情報共有と今後の方針




 収拾がつかなくなりそうなので、とりあえず飲み物を買いに行って一息つくことになった。

 ちなみに、買い出しに行くメンバーに選ばれたのは美佳里と雪乃である。

 アーティファクト――推定数百億レベルになりそう――を部室に置いてみんなで買い物に出たり、何かがあった時に戦える流霞と奏星を外に出すのが不安、という理由である。


 ともあれ、気持ちを落ち着けてからの雅の動きは早かった。

 まずは父親と母親に連絡し、アーティファクトを手に入れたこと、合同研究の要請。それに加えて、価値があまりにも高騰しそうな代物であるため、取り急ぎ護衛のメンバーを手配してほしいことなども伝えた。


 雅の両親も突然の娘からの連絡に驚いてはいたようだが、迅速に決断し、『明鏡止水』のメンバーでもあり雅の姉である、長女の柚芭ゆずはと次女の渚沙なぎさが急ぎ向かうということになったようだ。


 そうして一通りの連絡を済ませ、部室の隅でARグラス越しに通話をしていた雅が振り返り――思わずぎょっとした。



「……アーティファクトの存在は外には知られてないから、二人ともそんなガチモードじゃなくていいけど? つか今更じゃん? 廊下でフィーバーしちゃったし。まあこの時間この階で活動してんのウチらだけっぽいけど」



 魔装を展開した流霞と、細剣をいつでも抜けるように片手を据えている奏星。

 流霞の目はプラベ配信で上層を攻略している時よりも殺意が漲っているようにも見える。2、3人は葬ってもおかしくないぐらいの目つきだ。



「分からないよ……! ほら、『明鏡止水』のライバルクランとかが出し抜くために盗聴したりしてて、先に奪ってやろうって送り込まれてくるかも……!」


「あるあるじゃんね、それ」


「や、ウチってこんな家庭だから、家族回線は専用の独立回線でセキュリティ尋常じゃないんよ。盗聴なんて不可能だから」


「えっ」


「つか、そりゃ家族ぐるみで色々やってんだから、ちゃんとそういうの入れて対策ぐらいしてるって。一般で使われてるような回線とかアプリとかで通話する訳ないっしょ?」


「……あ、ハイ」


「え、そうなん?」


「そりゃね。……なーんでるかちー、ちょっとガッカリするわけ?」


「し、してないよっ!?」



 授業中にテロリストだとか、なんかこう危ない神を信仰している邪神だとか、そういう系が攻め込んでくるのを妄想する系女子であるのだ。

 ついついそういう展開を、巻き込まれたくはないのに妄想していたようであった。



「たっだい――」


「――【朧帳】!」


「やめんか」


「ぐぇーっ」



 部室の扉を開いて美佳里が声をあげた瞬間、流霞が【朧帳】を発動――させようとして、奏星に先んじて襟首を捕み、出鼻を挫く。

 突然そんなものを目の前で見せられることになった美佳里が、きょとんとした表情を浮かべて周囲を見回した。



「――……え? 何? なんでいきなりスキルされたん? あーしきひられるん?」


「るかちーが暴走しただけ」


「ウケる」


「いや、あーしきひられたらガチで死ぬって。ウケんなし」


「冗談だって。はよミカミカ入って」


「はいはい」



 美佳里の後ろにいた雪乃にツッコミを入れるも、さっさと入るように言われて中へ入ると、雪乃が遅れて部室に入り、しっかりと鍵を閉めた。

 そうして飲み物をそれぞれの席に置いてから、全員それぞれに部室中央のテーブルに腰を下ろした。



「とりあえず、ウチ、ってか『明鏡止水』から姉貴たちがこっちに護衛に来ることになった」


「教えていいん?」


「ん、まね。ただ、これは『明鏡止水』でも幹部級だけに伝える形になるから、当面はオフレコでいく感じ。ただ、部室にコレ置いておく訳にもいかないから、今後はこれ、セキュリティの強いとこに持ってって、そこで使用する感じになるかな」


「ま、そうなるよね」


「詳しくはあーしの方でちょっと相談と調整すっから、そういうことでよろ」


「異議ナーシ」


「ういういー」


「奏星とるかちも、それでいい?」


「ん、問題なし」



 奏星の横でこくこくと頷いている流霞も、雅の問いかけに肯定を返す。


 実際、学校という不特定多数の人間が出入りできるような環境では、何が起こるか分かったものではない。

 部室棟はセキュリティがかなり厳重で、システム管理されているため出入りは制限できるものの、それでもそれは〝あくまでも普通に比べてセキュリティがしっかりしている〟、というようなレベルでしかない。


 アーティファクトなんて代物を保管しておくのはあまりにリスキーなのは否めない。かと言って、誰かが持ち運びするなんて心臓に悪すぎるのだ。



「ま、そっちはいいよ。それよりさ、さっきの最後のアレ、何? 三人とも第1スキル発現したってマ?」


「そう、それ!」


「アーティファクトで魔力を動かすことで、ウチら揃って【魔力感知】ってスキル覚えたっぽくてさ。多分、それが〝魔法〟を示す因子を扱う大前提条件じゃないかなって。これを操作できるレベルになることで、それぞれの因子スキルに繋がるんじゃないかってのがあーしの仮説」



 そう言いながら、改めて雅が映写機を通してホワイトボードに雅の【魔法薬調合】、美佳里の【魔弾の射手】、それに雪乃の【魔導裁縫】というそれぞれの因子の名前を表示し、〝魔〟という部分を赤い丸で囲った。



「そっか、全部に〝魔〟が関係してる……」


「ほぼ確定っしょ」


「雅の言う通りっしょ。つか、もうそれ以外考えらんなくね?」


「それな」



 流霞と奏星も雅の説明に否やはなく、続いて美佳里、雪乃もまた同意を示す。

 周りからの同意を得られたことで素直に喜ぶかと思われた雅だが、しかしどこか難しい表情を浮かべていた。



「ミカミカ、ゆっきー。これはまだ仮説段階ね。別の可能性もあるかもしれないってこと、忘れないで」


「んん? なんで? もう間違いなくね?」


「ミカミカ、これに固執し過ぎない方がいい、ってことじゃね?」


「それ。ゆっきーの言う通り。あーしも手探りだし、確定って言うにはまだ早いっしょ。だから常に他の要因も意識しなきゃって話」


「あー、ね。りょ」


「それと、るかちー、奏星」


「はぇ?」


「んふ、るかち気ぃ抜けすぎじゃん」


「え、あ、ごめんなさい!」



 唐突に水を向けられた流霞が、さも自分は関係ないと言わんばかりに飲み物を飲もうとしていて力のない返事をするものだから、思わず奏星からのツッコミが入った。

 そんなやり取りに全員がくすくすと小さく笑い、雅は気を取り直し、改めて続けた。



「このアーティファクトの実験も含めて、しばらくウチらは部室じゃなくて保管施設をベースに活動することになると思う。で、装備は手配するから、しばらく二人はダンジョン探索ガンガンやって、色々な素材をどんどん集めてほしい」


「うん……うん?」


「装備は手配するってどゆこと?」


「今回の件で確実にウチに利益は出るから。まずは二人の分、既存の最高級装備、オーダーすっから」




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