第24話:達人の笑みと六人目の仲間?
ドスッ、という重い音が、山間に響いた。
俺の左ストレートは、確かにジンの腹部を捉えた。
手応えはあった。
だが、相手は達人だ。
これで倒せるとは思えない。
しかし、ジンは、俺の拳を受けた瞬間、驚いたように目を見開き、そして、数歩後退ると、その場にゆっくりと膝をついた。
「……ぐっ……参ったわい……」
ジンは、腹部を押さえながら、苦笑いのような表情で言った。
「まさか……この儂が、若者の拳をまともに受ける日が来ようとはな……見事じゃ、嬢ちゃん」
俺は、警戒を解かずにジンを見据える。まだ、油断はできない。
仲間たちも、武器や魔法を構えたまま、固唾を呑んで成り行きを見守っている。
ジンは、ゆっくりと立ち上がった。その顔には、敗北の悔しさよりも、むしろ満足感のようなものが浮かんでいた。
「いやはや、驚いたわい。あんたのその『武』……儂の知るどんな流派とも違う。それでいて、恐ろしく合理的で、洗練されておる。それに、あんたの仲間たち……未熟ながらも、見事な連携じゃった」
ジンは、ゴルドーたち一人一人を見回し、感心したように頷いた。
「儂はジン。しがない武術家の爺じゃ」
ジンは、改めて名乗り、俺に向かって頭を下げた。
「あんたの名は、アステラルダ、と言ったかの? その見事な武術、そして仲間たちとの絆……久々に、心が躍るものを見せてもらったわい」
そして、ジンは、予想外の言葉を口にした。
「なあ、アステラルダ。儂も、あんた達の旅に、少し付き合わせてもらえんじゃろうか?」
「「「「「はぁ!?」」」」」
俺と、ゴルドー、エリア、ゼノン、ルルナ、カイの声が、綺麗にハモった。
「いや、なに、儂も長年この山に籠っておったが、あんたの武術を見て、まだまだ知らん世界があると思い知らされてのう」
ジンは、悪戯っぽく笑った。
「あんたの側で、その奇妙な武術をもっと見てみたい。それに、あんた達のような若者たちと旅をするのも、悪くない刺激になりそうじゃわい。まあ、足手まといになるようなら、いつでも置いていってくれて構わんからのう」
(……また、このパターンか……しかも、今度は爺さん……)
俺は、もはや眩暈すら覚えた。なぜ、こうも簡単に、俺の周りに人が集まってくるんだ? 俺は別に、仲間を集めているわけじゃないんだが。
「お、おい、爺さん! 姐さんの仲間になるってのか!?」ゴルドーが興奮気味に尋ねる。
「……あなたほどの達人が、なぜ……?」エリアが訝しげに問う。
「うむ……心強い仲間が増えるのは良いことだ」ゼノンが真面目に頷く。
「やったー! 仲間が増えた! ねぇねぇ、お爺さんの気の力って、どうなってるの? 研究させて!」ルルナが目を輝かせる。
「すげぇ! あの達人が仲間になるなんて! 色々教えてもらえそうだな!」カイが期待に胸を膨らませる。
……俺以外の全員が、乗り気らしい。
俺は、もう何度目か分からない、本日最大のため息をついた。
「…………好きにしろ」
俺の(諦めの)言葉に、ジンは「ほっほっ」と嬉しそうに笑った。
「恩に着るぞい、アステラルダ。これからは、爺の知恵袋が必要な時は、いつでも頼ってたもれ」
こうして、俺のパーティ(だから、認めていない)に、六人目の仲間、古流武術の達人ジンが加わった。
パワーのゴルドー、スピードのエリア、防御のゼノン、魔法のルルナ、剣術のカイ、そして技(?)のジン。……なんだか、本当に隙のない構成になってしまった。
俺の無自覚ハーレム(?)は、ついに年齢層まで拡大し、ますますカオスな様相を呈していく。
拳王都への道は、まだ遠い。そして、この騒がしい旅は、一体どこへ向かうのやら……。
俺は、先行きへの不安と、ほんの少しの期待を感じながら、再び歩き出した。
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