Pink Capsule Universe 01:君と僕の子供たち

PCU-01-01 俺が産むとか聞いてない!

 卒業式の日、晴天。

 

 正門前では、制服姿の男子高校生たちが記念撮影ラッシュで賑わっている。

 その中には、笑顔の髙月達希たかつき たつきの姿もあった。

 

 18年間、達希は、男として普通に生きてきた。

 生まれたときからこの世界には女がいない。

 妊娠? ピンクカプセルさえ飲めば男でもできる。

 そして高校卒業後──俺たちは【種付指定組】 と 【出産義務組】を選ぶ。

 もちろん俺は、男の道、種付……いわゆる『』一択だ!


 役所の受付カウンター。

 もらった書類を手にした達希は顔面蒼白になった。


「高月達希さんは、【出産義務組】登録です。おめでとうございます」


「は? 出産義務組? 出産組のこと?!」


 受付の男は達希に目を合わせることなく書類を捌きながら淡々と告げた。


「おめでたくねぇわ!!! これ、なんかの間違いだろ!」


 デスクを両手でバシンと叩く。

 一瞬、周りの空気が止まった気がした。


 受付の男が達希にジロリと目を向け、掛けていたメガネのフレームをスッとあげた。


「いえ、間違いではありません。すでにシステムに登録されています。変更はできません」


「なにそれ、希望出した覚えもないんだけど!?」


 男がため息まじりに説明し出した。


「ご存知かもしれませんが、【種付指定組】もしくは【出産義務組】の選択はできません。全てシステムによってに割り振られます。個々の希望は受け付けていないんです」


 そういや、そんなことを授業で聞いたことが――あの時、つまらなくて寝ていたことを思い出し呆然とする。


「それと、こちらもご存じかと思いますが、このピンクカプセルをに服用し妊活を行なってください。もし期限を過ぎて服用されてない場合、が発動しますので、ご注意ください。では良い妊娠出産ライフを」


 男は何事もなかったかのように、再び書類へ目を落とし「次の方」と呼んでいた。


 ピンクカプセルの入った箱と書類を破りたくなる衝動をこらえる。

 周りを見回すと、出産組登録の男子たちが浮かれた様子で騒いでいた。


 いやいや待て待て待て! 俺の理想は“”!種付け派だ!

 出産組って……俺が腹で育てる側!? そんなの絶対おかしいだろ!!


 でも登録変更はできない。だからと言って、納得なんかできっこない。

 役所を出て、どうすりゃいいんだと頭を抱えて、階段で座り込んでいると、同級生たちが声をかけてきた。

 

「おっ、達希じゃん。その箱ってピンクカプセルだろ? 出産組になったんだ? ウケる!」


「うるせー、俺は種付け派希望だったんだよ!!」


「ま、ピンク組はモテ期だぞ。早く彼氏作って、さっさと腹ポンポンしちまいなーw」


 笑いながら去っていく同級生の背中を見ながら再び大きなため息をついた。


 男にモテる……それが今一番の恐怖なんだよ!!


 帰り道。コンビニのガラスに映る自分の顔をぼんやり見つめた。


 出産組になっただけで、街の景色まで違って見えるのなんでだよ……。

 当然、この世は男しかいない、なのに全員が肉食猛獣に見える……!


 ピロン〜とスマホに「婚活・妊活アプリ・出産組優待パック」通知が届く

 

 アプリを開くと、婚活の仕方や妊娠の方法、つまりセックスの方法まで図入りやビデオで詳細に書かれてあった。妊娠中のことや子育てのことも書いてあるが、思わずビデオの内容に釘付けになる。


 『最高のセックスで妊娠しましょ〜』とビデオが締めくくる頃には、顔に熱が集まっていた。


 妊娠の方法は学校の授業でも習ったはずなのに、いざ出産組となった自分が『ウケ』をするとなると見方が変わる。

 出産組は腸内洗浄やら準備が大変だったから、種付け派が良かったんだ。


 さらにアプリには、『期間限定で、オススメの男性を五人紹介します!』と表示されていた。


 役所のメガネ男の言った言葉を思い出す。


 『3ヶ月以内にピンクカプセルを服用しなければ、強制的に妊娠プログラムが発動……』


 強制妊娠プログラム――つまり種付け派からランダムに選ばれた奴とセックスして妊娠するということなのかー?


 知らない奴とセックスして妊娠……考えただけでも寒気がする。

 

 焦るな俺。まだ3ヶ月ある。

 どうせなら――好きな奴とヤって子供を産みたいっつーの!


 歩いていると、スーツ姿の男たちがガヤガヤと集団で道端にたむろしてるのが見えた。


 なんか嫌な感じがする……。


「おや、出産組に登録したばかりの子だね?」

 

「可愛い顔してるな。初産、俺が責任もって世話してやろうか?」


 まさに肉食猛獣が獲物を見る目で俺をみてくる!


「ひっ、出た……種付け猛獣……!!」


 その場から全力疾走する。

 やっぱり出産組は嫌だーー!


 


 

 家へ帰ると、すぐに自室のベッドに倒れ込む。

 机には、役所でもらった「ピンクカプセル初回パック」と【出産義務組】登録完了書類。


 出産組ってだけで狙われる人生、マジでやってらんねぇ……。

 でも好きな相手ができるまで、絶対飲まない。絶対だ……!


 そういや、初回パックの中には、ピンクカプセルの他に、アナルローション、バイブ、さらには浣腸液まで入っていた。

 実物をまじまじと眺めては、やっぱ無理だー!と叫ぶ。


 ピンクカプセルの箱を睨みながら、枕に顔を埋めた。


 しかし期限は3ヶ月。

 どっちみに妊娠しなくてはならない人生。それなら――。


 明日から婚活だ。どうせなら恋愛して、好きな奴の子供を産んでやる! 覚悟しろ世界!!


 その夜、夢にまで出てくる種付け猛獣たちに追いかけ回され、うなされる達希だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る