが、勝手に身体を弄られた訳だろう?自業自得というか何というか」



 肉塊となったモノに多少なりとも哀れみを感じていると、形容しがたい何かが再び音らしきモノを発すれば、死屍累々だったそれらが、種々色々な動物とが交じり合ったナニカへと変貌されていく。


 そして、起き上がったかと思えば、こちらへと牙を向けては襲い掛かってくるのだが、その牙や爪がこちらに届くことはなく、そらが肉塊へと変貌するのには時間がかからなかった。


 だが、細切れとなった肉塊も、すぐさまその姿を変貌させては起き上がっては牙をむけては襲い掛かってくる。


 倒しても倒しても、切り刻んでも切り刻んでも、それらが止まることもなく続く。



「お嬢様、これは少し、手間が、かかりそう、です」

「そりゃぁこんだけ素材があるんだ、そりゃそうなるわな?」



 お嬢様と呼ばれる存在へも、その爪が届きそうかと思った矢先には、黒い壁が現れては、その進行を押しとどめたかと思えば、次の瞬間には黒い線が獣の身体に幾重にも重なれば、ふたたび肉片と化していた。



「はぁ、確かにめんどくさい。なら、掃除を早めるか」



 そう言っては、少女は自身の足元の影へとかるく歩を踏み進める。


 すると、足元の影だった黒いモノがホール中へと一瞬で広がる。

 その広がった影は、躯となったモノを掴み、飲み込み、そして影の暗闇へと沈みこませ存在をかき消していった。



「うっわ、クッソまずっ……」

「好き嫌いはよろしくありませんよ?お嬢様」

「お前なぁ……」



 そうして、ホールに存在していた躯という躯が、すべて影の中へと消えていった先には、さきほどから認識はしているが、形容しがたい存在と自分たちだけが面を拝む形となる。



「あとは、アレだけか……」



 その存在へとゆっくりと近づき、そして



「やぁやぁ初めまして。偉大なる外なる神様」



 優雅に、それでいて誰もが見惚れるほどの見事なカーテシーであった。



「そして、クタバりやがってサヨウナラ」



 あったのだが、発せられる言葉は丁寧とは裏腹に、口汚い言葉を発したと思えば、形容しがた存在の影へと少女の影が重なった瞬間、そこから現れた咢(アギト)が、その形容しがたい存在をかみ砕く。


 否、かみ砕くというよりは、丸飲みをしては大きく咀嚼していた。

 ある程度の咀嚼を終えた黒い咢(アギト)は、そのまま影の中へと沈んでいく。



「おぇぇぇぇぇぇぇ、ゲロまずいぞコレ……」

「……我慢です。お嬢様」

「…………、お前にも食わせてやろうか?」

「お腹は満たされておりますで、十分にてございます」



 ジト目を従者に投げつければ、その視線を投げつけられたガワといえば素知らぬ表情のままにしていた。



 そうして、一つの争い……という事までにもならなかった場所は、何もかもが影に消え去り、後に残されているものは何らかの儀式を執り行っていたという痕のみ。



 その痕を丁寧に確認していく少女と、それに続く従者の足音だけが広間に響く。




「世界を渡らせて呼び込むほどの儀式ではあるが、そこまでの贄がないな」

「……その様ですね」

「呼び出されたのは、荒神か邪神か破壊神か……ま、混沌だろうがな」



 少女が履いていた革のブーツが祭壇らしきものを荒くひっくり返す。

 そうしてその下から現れたモノをみる。



「起点はコイツだろうが……異邦物をどうやって手に入れた?」



 そこに現れたモノは"この世界"には存在していない代物。


 何せ、特徴的なのは"心臓の様”ともいえるぐらい大きさと形のものが、定期的に脈動しているナニかがそこにあったからだ。


 この世界における普通の生命体のものでは在りえない代物ある。



「まぁ、こんなクソな世界に存在し続けれるのがヤベェ代物の証左だな」

「……どうされますか?壊しますか?」

「んなもん決まってるだろ?倉庫の肥やしに決定だ決定。破砕なんぞして悪化させる訳にはいかんだろ」

「はぁ、またですか?私はいっぱいいっぱいなのですが?」

「うるせぇ、ほら、さっさと開けろ」

「はい……」



 そういわれた給仕は、その着ている服をほどけさせては胸元を広げそこに現れるのは白い素肌、ではなく漆黒の闇が広がる何かが広がる空間が存在していた。


 その空間に、先程みつけては脈動しているナニかを放り込む少女。


 その際に「ンッ」という煽情的な声が発せられたりもしたが、それをスルーしては周囲へと向き直す。



「さて、後片付けをしては……っと?」



 そう思っていた矢先、夜中なのに派手に明るいライトがガラス越しに見える。


 赤色と青色の二つが混じるそれらをみながらも、影から"直した躯"を部屋のあちらこちらに配置しておく。



「ほんと、こんな夜更けによく働くことで。所轄の管警は働き者だねぇ」

「動くな!警察だ!!」



 ホールの大扉を勢いよく開けて入ってくるのは、白文字でPOLICEと記載された黒いジャケットを着こんだ警察と、それとは異なり軽装に防弾チョッキを着ていた、いうなれば警察と呼ばれる組織の集団。


 それらが銃口を部屋の中に向け、警戒をおろそかにせずにホールに入ってきてはこちらをライトで照らして見つけた。


 ネクタイ姿に防弾ジャケットだけを着こんだ人物がこちらに向かって歩いては近づいてきたかとおもえば、いの一番に発せられた言葉は


「また貴様か、エクソシスト!」

「おやおや警部さん、ごきげんよう。随分な物言いだね?夜更けで寝不足なのかな?」

「ハッ、貴様らエクソシストなんぞがいるって事事態が随分な事だろうが」

「こちらも仕事でねぇ、美容にも悪い夜中でも働かざるえないんだよねぇ」

「言ってろ!お前ら、そこの二人以外の確保を急げ!!」

「「「了解!!」」」



 そうして、少女と給仕をスルーするかの如く、警察官たちは寝転がっている人を一人、また一人と確保していく。


 それらは"死んではいない"ところまでに"直して"放置したモノたちであるが、目と鼻と口からは液体を垂れ流し、まるで、"重度の薬物"をヤっていたかのような醜態でもあった。


 それらを眺めつつも、その作業をお嬢様と呼ばれていた少女は、長椅子に座っては(その背後には給仕が立っていたが)欠伸を一つ二つと、そんな時に、一つの影が近づく。



「おいエクソシスト。現場にいた状況の話を聞かせろ」

「お断りするね警部。一応、我々の行動は機密扱いになるって知っているだろ?」

「ぐっ、だが、」

「だがしもかかしもない。そういう取り決めだろう?それを取り決めたお役所様がまっさきにお破りになるのかい?」

「……っ!!」

「ま、私もそこまでケチじゃぁないさ。メアリー」

「はい、お嬢様」

「公表できる範囲まで伝えてやれ」

「よろしいので?」

「かまわんさ。正義感あふれる警部様に感銘を受けて、こちらからお手伝いをさせて頂こう、と動いたのだ。これ以上の理由なぞはいらないだろうさ」



 そう言い放つすこし楽し気な少女とは裏腹に、憎々しい表情の警部は「き、協力に感謝する」という言葉を何とか絞り出したという形であった。



「では、私は外の足にて休んでるからね。メアリー、後はうまくやっておくのだよ?」

「はい、お嬢様」

「では、ごきげんよう」


 そういっては見本となるぐらいの綺麗なカーテシーを一つこぼしては、大きなホール、否、聖堂と呼ばれる場所から立ち去る少女を、苦虫をかみつぶした表情で見送る警部であった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「お嬢様、警部様をからかいすぎではないですか?」

「警部は私のお気に入りだからねぇ、からかうのが楽しくてしょうがないのさ。そしてあの愛らしい表情をするところが特に、な」

「……お嬢様の愛情表現が理解できませんね」

「そうか?ま、理解されなくて結構だよ、これは私だけのモノだからな」



 側車の舟に乗る少女と、それを操作する給仕が、日が昇りかけている街道を疾走していった。











~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

少女(お嬢様)

・エクソシスト

・人間社会に溶け込むため少女の姿をしているが、年齢は数百歳を超えている超常の存在

・影(闇)を操る存在

 その影は「全てを飲み込み」「全てを帰し」「全てを……」

・エクソシストとして動いているのは、数百年昔の友人(女王様)との約束というかお願いから



メアリー

・少女の給仕

・実は大昔に少女と「契約」がなされた悪魔(クラスは大公)

・少女からは便利な道具として重宝され、当初は辟易していたが今では……



警部

・何かと少女たちと縁をもつ、かなり優秀な部類の職業警察官

・とある事件から変事件に関わりやすくなるのだが、そういう事件ばかりが回されていたりするのは……

・少女たちのことを「エクソシスト」と称して侮蔑しているが

 実際には事件解決にもつながっている為、

 職業警察官としての感情と個人の感情ががごちゃごちゃになってしまっているが

 その感情の分別を行っては警察官であろうとしている。

 (そこを"かなり"気に入られているからともいうが)

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