第11話 友人と夏海先生

「は?いとこ……?」

「うん……」


 その時、僕らの周りの空気が物凄く重たくなって、隆史の声以外の音が消えた気がした。


「秋生君? 先生が?」


 町子がポカンとした顔になり、一瞬間をおいてから夏海先生を見た。


「……」


夏海先生は押し黙ったままだ。


「秋生、始めて聞いたぜ?」

「いや、あの」


 秋生が睨むような視線を僕に突きつけてくる。胸が苦しい。


「夏海先生は色々あって……」

「色々ってなんだよ」

「いや、だから、終業式の次の日からさ、僕の家に来てもらっていて」


 ヤバい。言えば言うほど地獄に引きずりこまれていく。


「終業式?あの街中が停電した日か?」

「そ、そうだよ……ほら、凄く大変だったじゃないか」


 なんとかしないと、夏海先生が大変なことになる。僕は顔を隆史に向けることができなくなっていたけど、それでも必死だったことは間違いない。


「それで僕の家でも色々あって、先生は僕の家族みたいな感じで……その……」

「家族って秋生君は……あっ!」


はっとした顔で口を押さえる町子。


「秋生、おまえ……いとこって……ぐはっ!?!?」


 隆史のツッコミを遮るようにドスっという鈍い音が響き、隆史が悲鳴をあげる。


 びっくりして顔を上げた僕の目に、隆史の脇腹に食い込んだ町子の肘という絵面が飛び込んできた。


「ちょっと用事思い出した! ごめん秋生君、また後でね!!」

「あ、ああ……」


 町子は悶絶している隆史を引っ張り、足早に店を出て行ってしまった。


「なんだったんだ、あいつら……」

「……」


 僕と夏海先生は隆史達を呆然と見送ることしかできなかった。


「あの、夏海先生……ごめんなさい。あいつら、悪気はなかったと思うんです……先生?」


 夏海先生は無表情というより、何かを思い詰めて固くなっていたように感じた。


「別に、なんでもありません。買い物を続けましょう」

「は、はい」


 夏海先生は何事もなかったかのように歩き始め、僕は慌ててそのあとを追いかけた。


────────────────────


「ゲホッ、げほ……痛ぇ……なにすんだよ町子!!」

「ふぅ、ここまで来ればもう大丈夫ね」

「町子おまえなぁ、相手がいくら俺だからといって、やっていいこととダメなことがあるだろうがよ!?」


 脇腹を押さえながら、隆史は町子にどやしつけた。


「このバカ隆史!!」

「はぁ!?」

「秋生君、お父さんお母さんと離れて暮らしてるの忘れたの!?」

「え……あっ!?」


 隆史の顔が青ざめた。


「あきれた……本当に忘れてたのね」

「その……悪かったよ……」


 隆史は目を町子から背けた。


「だってよお、秋生が誰かと一緒に買い物してるとか、大ニュースだぜ?」

「それはそうだわ」

「だろ?」

「まぁ私も隆史の片棒かついだのと同じことやったし」


 町子はスーパーを出てから自動販売機で買ったコーラを隆史に手渡した。


「たくよぉ、久しぶりにお前の肘をくらったぜ」

「たまにはいいでしょ。それよりも、あとで秋生君に謝らないと」


隆史はコーラの缶を開け、一気に飲み干した。

「ぶはぁっ! そうだな、あいつに悪いことしちまった」

「それにしても……」


 コーラと一緒に買った水のペットボトルを開ける町子。


「なんか先生も秋生君も、学校の時とは雰囲気が変わってたわね」

「先生はわかるけどよ、秋生はいつも通りだった気がするぜ?」


 町子はやれやれと言わんばかりに肩をすくませ、ペットボトルの水を一口飲んだ。

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