第36話 村づくり

翌朝。


 健司たちは村の広場に集まっていた。

 昨日合流した「白銀の翼」の騎士たちも、すでに全員が揃っている。


 アランが静かに一礼すると、健司が一歩前に出た。


 「――これから、この村をもっと守れる場所にしたい。村を囲む防壁や、生活のための施設を充実させる。できるだけみんなで、力を合わせて進めたい」


 健司の声に、仲間たちが真剣なまなざしで頷いた。

 アイリが一歩進み出る。


 「私たちはここで暮らすんだもんね。みんなで作ったほうが、絶対にいいよ」


 ルディオが笑いながら肩をすくめた。


 「音楽だけじゃなくて、大工仕事も覚えないといけないか……」


 カリナは元気よく拳を突き上げる。


 「なんだってやるよ!健司たちと一緒なら、何でも楽しい!」


 ライクはぶっきらぼうな顔をしていたが、うっすらと笑っていた。

 リズも、控えめに手を挙げる。


 「診療所も、ちゃんと建て直したい……みんなが安心できる場所に」


 アランが、健司に向かって真っすぐに言った。


 「白銀の翼も力を貸します。この村が新しい国になる、その礎を築きましょう」


 健司は、胸が熱くなるのを感じた。

 仲間がいて、信じ合える場所がある。

 それはかつて、どれだけ願っても手に入れられなかったものだった。


 **


 まず手を付けたのは、防壁だった。

 村を囲むように木材を運び込み、頑丈な柵を立てる。

 アランたち白銀の翼の騎士たちは、剣技だけでなく建築技術にも長けていた。


 「もっと角度を鋭くしろ!突撃に強くなる!」


 「基礎はもっと掘れ!浅いと簡単に倒されるぞ!」


 彼らの指示のもと、村人たちも協力して作業を進める。

 鍛冶屋のロルフじいさんは、工具の修理を担当し、若者たちは材木を運び、子どもたちまでもが小さな手で釘を運んだ。


 ルディオとカリナは、楽しそうに競い合いながら柵を組み立てていく。

 ライクは真面目な顔で力仕事に専念し、リズは休憩時間に水を配って回った。


 そして、アイリは――

 「みんな、無理しないでね。交代しながらやろう!」

 と、まるで母親のように皆を気遣い、声をかけて回っていた。


 健司はその姿を見つめながら、自然と笑みを浮かべた。

 ――これが、俺たちの国だ。


 **


 防壁が完成する頃には、村の様子も大きく変わっていた。

 広場には白銀の翼たちが設計した見張り台が立ち、診療所もリズの希望で新しく増築された。

 水場も改良され、生活の質がぐんと上がった。


 夜。

 広場でささやかな祝いの宴が開かれた。

 焚き火を囲みながら、皆が酒を酌み交わし、笑い合った。


 ルディオが楽器を取り出し、軽快な調べを奏でる。

 子どもたちが手を取り合って踊り出し、大人たちも笑顔でそれを見守った。


 「……これだ」

 健司は、小さく呟いた。


 かつて求めていた、誰もが笑っていられる国。

 ここには確かに、それがあった。


 アランが隣に座り、杯を差し出す。


 「陛下――いや、健司。ここが、貴方の理想の国ですね」


 健司は杯を受け取り、笑った。


 「まだ始まったばかりだけどな。でも……ここから築いていける気がする」


 杯を合わせる音が、夜空に小さく響いた。


 **


 宴が終わり、夜が更ける。

 健司はふと、見張り台へと登った。


 静かな村を見下ろしながら、満天の星を仰ぐ。


 ――絶対に、守り抜く。

 この場所も、人々も。


 その決意を胸に、健司はそっと目を閉じた。

 星のきらめきの中、かつての後悔も、痛みも、少しずつ癒えていく気がした。


 やがて背後から、アイリが静かに近づいてきた。


 「健司。……もう、ひとりじゃないよ」


 健司はゆっくりと振り返る。

 アイリの柔らかな微笑みが、夜の闇に溶けていく。


 「……ああ。ありがとう、アイリ」


 そっと差し出された手を、健司は強く握り返した。

 この手を、二度と離さないために。


 こうして――

 小さな村は、確かに新たな「国」として、一歩を踏み出したのだった。

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