お手紙届けに三千里
無知な無色
第1話
「あちぃ~…お前もそう思うだろ…」
返事はない…屍のようだ…
ここは戦場…紛争地帯ってやつだ。
とはいっても周りには、でこぼこの地形と死体しかない。北のナントカって国と南のナントカって国が争っていて、東のエブバって国がたまに出張ってくる、そんな戦争だ。今は南の国が押していて、ここら辺に兵はいない。いるのは死体と死体あさりだけ。まぁ、こうして語っている俺は後者なわけだが、いつ前者に成り代わるかは分からない…そんな場所だ。エブバ出身の10歳、名前は訳あって捨てた、職業死体あさり絶賛転職希望中…それが今の俺だ。
「はやく漁らねーとな」
死体の戦利品は基本殺した奴のものだ、だけど殺した奴は戦争で大忙し…。今、戦はここより北で行われている。今日の戦が終わるまで戦利品回収には来ない。日が暮れる前に、もしくは、またここが戦場になる前に戦利品を掠め取る。それが俺たちスカベンジャーと呼ばれる死体あさりの仕事だ。
(今日はこいつで終わりにするか…)
死体あさりは基本、小さいアクセサリーを狙って行う。そして時間になったら大きい武器や防具を持って帰る。それが一番稼げるやり方だ。当たりが出る可能性も増えるしな…
今日の収穫は少ない、アクセサリー2個と今から漁る防具のみだ。ちんたらしていると兵士がやってくる。戦利品を掠めとる俺たちは、兵士や傭兵にとって売り上げ泥棒だ。見つかったら、即刻切り捨てられるか奴隷として売られる。急いで収穫品をキャンプがある廃村に持ち帰る。
キャンプについたら安心だ、買い取り屋が守ってくれるからである。買い取り屋は俺たちスカベンジャーの品を捨値でしか買い取ってくれない。今は戦時中で、装備なんて捨てるほどあるからだ。それでも金になるのだろう。兵士に絡まれたりすると用心棒を使って守ってくれる。
「もう少し高くならねーのか」
「はぁ…いつもと変わらんだろ」
いつもの飯2食分の駄賃だ。こいつは、アクセサリーの量が多かろうが少なかろうがこの値段だ。この金があれば俺たちが生きていけるとわかっての値段だろう。金のかからない奴隷扱いだ。しかし、他じゃもっと安く買いたかられる。だから俺はこいつの機嫌を損ねないよう値段が変わらなかろうが品を全部売る。
それから、いつもの飯屋で朝夕二食分を買って、いつもの寝床に向かう。
(今日も疲れた…)
寝床の廃墟に入るといつものメンツがいた。スカベンジャーの孤児たちだ。一応同業者だな。スカベンジャーはほぼ子供しかいない。15歳以上になると冒険者か傭兵に登録でき正規の金になる仕事ができるようになって力もつく。俺たち14歳以下の孤児はいつ捕まって売られるか分からない、金も力もない弱い存在だ。夜は集まり数で対抗するしかない
「おつかれ」
「おう…」
バンダナの少年が声をかけてきた。ここの小さいやつら、9歳以下を束ねるリーダーみたいなやつだ。10歳以上は俺含め数名いるが基本単独行動だ。昼の仕事中は平原だから兵士を見つけやすい、距離があるなら逃げたほうが生存率は上がる。だから、昼は単独行動で逃げ、夜は集団で防御する。
「あたりはあったか?」
「今日も外れだ」
当たりとはマジックアイテムや武装のことだ。マジックアイテムとは礼装、魔道具とも呼ばれ魔力で何かしらの効果が発動するもので、武装は闘気で発動し宝具とも呼ばれる。どちらも高く売れるのだ。闘気は鍛えなきゃ使えないから武装は判断つかんが、魔力は使えるので品を売る前に流して確かめてる。
「水がもう少しでなくなりそうなんだ」
「まじか…」
「節約して使えよ」
バンダナが俺を睨む。昨日俺がシャワーに水を使ったのを知っているのだろう。だが、この前当たりを引き、その金で大量の水をグループに持ち込んだのは俺だ。あまり強くは言えないのだろう。当たりは火の魔道具だった。水の魔道具が欲しかった。
「ストックは?」
「一昨日なくなったって言ったろ…..聞いてなかったな」
「ぐぬぬ…」
ストックというのは、井戸で水と交換してもらえる木札のことだ。俺たちのグループが節約して使えば、5日は持つ量が貰える。3日でなくなりそうというのは使いすぎだ。
(誰だ全く…)
シャワーで、はしゃぎすぎたか?
「明日は朝から働くよ、ついでに当たりも引いてきてやる」
「分かったならいい」
このグループにいる条件は水の交換札の提供が必須だ。水は必須アイテムな癖に、この地域では高いからだ。メンバーに年齢差があるためノルマはないがあまり納めないでいるとまずは睨まれ、次に無視、最後には追い出される。俺は先月当たりを売った金で買った交換札10数枚納めたが、如何せんはしゃぎすぎたため睨まれた。こどもたちを綺麗にしてやっただけなのに…
明日は朝から働くことが確定なため、今日は飯食って寝ることにする。兵士が取り残した戦利品を戦が始まる前に取りに行くのだ。
俺が寝床に入ると子供たちがよってくる。
「にいちゃ、一緒に寝よ!」
「ああ…」
子供たちを寝かしつけるのは体力を使うがしょうがない。かわいいからな。臭うのが玉に瑕だが…
「お前も大変だな」
「うるせー…早く寝ろ」
バンダナがうるさいのでぶっきらぼうに返す。俺たちは互いを名前で呼び合わない、メンバーが結構な頻度で変わるからだ。
「死に急ぐなよ」
「分かってる…」
死んだら終わりだ。なにもかも…そんなことは誰もが分かってる。
(ああ…今日も生きている…)
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