お嬢様は魔法書の生る木が気になるご様子

高峰 涼

旅の資金を稼ぎましょう

第1話 遺された本

 ここはハインシェール国のセントレア領。


 私はクラーナ・フェイン・セントレア。セントレア領は国の食料の約30%を生産・供給するくらいの大きさです。私はその領主の娘…なのですが、私の兄様が優秀過ぎて唯一私が兄様に勝てるのは魔力くらいのものなの。

 私は習い事の合間の時間に屋敷にある図書室で本を読むのが好きで、よく図書室で本を読んでいます。もう蔵書の大半は読み終えてしまいました。


 そして、その「本」は図書室になぜ今まで気が付かなかったのかと思うくらい雑に置かれていた。


 私はこの本がなんとなく気になり読み始めてはみたものの、本の内容はかなり滅茶苦茶で本と言うより何かの暗号に近いというのが私の率直な感想。


 ならいっそ暗号だと思って読んでみると、まるでこの本全体が1つの謎解きパズルみたい。あのページに書かれている一見無意味な文章も、こっちのページの文章と繋げてみると途端に意味を持つ文章となる。なかには全く意味を持たない完全なトラップ文章もあるから結構面白い。

 これは1日じゃ終わらないわね。私はその本を自室に持ち帰り時間がある時に少しずつ解いていった。


 それから2週間が過ぎ、遂に私は本を解読し終わる。その内容は実に衝撃的で同時に私の冒険心に火をつけるものだった。


『次の本を探しに行きたい!!』


私はもうその思いから逃れられなくなってしまいました。


「お父様!お父様!」

 私はお父様を探して屋敷中を走り回る。嗚呼、こんな時広いお屋敷って不便!お父様が見つからないんですもの!


「クラーナ、もう少し落ち着きを持って淑女らしく振舞ってはどうです?」

 あ、お母様。ごめんなさい!今はそれどころじゃないんです。

「お母様!お父様の居場所をご存じではないですか?」

「あの人ならもう少しで帰ってくるはずですよ」


 お屋敷の中にいなかったんですね。どうりでいくら探しても見つからないわけです。お父様の帰りを玄関で待つとしましょう。


 暫く待っていると馬車の音が近づいて来る。私は玄関の扉を開けてお父様に手を振ります。


「お父様ー、はーやーくー」


 玄関の前に馬車が到着しお父様が降りてくる。

「クラーナ、お前は相変わらず元気いっぱいだね。出迎えるという事は私に何か用があるのかな?」

「はい、お父様にお話があります。詳しくはお母様と兄様にも聞いて頂きたいので全員揃う場を設けて欲しいのですが」

「そうか、では夕食の時に話を聞こうか?夕食時ならば全員揃うだろう?」

「判りました、それまでに私は自室で話したい事を整理しておきます」


 ひとまずこの本は絶対に持って行かないといけませんよね。後はこの本の内容を簡単に紙に纏めた方が分かり易いかしら?

 色々用意しているうちにメイドさんが夕食のお時間ですと迎えに来てくれました。


 そして夕食のテーブルに着く。豪華な夕食…ではなく領民より少し豪華な程度の夕食です。


我が家の家訓は――


『常に領民に寄り添う事、領民あっての領主である』


 なのでお父様は警護の者はつけていますが、2週間に1回、領地内へ人々の話を聞きに出かけています。


 まあそれはそれとして、夕食を終えるやいなや私はさっき簡単に纏めた本の内容を記した紙をお父様、お母様、兄様の前に差し出した。


「その紙を読みながらで構いませんのでお聞き下さい。この本にはこの国に伝わる伝説が書かれておりました」


この国に伝わる伝説とは――


昔々、人々は魔法と言う存在自体知りませんでした。ある時偶然見つけた魔法樹に実っていた「魔法書」を読む事により初めて魔法の存在を知り、人々は魔法を使えるようになりました。しかし人々が魔法の力を戦争に使い始めると、それを悲しんだ魔法樹は何処いずこかへと消えて行きました 


「これはこの国の国民ならば子供でも知っている有名なお話です」

「そうだね、確かに誰でも知っているお話だ。でも、クラーナが渡してくれた紙に書かれている内容は俺達が知っているお話と少し違うみたいだけど」

「はい、兄様。実はこのお話には続きがあったのです。この本によると魔法樹は何処かへと消える際に10冊の特殊な魔法書を遺したそうです。そして…」


『心正しき者、全ての本を読み解く時、我は再び姿を現すだろう』


「と書かれておりました。私はこの本こそ10冊の内の1冊なのではないかと思っております。私はこの本を探す冒険に出たいのですがお父様、この本はどのようにして手に入れたのか覚えておいででしょうか?」

 お父様はすっと立ち上がると窓へ向かい、夜闇が広がりつつある外を眺めながら話してくれました。

「その本は私がまだ若かった頃からこの家にあったものだ。10冊あるという所までは私も何とか読み解き、その本を全て集めてみたくなり冒険に出た事もあった。残念ながら1冊も見つけられず私は冒険を断念し、家を継ぐ事にした。だが私はその冒険で本よりも大切な物を見つけた」


 そういうとお父様はお母様に近寄って手を取り瞳を見つめると――

「そう。君と言う宝物だ」

 お母様も懐かしそうな顔をしてお父様の瞳を見つめ返します。

「怪我をして動けず困っていた所を貴方に助けられたのでしたね。貴方は何日も私の看病をしてくれて…そうしている内に私達は恋に落ちて」

 そこまで言うとお母様は顔を赤くしながらお父様に抱き着いた。


「クラーナ、行って来なさい。そして色々な物を見て来なさい。本を全て集められるかも知れない。本集めが叶わなかったとしても、お前も大切な何かを見つけられるかも知れない」

 お父様は快く冒険に行く事を許してくれました。

「クラーナ、私も止めはしませんが貴女は女の子、1人で行かせるのは心配です」

 お母様も反対はしなかったものの1人で行かせるのが不安なようです。

「クラーナ、お前も20歳、立派な大人だ。とは言え領主の娘を1人で行かせるのもな…ふむ。カナリア、カナリアはいるか?」

 お父様はドアの外で待機しているメイドを呼びました。


「はい、御用でしょうか旦那様」

「カナリア、話は聞こえていただろう?クラーナと共に行ってはくれぬか?」

「旦那様の命とあらばこのカナリア、お嬢様と共に冒険するのもやぶさかではございません」

 私はあわててお父様を止めようとします。

「お父様!カナリアに身の回りの世話をして貰うわけには行きません!自分の身の回りの事は自分で出来ます!旅に必要なお金も自分で稼ぐつもりです。冒険者達が集まる宿屋や酒場で働いて情報収集しながらお金を貯め、ある程度貯まった所で本を探しに行くつもりです」

 私は自分の考えている方法をお父様に話しました。甘いと言われるのが関の山だと思っていたのだけれど――


「クラーナ、お前は本当に芯の強い娘だ。普通の者は旅に出ると言ってもその後どうするかまでは考えていない。きちんと先々を考えて行動するならば、やはりここはカナリアと共に行きなさい。冒険の旅に仲間は必要だぞ」

 私は仲間の事までは考えていませんでした。全部1人で何とかするつもりだったので。お父様は昔冒険の旅をしていたから仲間の重要性が判っているのですね。

「ではお父様、先程のカナリアへの命を解いて下さい」

「それは構わぬが、1人で行くつもりなのか?」

 私は不安がるお父様にそっとこう話したのです。


「いいえ、1人ではありません。冒険の仲間は自分で見つけなくちゃ!」


「ねえカナリア、私と一緒に冒険の旅に出てくれる?」

「ええお嬢様、喜んでお供致します‼」

 カナリアは嬉しそうに二つ返事で即答してくれる。お父様に命じられたのではなく、カナリアは私と一緒に旅をしたいという本心で返事をしてくれたのだった。

「ははは、自ら勧誘したのならば私が命じて行かせた事にはならぬな。クラーナ、なかなか頭を使ったじゃないか」


「クラーナ、今日はゆっくり眠って、しっかりと旅支度を整えてから出発しなさい」

「はい、お母様」



――それから2日後 出発の日――


「クラーナ、本当に行ってしまうのですね」

「お母様、心配しないで下さい。時々は手紙を書きますので」

「クラーナよ、父の頼みを聞いてはくれぬか?この手紙をガジャディの町にある宿屋「アンフィス」の女将さんに届けて欲しいのだ。報酬はこれでどうかな?」

 そう言うとお父様は銅貨が少し入っている袋をくれました。

「お父様、これは?」

「冒険者は依頼をこなして報酬を得る事もするだろう?これは父からの依頼だよ。きっちりこなしておくれ」

「ガジャディですね。判りましたお父様」

「気を付けて行くんだよクラーナ」

「はい、兄様」


「ではクラーナ、行って参ります!」


 こうして私は魔法樹が遺した本を探す旅へカナリアと共に出発しました。



何処にあるのか判らない本をどうやって探すのかって?    それは次のお話で

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