第51話田舎の風景

「…絶景…」


優花の実家がある場所は山の中腹だった。


家の側にみかん畑が広がっている。

そこの山自体が優花の実家が所有しているものらしく、実家の少し下で田んぼがあり、家の周りは柑橘類を育てている。そして家より上にハウスがあり、そこでブドウの生産をしているようだ。


標高もそこそこあり、遠くに海が見える。田舎ならではの景色が広がっている。


「温州みかん、カボス…何か他もありそう」


見ているだけで楽しくてみかん畑を歩いて回る。

食材探しに似ている。


「オレンジ?何かちょっと変わったの作り出したみたいなんだけど…評判はイマイチらしくって…。あとは…何だっけ?不知火?」


「手広いな。ブドウはハウスなんだ?」


「うん、ブドウも何種類か…。最近、ワイン作ってみてるみたい。白ワインじゃないって怒られたんだけど、私にはよく分からなくって。行ってみる?」


俺の様子に、優花はクスクス笑いながらそう勧めてくれる。


「結婚の許しを得る為に来てるのは分かってるんだけど、楽しいな」


「将悟さんが楽しそうで私も嬉しいよ。まさかこんなに楽しそうにしてくれるとは…」


優花の地元に着いてからは、何だかんだと笑われている気がする。楽しいのもあるが、優花の地元だと思うと浮かれてるのもあるのかもしれない。


この環境で彼女が育ったのだと知るのが嬉しい。


「でも山の上だと学校行くのは大変そうだなぁ」


「そうなの。でも高校の頃はお兄ちゃんが大学行くのにアパートにいたから、私もそこに住んで通ったけど」


たわいも無い話をしながら、今度はブドウが植わっているハウスに辿り着く。


手前のハウスを覗かせてもらうと、そこにはシャインマスカットが実っている。


「おっ、美味そう。これもさっきの農産物直売所で売ってる?」


「…多分?お兄ちゃんとは父や母程話す時がなくて、あんまり聞いてないの」


まぁ兄と妹ならそんなものかもな。自分の妹ともそんなに普段は話さないので納得する。


そこへ女性がやって来る。


「優花。おかえり。」


「お母さん、ただいま」


「畑とか案内しても面白いもんは無かろうもん?」


優花の母にニコニコしながらもそう言う。

優花は母に似ている気がする。


「初めまして。先日は突然お電話で失礼致しました。私が優花さんにお願いして案内して頂いたんですが、ご迷惑では無かったでしょうか?」


「迷惑とかとんでもない。」


俺の言葉にアワアワしながら、優花の母は答える。仕草が優花と似ている。


「良かったです。ここに来る前に私の同僚のコックと丁度オレンジの話をしていたんです。ここでもオレンジの生産をしていると…」


「そうなんですけど、アレはイマイチの売れ行きで…。実が赤すぎて見た目が良ぉないんかも…」


実が赤い。優花の母の言葉が引っかかった。


「…もしかして…ブラッドオレンジ…?」


「そうです。それです。お父さんが作ってみたいって言って作ったんやけど…」


「…タロッコです?モロです?」


思わず聞き込んでしまう。


「あら、詳しいんやね。両方ですよ。」


「…将悟さん?それって…さっきホテルで話してた…」


優花も話の流れが分かったようで、そう言ってきた。

俺は頷く。まさか優花の実家で探していた食材の一つが見つかるとは。


「…本来なら別件でこちらに伺っている時に話すことでは無いかもしれませんが、後程…そのブラッドオレンジについてお話させて頂けないでしょうか?」


この地に来てから嬉しい事ばかり。


「もうすぐお父さんが帰ってくるけん、その時に話してみたらええね。」


優花の母は笑顔でそう言った。

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