第11話: 騎士の誓いと新たな仲間
「……なぜだ……?」
ゼノンは、まだ信じられないというように、自分の腕と俺の顔を交互に見ながら呟いた。
「私の『守り』は完璧なはずだった……。どんな攻撃も、この盾と鎧の前では無力だと……なのに、なぜ……あんな技で……」
「どんな鎧を装備しても、人間には関節がある。どんな盾にも、隙はある」
俺は淡々と答えた。
「力だけに頼らず、相手の構造と動きを見極め、最小限の力で最大限の効果を出す。それが、俺の戦い方だ」
俺の言葉を聞き、ゼノンは兜の中で、はっとしたような表情を浮かべた(ように見えた)。
彼は、ゆっくりと兜を脱いだ。
現れたのは、意外にも若い、二十代半ばほどの精悍な青年の顔だった。短く刈り込んだ金髪に、真面目そうな青い瞳。だが、その瞳には、深い苦悩と、失われた光のようなものが宿っていた。
「……最小限の力で、最大限の効果を……」
ゼノンは、俺の言葉を反芻するように呟く。
「私は……力を求めすぎたのかもしれない……。絶対的な防御という、幻想に囚われて……」
彼は、俺の前に進み出ると、騎士の礼を取り、深く頭を下げた。
「……参りました。完敗です。あなたの強さ……それは、私がかつて信じ、そして見失ってしまった『本物の強さ』に近いものかもしれん」
「…………?」
俺には、彼が何を言っているのか、よく分からなかった。
「私は、かつて神殿騎士として、女神アウローラに仕えていました」
ゼノンは、静かに語り始めた。
「だが、ある戦いで、私は仲間を守ることができなかった。私の『守り』は、強力な魔物の前には無力だった。信仰も、仲間も、全てを失い……私は、ただひたすらに、誰にも破られない『守り』だけを求め、己を鍛え続けてきたのです。それが、唯一の道だと信じて……」
その声には、深い後悔と絶望が滲んでいた。
「だが、あなたの戦いを見て、目が覚めた気がします」
ゼノンは、顔を上げ、真っ直ぐに俺の目を見つめた。その瞳には、新たな光が宿り始めていた。
「真の強さとは、ただ守ることではない。柔軟に、合理的に、状況に対応し、道を切り開く力……。あなたの体術は、それを体現しているように見えた」
そして、ゼノンは、再び深く頭を下げ、言った。
俺は嫌な予感を覚えた。
「……どうか、私をあなたの旅に加えていただけないだろうか? あなたの側で、その『本物の強さ』を学びたい。そして、今度こそ……大切なものを守れる騎士になりたいのです」
(…………またかよ)
俺は、天を仰ぎたくなった。ゴルドー、エリアに続いて、今度は元神殿騎士。なぜ、俺に負けた奴らは、こうも簡単についてきたがるんだ?
「姐さん! いいじゃないすか! こいつも強そうだし、仲間に入れてやりやしょう!」
ゴルドーが、なぜか嬉しそうに口を挟む。
「……まあ、盾役としては、役に立つかもしれませんね」
エリアも、珍しく肯定的な意見を(少し上から目線で)述べた。
「…………はぁ」
三度目の正直、というわけでもないだろうが、俺はもう、抵抗する気力も失せていた。
「……好きにしろ。ただし、俺は師匠でもなんでもないぞ。それに、俺の旅は、お前が考えているような、綺麗なものじゃないかもしれん」
俺の言葉に、ゼノンは顔を輝かせた。
「! ありがとうございます! このゼノン、アステラルダ様のため、この身命を賭して盾となりましょう!」
彼は、再び騎士の礼を取り、忠誠を誓うように言った。
こうして、俺のパーティ(俺は認めていないが)に、三人目の仲間、元神殿騎士のゼノンが加わった。
パワーのゴルドー、スピードのエリア、そして防御のゼノン。……なんだか、バランスだけは良くなってきた気がする。
だが、俺の頭痛の種は、確実に増えていた。
この先、一体どんな奴らが現れて、勝手についてくることになるのやら……。
聖都ルミナスの空の下、俺は、自分の無自覚なハーレムメーカーぶりに、ただただ、うんざりするしかなかった。
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