流れを変える

中野高校フィールド、平日午後

春の太陽が中野高校のフィールドを焼き、風が吹くたびに土埃が挑戦的に舞い上がった。トライアウトマッチ——一軍対二軍——は過酷な試練の場だった。卒業した先輩たちが残した一軍の空き枠を、二軍が奪い取るチャンス。スコアボードは無情に挑む。

ハヤトはセンターに立ち、使い古したスパイクが土を噛んだ。(こんなに強くなった気分。見せる。)チームメイトを見渡した。ライトの山本リクは、がっしりした体を緊張させ、キャップを調整。レフトの斎藤タロウは、いつものニヤつきが消え、渋い顔だ。マウンドでは、二軍の長身ピッチャー、加藤リョウタが震えていた。グローブが揺れ、一軍の圧倒的な存在感に押しつぶされそうだった。

一軍のダグアウトは傲慢さを放ち、白と青のジャージが陽光の下で輝いていた。山田カントクは、クリップボードを持った厳格な男で、揺るぎない視線で試合を見据えた。二軍の井上カントクは、細身のリーダーで、ダグアウトを行ったり来たりしながら、鞭のような声で叫んだ。「みすみすやられるな!1アウトごとに戦え!」

次の打者がのそりと打席に現れた。一軍の三塁手、田中レン。バットより鋭い舌を持つ男だ。長身で自信に満ち、角ばった顎を傾け、手でボールをポンポンと放り、加藤をニヤリと見つめた。「よぉ、リョウタ!」レンの声が空気を切り裂き、毒々しく嘲った。「その顔、なんだ?もう泣きそうじゃん?それとも、俺に甘い球をくれるか?」彼の笑い声は耳障りで、フィールドに響き、一軍のダグアウトからクスクス笑いが漏れた。

加藤の顔から血の気が引き、肩が縮こまった。(頭に入ってくる…ダメだ…)汗が目に滲み、視線がレンからキャッチャーミットへと揺れた。一軍の先ほどの猛攻——藤本イッセイの電光石火の盗塁、秋山ショウタの四球、ソウマの本塁打——が彼の自信をズタズタにしていた。レンの挑発は、さらに深く突き刺さるナイフだった。

ハヤトはグローブを握り締め、脈がドクドクと高鳴った。(田中先輩、リョウタを潰そうとしてる。このままじゃ終わる。)一歩踏み出し、フィールドに響く声で叫んだ。「リョウタ!その口うるさい奴、無視しろ!」その熱い口調は、自分でも驚くほどだった。「田中先輩だって、ちょっと前は俺たちと同じ二軍だった。西村先輩のパワーには程遠いぜ!」

リクがハヤトの勢いに乗り、ライトから落ち着いた声で叫んだ。「そうだ、リョウタ!田中先輩が打っても、俺たちがカバーする。ミットだけ見てろ!」

タロウはいつもなら皮肉を飛ばすのに、一瞬ためらい、ハヤトをチラリと見た。(いつの間にあいつ、仕切ってんだ?)ぶっきらぼうに唸り、応援を加えた。「1人ずつだ、リョウタ。やれるぞ。」その声は荒々しいが、支える力があった。

その言葉は、リョウタに命綱のようだった。震えが収まり、目が鋭く絞られた。(ハヤトの言う通りだ。田中先輩も俺たちと変わんねえ。前に投げたことある。)拳を握り、外野に小さく頷いた。(カバーしてくれるって信じる。)

レンのニヤつきが歪み、バットを強く握った。(このガキども、なにイキがってんだ?)二軍のダグアウトに唾を吐き、軽蔑を込めて言った。「来年もベンチ磨いてろよ、負け犬ども。一軍に弱虫の居場所はねえ。」

天界、星明かりのオーブ

輝くオーブの周りに集まった神々は、ハヤトの声がフィールドに響き、チームを鼓舞するのを聞き、一瞬静まった。スサノオが身を乗り出し、野性的な笑みを浮かべた。「ハハ!あのハヤトってガキ、まるで将軍みてえに仕切ってやがる!根性あるじゃん!」

ツクヨミは目を細め、冷静な口調で言った。「プレッシャー下でのリーダーシップだ。技術だけに頼らず、チームを一つにしている。」

イナリは狐のような目でキラリと輝き、野球ボールを指でくるくる回した。「それでこそ私の子だ。あの炎、全部ハヤト自身のもの。どう燃え広がるか、見ものだね。」

ハチマンは頷き、重々しい声で言った。「他が崩れるとき、リーダーは立ち上がる。彼がチームをまとめれば、流れを変えられるかもしれない。」

フィールドに戻る

リョウタは深く息を吸い、肩を正した。(怖がってちゃダメだ。こいつらも元は二軍だ。やれる。)腕を振り、キャッチャーミットに目を固定した。初球——ストレート、高め外れ。ボール1。レンがニヤリと笑い、ホームプレートをトンと叩いた。「どうした、リョウタ?インコース投げるの、ビビってんのか?」

リョウタは歯を食いしばり、挑発を無視した。(集中しろ。ミットだけ。)2球目——ストレート、ミットに向かって一直線。レンの目が輝き、頭がフル回転した。(キタ、ど真ん中だ。悪いな、二軍。)クリーンヒットを狙ってスイングしたが、ボールは素直じゃなかった。わずかに沈み、バットの端をかすめた。ボールは弱々しくショートへ転がった。

ハヤトの声がセンターから轟いた。「ファースト!」ショートの岡本カイ、細身で素早い二軍選手が、ボールを拾い、一塁手の清水ケンタに鋭く投げた。アンパイアの腕が広がった。「アウト!」

レンはバットを握ったまま固まり、頭が混乱した。(なんだよ、今の…ボールが…?)一軍のダグアウトにトボトボ戻り、呟いた。「いつからあんな球、投げられるようになったんだ…?」

一軍のダグアウトでは、ハルト、ショウタ、イッセイ、ソウマが視線を交わした。イッセイはグローブを調整し、眉をひそめた。「あのピッチ、変だったな。ストレートに見えたけど、違った。」

ソウマは冷たい目で頷いた。「妙だ。注目しとく価値ありだな。」

ハルトはかすかにニヤリとし、鷹のような視線をリョウタに固定した。「面白い。まぐれかどうか、見てやろう。」

ショウタはニッコリ笑い、キャッチャーの構えを真似た。「あれ、捕ってみてえ。あいつ、何隠してんだ?」

二軍のダグアウトは歓声に沸いた。小林ユウトがダグアウトの手すりを握り、「ナイス、リョウタ!」と叫んだ。声は震えていたが、熱意に溢れ、目は決意で燃えていた。(ハルト先輩にやられたけど、三塁でチャンスがあれば見返してやる。)ハヤトは拳を突き上げ、「ナイス、リョウタ!あと2アウトだ、行けるぞ!」と叫んだ。心の中では、バットを振りたい衝動が抑えきれなかった。(早く、リョウタ、この回を終わらせてくれ。俺のスイング、試したい!)

アウトで勢いづいたリョウタは、次の打者——木村タイヨウと対峙した。一軍のレフトで、コンパクトなスイングと静かな迫力を持つ選手だ。リョウタはまたストレートを投げ、再びボールが微妙に沈み、タイヨウを惑わせた。ボールは弱々しく二塁へ転がり、細長くて反応の鋭い二軍の二塁手、平野ソウタが拾い、ケンタにトスした。アウト2。観客がざわつき、何か妙な気配を感じ取った。

3人目の打者、石川カズヤが打席に立った。一軍の一塁手で、がっしりした体と重いスイングが特徴だ。カズヤはリョウタを睨みつけた。(このピッチ、なんだ?)リョウタはリズムに乗って、またあのトリッキーなストレートを投げた。カズヤがスイングしたが、ボールはショートのカイに転がり、カイがケンタに素早く送球。3アウト。この回、得点なしで終了。

二軍の選手たちはダグアウトに駆け戻り、士気が上がっていた。リクがリョウタの背中を叩いた。「なんだよ、リョウタ!秘密兵器でも隠してんのか?」

リョウタは息を整え、恥ずかしそうにニヤリとした。「いや…いつも通り投げただけ。ミットのおかげかな。」

タロウはフンと鼻を鳴らしたが、目には尊敬の光が宿っていた。「何でもいい、続けろよ。田中先輩のデカい口、黙らせろ。」

ハヤトはバットを手に取り、心臓がドキドキした。(俺の番だ。)一軍のダグアウトをチラリと見た。ハルトが再びウォームアップ中で、鋭い目が光っていた。(怪物だな。でも、俺は準備できてる。)打席に向かい、これまでのスイングの記憶が頭をよぎった。(ここで証明する。)

中野高校ダグアウト、2回表

ハヤトが打席に近づくと、井上カントクが叫んだ。「中軸だ、皆!一軍の座を掴め!」二軍の選手たちは身を乗り出し、さっきまでの絶望が希望の火花に変わっていた。リョウタのピッチングが流れを引き寄せ、ハヤトのリーダーシップが火をつけた。ユウトは手すりを握ったまま、「ハヤト、行け。田中先輩に二軍のままじゃねえって見せつけろ。」と呟いた。手は震えていたが、声にはわずかな反抗の気配があった。

スタンドでは、数人の生徒が興奮して囁き合った。「リョウタのピッチ、見た?あれ、なんだよ?」と手すりを握る生徒。もう一人は首を振った。「でも、ハルトには勝てねえよ。あいつ、マシンだもん。」

ハルトがマウンドに上がり、細身の体から冷たい精密さが放たれた。キャップを調整し、ハヤトに目をロックした。(二軍のガキ、どんなもんか見せてみろ。)ウォームアップのピッチがショウタのミットにバチンとはまり、観客を静まらせた。

ハヤトは打席に立ち、バットが羽のように軽かった。(これ、打てる。)スパイクを土に食い込ませ、集中は鋭く研ぎ澄まされた。三塁のレンがニヤリと笑った。「他の奴らみたいに空振りか、ハヤト?さっさと三振して楽にしろよ。」

ハヤトは無視し、ハルトに目を固定した。(田中先輩、好きにほざけよ。これは俺とマウンドの勝負だ。)グリップを調整し、練習の記憶が蘇った——夜遅くのバッティングセンター、怪我の痛み。(あの頃の俺じゃない。)

ハルトが腕を振り、動きは流れるように鋭い。初球——火を噴くストレートがホームプレートに突き刺さった。ハヤトの目が見開き、本能で体が反応した。(来るぞ!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る