第5話 異世界初戦闘 パート2

「気に入らないな。あの化け物の挑発に乗って、助けを受け入れてしまった気がする。あいつはスキルのことを言っていたけど、今はそんなことを調べてる暇はない。ただ、俺の傷が少し良くなってる…普通の人間の回復力じゃ無理なはずの、断裂した腱や背骨の損傷までだ。」


「まだかなり痛むが、肩の傷は小さくなっていて、出血もほとんどない。背中も体をひねれるくらいには回復してる。それに、体が軽く感じる。今ならこの森の木々の上まで跳べる気がするし、あの騎士よりも速く走れる気もする。妙な高揚感もあって、まるで何かが俺の意識を曇らせてるみたいだ。」


【テナチ(Tenaci)】:持ち主の知覚と思考を基盤とした多目的スキル。命の危険を感じ、生きたいと強く願った時に発動する。身体能力、魔力、再生能力を大きく引き上げ、失った部位さえ回復可能。しかし、精神に副作用があり、陶酔状態となって生存本能のみで行動するようになる。


頭の中に声が響き、スキルの説明が脳裏に浮かぶ。なんだこれは…?


【エイドン(Eidon)】:自身または他者のステータスを、ステータスプレートなしで視認可能にするスキル。名前を知っているスキル、魔法、称号の詳細情報も表示できる。他者のステータスを確認する場合、スキルとレベルは見えない。


「これが現実なのか?頭の中に焼き付くようにハッキリと説明が出てきて、それが自然に戻る。…ステータスってことは、この世界にはそんなシステムが存在するのか?試してみるか。」



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名前:ウゼン・カイドウ(Kaido Uzen)

種族:人間

レベル:3

スキル:[テナチ], [インファイター], [エイドン], [加速拳]

魔法:—

装備:普通の鋼鉄製メリケンサック

称号:異世界からの侵入者, 邪神の玩具



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「これが俺のステータスか?なんか大げさで作り物みたいだけど、数値化できるのはありがたい。…ん?称号ってなんだよ。『邪神の玩具』って、ふざけてんのか?」


イライラしながら兵士を見た。ここまで詳細に見えるなら、今の自分がどこまで戦えるか判断できるかも。


俺の視線に気づいた兵士は、口の中の血を吐き捨てて突進してくる。集中が途切れ、[エイドン]の使用をやめて動きに集中する。


以前とは違い、彼の動きが見える。一撃、二撃、三撃と避けると、兵士は苛立った表情を浮かべて体を回転させ、大きく蹴りを放ってくる。


俺は蹴りを飛び越えて回転しながら顔面を蹴る。彼は腕で防ぐが衝撃を完全には抑えきれず、横に吹き飛ぶ。そのまま不規則に体をひねり、剣を振ってくる。


今度はその超高速の剣も見える。頭を後ろにそらして、目を狙った斬撃をかわす。バランスを取り戻した兵士は構えを取り、俺も間合いを取って構える。


(兵士)「やっと真面目にやる気になったか。構えは良かったが、無力すぎて殺すのが可哀想だった。だが今なら、戦士として堂々と殺せる!」


(ウゼン)「お前がなんで俺を狙ってくるのかは分からないが、黙って殺されてやる気はない。全力で返り討ちにしてやる!」


(兵士)「その前に名前を教えろ。命を懸ける戦いで相手の名前を知らずに殺すのは礼を欠く。名誉ある戦いに相応しくない…まぁ、どうでもいいか。」


その言葉に俺は目を見開いた。「まさか、こいつらには武士道みたいなものがあるのか?」


(ウゼン)「ウゼンだ。ウゼン・カイドウ。」


(兵士)「妙な名前だな。しかも姓まであるとは…。まぁいい。俺の名はバートラー・オジ。地獄で覚えておけ!」


バートラーは再び突進し、剣を振り上げる。「この動きはもう見飽きた。今度こそ、斬られはしない!」


彼が剣を振り下ろすのに合わせて、俺は後方に跳ぶ。だが脳裏に嫌な予感が走る。あいつのスキルには斬撃の範囲を広げる効果があったはずだ。


俺はニヤリと笑う。


(バートラー)「《ディバイダー・レンジ》!」


避けようと横に跳ぶが、斬撃は肋骨と前腕をかすめる。激痛が走るが、バートラーの動きが鈍った。強力なスキルの反動か。


俺は好機を逃さず、ステータスにあったスキルを使う。顔面を狙い、叫ぶ。


(ウゼン)「《加速拳》!」


拳が信じられない速度で加速し、顔面に命中。バートラーは吹き飛ぶ。


さらに追撃を仕掛ける。顔を守り、剣を盾にするが効果は薄い。ならばと足元を狙い、足払い。倒れたところに踏み込もうとするが、彼は横に転がって回避し、すぐに立ち上がって剣を振る。


距離がある、またあのスキルか。


俺は身を低く構え、剣が頭上を通過。間合いを詰めて飛び蹴りを放つ。剣で防がれるが、バランスが崩れる。剣が振られるが距離が近すぎて避けきれない。


「くそっ、この距離じゃ…!なら、手段を潰す!」


俺は剣を素手でつかむ。手のひらが裂けるが、確実に止めた。剣を引き寄せると、バートラーもつられて引き寄せられた。


そこにもう一発、《加速拳》。これで三発目だ。


バートラーはよろめくが剣を離さない。さらに数発殴る。彼は気を失いかけるが、目を見開く。


(バートラー)「《ディバイダー・レンジ》!」


剣を振らずに発動、俺の指が四本飛ぶ。尋常じゃない痛み。剣を取り戻したバートラーが叫ぶ。


(バートラー)「《ピアス》!」


剣が刺突となり、俺の肩を貫く。痛みで思考が飛びそうになる。


その時、脳内に電流のような感覚。新たなスキルを獲得した。


【ペインアブソーバー Lv1】:痛覚を抑制するスキル。


痛みが和らぐ。回復するのは分かってる。この好機を逃すな。


剣を抜かずに踏ん張り、全力で拳に力を込める。


(バートラー)「何をする気だ!? くそっ、抜けない!!」


(ウゼン)「《加速拳》!!」


彼は剣を手放し、避けようとするが間に合わず、腹に直撃。血と胃の内容物を吐き出し、吹き飛ばされ木に激突。


肩に刺さった剣を抜き捨てる。「クソ、痛ぇ…[ペインアブソーバー]があってもまだキツい。レベルが低いからか?」


木にもたれかかりながら立ち上がろうとするバートラーに近づく。


(バートラー)「この野蛮人が…貴様ごときが…よくも…」


勝利を確信し、難しい決断が迫られる。殺すか、放っておくか。しかしよく見ると――


あの一撃は無防備な急所を捉えている。奴は呼吸すら困難で、数分も持たないだろう。自分の回復スキルは他者には効かない。深く息を吸い、決断する。


(ウゼン)「質問がある。お前の状態は致命傷だ。正直に答えるなら、慈悲の一撃で苦痛を終わらせてやる」

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