第18話:交わる拳と剣

「いくぜっ!」


 カイは、言葉と共に、疾風のような速さで踏み込んできた。

 その動きは、師範代とは比較にならないほど鋭く、そして予測不能な軌道を描く。


 刀が、陽光を反射しながら俺に迫る。

 横薙ぎかと思えば、瞬時に突きに変化し、突きかと思えば、手首を返して斬り上げてくる。

 まさに、奔放な我流剣術。


 (……面白い!)


 俺は、カイの変幻自在な剣戟を、ステップワークとボディワークで捌き続ける。

 剣のリーチは厄介だが、その分、懐に入り込む隙はあるはずだ。


 観客となった門下生たちや、俺の仲間たちも、息を呑んで俺たちの攻防を見守っている。

「姐さん、がんばれー!」ゴルドーが叫ぶ。

「……あの男、思ったよりやりますね」エリアが呟く。

「アステラルダ様の動きに、迷いはない」ゼノンが静かに言う。

「すごいすごい! あの剣士の動きも、アステラルダの反応も、データ取り甲斐がありそう!」ルルナは目を輝かせている。


 ……ギャラリー、うるさい。


 俺は、カイの剣戟の合間を縫って、反撃を試みる。

 左の蹴りで相手の体勢を崩し、距離を詰めようとする。

 だが、カイは体捌きも巧みで、なかなか懐に入らせてくれない。


「はっはっは! どうした、アステラルダ! さっきまでの威勢はどこいった!」


 カイは、楽しそうに笑いながら、さらに攻撃の速度を上げる。


 (……確かに、剣術相手の立ち回りは、まだ慣れが必要だな)


 だが、この程度で怯む俺ではない。

 俺は、あえてカイの攻撃を受け流すのではなく、腕でガードする(ブロッキング)。

 ガキン! ガキン! と、刀が俺の腕(幸い、軽装ながらプロテクターはつけている)に当たり、火花が散る。


「!?」


 カイは、俺が防御に転じたことに、一瞬戸惑ったようだった。


 俺はその隙を見逃さない。

 ガードした腕で、相手の刀の動きを強引に止め、同時に踏み込む!

 クリンチ(首相撲)の体勢へ!


「なっ……!?」


 至近距離での組み合いに、カイは明らかに動揺している。

 剣を持ったままの剣士にとって、この間合いは最も不利な状況の一つだ。


 俺は、首相撲から、強烈な膝蹴りをカイのボディへ叩き込む!


「ぐっ……!」


 カイは息を詰まらせ、体勢を崩す。


 俺はそのまま、相手のバランスを奪い、足を払ってテイクダウン!

 カイは、受け身も取れずに背中から道場の床へと叩きつけられた。


 俺は即座にマウントポジションを奪取。


「これで、終わりだ」


 俺は、左拳を振り上げた。寸止めするつもりだった。

 しかし、カイは、驚くべきことに、不敵な笑みを浮かべていた。


「……へへ、まいったな。こりゃあ、完敗だ」


 彼は、あっさりと敗北を認めた。その瞳には、悔しさよりも、むしろ清々しさのようなものが浮かんでいる。


「あんた、最高だよ、アステラルダ! あんたみたいな奴と戦ってみたかったんだ! この道場には弱ぇ奴しかいねぇからな!」


 その言葉に、俺は振り上げた拳を下ろした。

 こいつは、ただ強いだけじゃない。

 戦うことそのものを、心から楽しんでいる。そういうタイプの人間だ。


 俺は、カイの上から退き、手を差し伸べた。


「……立てるか?」


 カイは、少し驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうに笑い、俺の手を取って立ち上がった。


「ああ! ありがとうよ!」


 勝負は決した。俺の勝利だ。

 道場は、またしても静まり返っていたが、やがて、誰からともなく拍手が起こり、それは大きな喝采へと変わっていった。

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