09みみのこ観察ツアー2:予期せぬ出来事
# みみのこ観察ツアー2:予期せぬ出来事
みみのこ観察ツアーが終わり、子どもたちがバスに乗り込む中、一人の少年が姿を消していた。
「健太くんが見当たらないんですが...」
引率の先生が不安そうに周囲を見回した。
健太は小学5年生。
いつも授業中も落ち着きがなく、動物にちょっかいを出すことで有名だった。
「もう一度施設内を探してみましょう」
佐藤博士は眉をひそめた。
***
その頃、健太はふれあいゾーンの裏手にある立入禁止エリアに忍び込んでいた。
フェンスの隙間から滑り込み、茂みの中を進んでいく。
「みみのこの耳は抜けるって言ってたよな...」
健太はポケットから小さな器具を取り出した。
学校の工作室から無断で持ち出したものだ。
茂みを抜けると、小さな空き地があり、そこには数匹のみみのこが集まっていた。
彼らは人間に慣れているようで、健太を見ても逃げなかった。
「み?(何か用?)」
みみのこの一匹が健太を見上げた。
健太はニヤリと笑い、ペンチを握りしめた。
「ちょっと実験したいんだ」
健太は素早く動き、一番近くにいたみみのこを捕まえた。
「み゛!!(やめて!!)」
みみのこは必死にもがいたが、健太の手から逃れることはできなかった。
「耳が抜けるって本当かな?」
健太はペンチでみみのこの右耳をつかみ、引っ張った。
「ブチッ」
「み゛ぁあああ!!(痛いよおおお!!)」
耳が抜け、みみのこは激しく震えた。
健太は抜けた耳を興味深そうに眺めた。
「本当に抜けた!血も出ないんだ」
周囲のみみのこたちは恐怖で固まっていたが、すぐに我に返り、必死に逃げ出した。
「み゛!み゛!(助けて!人間が!)」
健太は満足げに笑い、手の中のみみのこをさらに強く握った。
「もう片方も抜いてみようか」
「み...(やめて...)」
みみのこは弱々しく懇願したが、健太は聞く耳を持たなかった。
「ブチッ」
左耳も抜かれ、みみのこは健太の手の中で気絶した。
「おっ、本当に気絶するんだ」
健太は両方の耳を手に持ち、気絶したみみのこを地面に置いた。
「次は...」
健太は別のみみのこを探して茂みの中を進んでいった。
***
「あっちから悲鳴が聞こえました!」
施設のスタッフが佐藤博士に報告した。
博士は急いで声のする方向へ走った。
立入禁止エリアのフェンスが壊されているのを見つけ、博士は最悪の事態を予感した。
「急いで!」
博士とスタッフが茂みを抜けると、恐ろしい光景が広がっていた。
地面には気絶したみみのこが3匹。
そして、健太は4匹目のみみのこを捕まえ、耳を引っ張ろうとしていた。
「やめなさい!」
佐藤博士の怒鳴り声に、健太は驚いて振り返った。
「博士...」
「何をしているんだ!すぐにそのみみのこを放しなさい!」
健太は渋々みみのこを放した。
みみのこは素早く茂みに逃げ込んだ。
「ただの実験だよ。博士が言ってたじゃん、耳は抜けるって」
「実験?これが実験だと?」
佐藤博士の声は怒りで震えていた。
「彼らは生き物だぞ!痛みも感じる!」
健太は初めて、自分のしたことの重大さに気づいたようだった。
「でも...耳は生えてくるんでしょ?」
「生えてくるからといって、痛みを与えていいという理由にはならない」
博士は厳しく言った。
「君の腕が折れても治るからといって、誰かに折られて平気だと思うかい?」
健太は黙り込んだ。
スタッフは気絶したみみのこたちを慎重に拾い上げ、応急処置のために施設内の診療室へと急いだ。
「君の先生と両親に連絡する。そして警察にも」
「警察?」
健太は青ざめた。
「みみのこ虐待は法律で禁止されている。特にこの保護区域では重罪だ」
健太は震える手で、ポケットからみみのこの耳を取り出した。
「これ...返します」
佐藤博士は深いため息をつき、耳を受け取った。
「耳は彼らに戻せない。新しく生えるまで、彼らは苦しむことになる」
***
診療室では、獣医師がみみのこたちの手当てをしていた。
「み...(痛い...)」
両耳を失ったみみのこが意識を取り戻し、弱々しく鳴いた。
「大丈夫だよ、もうすぐ良くなるから」
獣医師は優しく声をかけた。
佐藤博士は診療室に入り、みみのこたちの状態を確認した。
「どうだ?」
「幸い、耳以外の怪我はありません。耳の再生も始まっています。2日ほどで元に戻るでしょう」
博士は安堵のため息をついた。
「み...(なんで...)」
一匹のみみのこが博士を見上げた。
その目には疑問と悲しみが浮かんでいた。
「すまない...人間の子どもが悪いことをした。もう二度とこんなことが起きないようにする」
博士はみみのこの小さな頭を優しく撫でた。
***
健太の両親が呼ばれ、事の顛末を説明された。
彼らは息子の行動に深く謝罪し、健太も涙ながらに謝った。
「本当にごめんなさい...僕、みみのこが痛いって思わなかった...」
佐藤博士は厳しい表情を崩さなかったが、やがて静かに言った。
「君には責任を取ってもらう。これから3ヶ月間、毎週末ここに来て、みみのこのケアを手伝うんだ。彼らの世話をし、彼らの気持ちを理解するんだ」
健太は驚いたが、すぐに頷いた。
「はい...やります」
***
それから3ヶ月、健太は毎週末リゾートを訪れ、みみのこたちの世話を手伝った。
最初は恐れていたみみのこたちも、健太が本当に反省し、優しく接するようになったことを感じ取り、少しずつ心を開いていった。
「み...(エサ、ありがとう)」
かつて健太に耳を抜かれたみみのこが、恐る恐る彼の手から食べ物を受け取った。
「ごめんね...もう二度と傷つけないよ」
健太は静かに約束した。
佐藤博士は遠くからその様子を見守っていた。
「人間とみみのこの関係は複雑だ」
博士は独り言を呟いた。
「かつて私たちは彼らを理解せず、傷つけてきた。しかし、学ぶことで変われる。健太くんのように」
3ヶ月の奉仕活動が終わる頃、健太は別人のように変わっていた。
動物への接し方を学び、責任感も芽生えた。
最終日、健太は佐藤博士に言った。
「博士、僕、将来はみみのこの研究者になりたいです。彼らを守る仕事がしたい」
佐藤博士は初めて、健太に優しい笑顔を向けた。
「それは素晴らしい目標だ。君ならきっとできる」
***
一年後、
「グリーンヒルズ・みみのこ観察ツアー」には新しいプログラムが加わった。
「みみのこ保護教室」と名付けられたそのプログラムでは、子どもたちにみみのこへの正しい接し方や、彼らの権利について教えていた。
そして驚くべきことに、その教室の若いアシスタントは健太だった。
「みみのこは私たちと同じように感情を持っています。彼らを尊重し、大切にすることが、私たちの責任です」
健太は真剣な表情で子どもたちに語りかけた。
「み、みみみ(彼は変わったね)」
みみのこたちは健太の周りで安心して遊んでいた。
かつての恐怖は、信頼に変わっていた。
佐藤博士はその光景を見て、静かに微笑んだ。
時に悲しい出来事も、大切な学びにつながることがある。
健太とみみのこたちの物語は、その証だった。
「み!(みんなで仲良く!)」
みみのこたちの声が、春の森に響いていた。
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