第11話 弦材料製造
リュート本体部分の製造のとりあえずの目処は立ったわ。もちろんまだまだ時間がかかるとは思うけど。
それなら次は、一番のネックになりそうな弦に取り掛かるべきね。
「カティ、ヴァルトバッハ村に行くわよ!頼んでおいた物は用意できた?」
「ええ一応は。でもあんな物、何に使うんです?」
「ふふふ、それは着いてのお楽しみね。」
ヴァルトバッハ村に着くとリーザの周りには村の子供達が集まり、子供たちが歓迎してくれる。
「ごりょうしゅさまー、うちでごはんたべてってって、おかあさんがいってるー。」
「リーザ様、あそぼー!」
「ごめんね、今日はお仕事があるんだー。また今度遊ぼうねー!」
それらに手を振って応える。本当は遊んであげたいが今日は大事な大事な先約があるのだ。予定通り牧羊農家のところに向かう。
「こんにちはー!リーザが来ましたよー!みんないるー?」
先触れをしているので、当然いるのだけどね。そこには牧羊農家5世帯の家長が揃っていた。チーズの製造と販売が好調なせいか、みな笑顔だ。私としても嬉しい限りである。
「今日はみんなに一つ定期的に手伝って欲しい仕事があるの。もちろんお給金は出すわ。」
「お嬢様、それはどんな事です?チーズというわしらの暮らしがよくなる物を与えて下すったお嬢様のためなら、大抵の事はやりますぜ。」
「ふふ、なんでもとは言ってくれないのね。でもありがとう。
羊の腸あるわよね?ソーセージ作りで使っていると思うけど、半分くらいは使わずに捨ててるわよね?」
うんうんと頷く牧羊農家達。
「余った羊の腸で製造して欲しいものがあるのよ。弦っていう物を作ってもらおうと思っているのだけれど、今朝捌いた腸のあまりあるわよね?じゃあ、加工場に行きましょう。そこでその腸を使って、私の言う通りに作業してもらえるかしら?」
加工場はむわっとした湿気と獣臭の匂いでむせかえるような場所だった。
早速牧羊農家の一人に代表して作業してもらう事にする。持ってきたメモを見せながら作業をしてる人に説明する。
「まず最初は洗浄ね。
ソーセージの時と同じく水で洗うけど、脂肪は木のへらで完全に削ぎ落としてね。」
へらでこするように丁寧に脂肪をとってくれている。このあたりはまだまだソーセージの腸づくりと大して変わらないので問題なさそうだ。
「洗浄が終わったら次は剥離で、この工程では粘膜を完全に除去してね。
まず腸を竹棒に巻き、縦に長く切れ目を入れるの。それから内側の粘膜を指で剥がし、外側の薄い膜(これが弦になる部分ね)だけ残すのよ。これで膜は0.5~1mm厚で半透明になるわ。破れを避けてゆっくり引き伸ばしてね。」
この辺りからだいぶ未知の工程となっており、頭の上にハテナマークを浮かべながらも指示に従って作業をしてくれている。
「その次の工程は精洗ね。
剥離した膜を塩水にしばらく浸す必要があるわ。それから木の棒で軽く叩いて残った粘液を除去するの。それからきれいな水で3回すすぐと膜は透明で柔軟になるわ。これで匂いもほぼ消えるの。」
「わぁ、本当だ。リーザお嬢様、さっきまでは正直すごい臭いだなぁと思ってたんですけど、臭いがあまりしなくなりましたね。」
「そうね。で、それができたらいよいよ分割よ。
膜を1~2mの長さに切って太さを揃えて(直径2~3mm)、膜を木の棒に巻き引っ張りながらきつく撚って、滑らかな弦に仕上げるの。それから木の枠に広げて破れをチェックね。状態が悪いのはもったいないけど破棄してちょうだい。」
分かったか分からないかよく分からない表情だが、とりあえず牧羊家達は頷いているようだ。
「最後に乾燥ね。
選別した弦を塩水で軽く洗って水気を布で拭くのよ。それを木の棒に巻いて風通しの良い納屋の梁に吊るすの。この時直射日光を避けて湿気を防ぐため布で覆ってね。
それを1週間ほど乾燥させて、色が白っぽく表面は滑らかで押すと弾力のある状態にするの。乾燥が終わった後は束ねて木箱に収めて私に納品してね。
どう?やってもらえる?」
「良いだが…余りの腸はあんまり量が無いでな。そんなに作れなかとよ?」
「大丈夫よ。カティ、あれを持ってきて頂戴。」
『は~い』と言ってカティが桶を持ってきた。蓋を開けるとそこには塩水に浸った羊の腸がいくつも入っていた。
「やっと何のために、リーザお嬢様にこれを買わされたのかがわかりましたよ。」
「ふふふ、この通りカティがヴァルデックで羊腸を買ってきてくれたわ。羊腸弦はいくらでも必要だから、もっと作ってもらえるなら定期的に送るわよ。塩漬けになってるから塩を抜いてもらう必要があるけど、そこから先は先程の手順と同じね。そしてこれらは慣れれば子供達でも出来ると思うのよ。そうすればあなた方は引き続き牧羊やチーズ作りに専念できるわね。」
「子供たちだけで本当に出来て小遣い稼ぎが出来るならいいだが、本当にできるだか?結構失敗品がいっぱいできそうに見えるだがなぁ。」
「剥離や撚りは慣れるまで大人がやって、洗浄や乾燥は子供たちでもできるから、みんなで分担してね。それに最初は失敗品の分もお金を出すわ。それなら良いでしょ?」
「そうだなぁ。…うん、それならいいだよ。」
「そう?じゃあ交渉成立ね。」
やった。これで弦の原料が定期的に手に入る目処が立ったわ。最初は弦を張る方でも失敗していっぱいダメにしちゃうと思うし、上手くいっても弦の太さで音階が変わるから、いっぱい作ってもらわないとね。楽しみだわ!
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