目が覚めたら、錆びた鎧だった。〜記憶も声もないけど、とりあえず人助けを頑張ります〜
とれりか
1章 エテルナ大森林編
1話 ???「ここはどこで、俺は誰?」
気づいたら、暗闇の中にいた。周りを見渡しても、灯りの一つもありはしない。
……どこだここ?
そう疑問に思って、何か手掛かりを思い出そうとすると、気づいた。
なんも思い出せない。
なんで俺はこんなとこで寝ていたのか。
なんでこんな真っ暗闇なのか。
ここはどこで、そもそも……
俺は誰なんだ、ということすらも。
次に襲ってくるのは、恐怖。
どこまでも続くようなこの暗闇は、今ここにある自分という存在さえ曖昧にしてくる。
俺は本当に存在しているのか?
一度そう思ってしまったら、負の思念が次々と沸き起こってくる。
やばい、気が狂いそうだ。
いや、すでにそうなのかもしれないが、もう辛抱たまらん。
この意味の分からん空間から脱出すること。
まずそれを第一として、俺は思いっきり走り出した。
そして数秒もせず壁にぶつかった。
石のような物体が砕ける感触と、響音。
ああ、良かった。どうやら俺はちゃんと存在するらしい。
これだけで泣きそうだ。
……いやなんか速いなこの身体!?
あとなんか異常に硬い気がする!
壁にぶつかって粉砕するとかそんなんある!?
まあいいや、いまそんなこと考えてもしょうがない。
壁があって砕けるなら、とりあえず殴り続けていけば出口に辿り着くだろう、多分。
一度やることが出来たならあとは気が楽なもんで、俺は夢中になって壁を壊し続けていった。
あと壁に近づいて初めて分かったけど、なんか俺の頭がぼんやり光ってるらしい。
何者なんだよ、俺。
何時間か殴り続けていくと、壁の種類が変わった。
種類っていうかこれ土じゃない?
推測するに俺はおそらく地下の施設に居て、そしてついぞ通路に出ることはなく、建物の外側に到達したんだろう。
ということはだ、地中に埋まってることが分かったので後は上に向かうだけなのだ。
流石に真上に土を掻き分けて行くのは難しかったので、斜め上へどんどん進んでいく。
モグラでもこんな掘らないぞ、という気分になってきたところで、右手が空を切った。
……地上だ!!
左手も突き出し、そのまま両手で地面を掴んで、全身を引っ張り上げた。
一瞬、視界が白に染まる。
眩しい、太陽だ。
とんでもなく久々に日光を浴びた気がする、記憶ないから知らんけど。
体中に付いた土を落とそうとして気づく、俺めっちゃ錆びた鎧着てるわ。
これのおかげで壁ガンガン破壊できたのか?
ありがたい、ちゃんと手入れしてあげよう。
土を払うために鎧を脱ごうとして、はてと疑問に思う。
脱げねぇ。
え?固着してんのこれ?もうさっきから初めての発見ばかりで疲れてきたよ?
もういいや、脱げないなら脱げないで。
半ば投げやりな気分になりつつ、改めて周りを見渡す。
今の俺は、小高い丘に立っていて、前方には神秘的な気配を感じる森林が広がっている。
くるりと後ろを振り返れば、対照的なまでの荒涼とした荒野が広がっていた。
少しの間、座り込んで呆けていた。
急にやることがなくなったからだろう。
考えても仕方のないことも多すぎるし。
現実的にこれからどうしようかと少しは真面目に考えようとした時、遠くから悲鳴が聞こえてきた。
助けにいかないと、なんて思う間もなく体は動き、
悲鳴が聞こえてきた森の方へ目を凝らせば、何かが人間の女の子へ襲いに行っているのを見つけた。
なんだあれ?土塊の人形みたいな、よくわからん。とりあえず殴ろう。
グッと片足を踏み込んで飛び出して、土塊と女の子の間に割り込んだ。
土塊は突然現れた俺を敵とみなしたようで、女の子に振るおうとした右手?をそのまま俺に向けて殴りかかってきた。
後ろに女の子がいるので、避ける選択はなしだ。
どうも俺の力は相当なようで、俺よりもでかい土塊の拳を特に苦も無く受け止められた。
なんとなく興奮というか、我を忘れてるような印象をこの土塊から受けたので、落ち着けと念じながら相手の腕を捻り地に伏せさせた。
しばらくジタバタともがいていたが、段々と動きが鈍ってきて、最後には動きを止めた。
大丈夫かこれ、殺しちゃってたら寝覚めが悪いぞ。
女の子の方を見ると、エメラルドグリーンの丸目を大きく見開いている。
そりゃこんな錆びた鎧が飛び込んできたらびっくりするか。
ただ彼女がそうしてたのも束の間で、急いで立ち上がるとお団子に結かれたオレンジの髪が見えるほど深々と礼をしてきた。
「ありがとうございましたっ!」
女の子に気にしないよう伝えたいと思ったところで、さて困った。
喋るのってどうすればいいんだ……?
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