第39話 健司の告白
夜の村に、静かな緊張感が漂っていた。
遠くの地平線の向こうに、わずかに立ち昇る煙。
それが、王国軍の陣営の存在をはっきりと示している。
――ついに来たか。
健司は防壁の上に立ち、夜風に髪をなびかせながら、遠くを見つめていた。
この数日間、レミュールや仲間たちと作戦を練り、防衛線を張り巡らせた。
村の皆も必死に準備をしてきた。
それでも、王国軍の圧倒的な数を前にすれば、不安を覚えずにはいられない。
ふと、背後に柔らかな気配を感じた。
「……健司」
振り返ると、そこにアイリが立っていた。
薄い外套を羽織り、銀色の髪が月光を受けて光っている。
「こんな時間に、どうした?」
健司が尋ねると、アイリは少し微笑んだ。
「あなたがここにいると思ったから」
それだけ言うと、彼女も防壁に手をかけ、夜の景色を見渡した。
しばらく二人の間に、静かな時間が流れた。
言葉はいらなかった。ただ隣にいるだけで、互いの胸の中にあるものが伝わっていた。
だが、健司は今夜、どうしても伝えなければならないことがあった。
この夜を越えた先に、どんな未来が待っているかはわからない。
だからこそ、今、この瞬間に。
「アイリ」
呼びかけると、アイリは小さく首を傾げた。
「……俺は、ずっと考えていたんだ」
健司は言葉を探しながら、ゆっくりと続けた。
「この村を作った意味、自分がここで何をしたかったのか。そして……これから何を守りたいのかを」
アイリは静かに聞いていた。
その瞳には、真剣な光が宿っている。
「俺にとって、この村は……ただの避難場所じゃない。ここで出会った人たち、ここで生まれた絆……それが、俺に生きる意味をくれた」
健司はぐっと拳を握った。
「でも、それだけじゃないんだ」
アイリが、そっと彼に視線を向けた。
「僕が守りたいのは……アイリ、お前なんだ」
その言葉は、夜の静寂に溶けるように響いた。
アイリは驚いたように目を見開き、すぐに顔を伏せた。
「……どうして、今、そんなことを?」
健司は苦笑した。
「たぶん、僕はずっと怖かったんだ。大切なものを口に出したら、失うのが怖くて」
「……」
「でも、もう迷わない。僕は、お前と一緒に生きたい。どんな未来でも、たとえ……明日が来なくても」
アイリの肩が小さく震えた。
それが、感情を押し殺しているからなのか、泣きそうになっているからなのか、健司にはわからなかった。
やがて、アイリは顔を上げた。
そこには、涙を浮かべながらも、まっすぐに健司を見つめる強い瞳があった。
「……私も、あなたと一緒にいたい」
声が震えていた。
けれど、アイリははっきりと、言葉を紡いだ。
「あなたが私を必要としてくれるなら、私はどこまでも、あなたについていく」
健司は何も言わずに、そっと彼女を抱き寄せた。
アイリも、小さな体を健司に預けた。
夜風が二人を包み、月が静かに見守っていた。
**
その後、二人は防壁を歩きながら、これからのことを語り合った。
王国軍との戦い、村の未来、そして……いつか築きたい本当の国の姿。
「戦いが終わったら……この村をもっと大きくしよう」
「うん」
「みんなが笑って暮らせる、そんな場所に」
アイリは頷き、健司の手を握りしめた。
その手は、温かかった。
互いのぬくもりが、夜の冷たさを忘れさせた。
**
明け方。
村の鐘が低く鳴り響いた。
王国軍の動きがあったのだ。
健司とアイリは、ゆっくりと手を離し、顔を見合わせた。
「行こう、アイリ」
「ああ」
二人は並んで歩き出した。
仲間たちが待つ場所へ、村を守るために。
そして、互いの想いを胸に――。
夜が明ける。
希望と、覚悟の光が、村を包み始めていた。
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