第29話
ラムザと一緒にいた兵士は食事を飲み込むように胃袋に流し込んでいく。
安心して食事する事すら出来なかったんだろう。
ラムザはみんなに食事の列を譲って配膳の手伝いをしていた。
そしてみんなに食事が配り終わった後にやっと自分の食事を始める。
聖人かよ。
ラムザの回復が終わると他の兵士の肩や頭に乗って回復させていく。
回復を受けた兵士はまるで温泉に浸かるように吐息を漏らす。
ラムザと北に行かなかった罪悪感が込み上げてきた。
でも、エリスを狙われる可能性があった。
俺の判断は間違っていないはずだ。
頑張ろう、今だけは。
俺は皆を回復させていく。
「邪神様の敵めええええええ」
遠くから老人の男。
その狂ったような叫び声が聞こえた。
その後ろからぞろぞろと人が歩いてくる。
後ろにはルナがいる。
黒いドレスを着ていた。
俺は素早くエリスの胸元に飛び込んだ。
兵士が立ち上がり剣を抜いた。
だが老人は叫び続ける。
「邪神教の誇りにかけて邪神様の生贄だけは何としても守るのだ!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」」
「死を恐れるな! 邪神様の為に死ねば永遠の快楽が与えられる! 邪神様の力を解き放て!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」
10人ほどの人間が前に出る。
老若男女でみな一貫性が無い姿だ。
10体の体、その1部が獣に変わる。
牛だったり鳥の足だったり部位も変化する動物もみな違う。
その異様な姿を見て兵士が動揺する。
普通に怖いよなあ。
こちらの兵士は150人ほど。
向こうはその3倍ほどの人数がいる。
兵士の顔が恐怖で歪んだ。
数の劣勢だけではない。
邪神教の狂気、その雰囲気に飲まれている。
「エリスだけは生きたまま捕らえよ! それ以外はすべて殺してもかまわん!」
「「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せえええええええええええええ!」」
「何度も言うがエリスだけは殺すな! 生きて捕らえよ! それ以外は殺せええ!」
「「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せえええええええええええええ!」」
ノワールが声を張り上げた。
「交渉をするのですわ!」
「黙れ! 邪神様の敵は皆滅ぼす! ただし、生き残った女は生贄にしてやってもいい!」
「話を聞くのですわ!」
「やかましい! 邪神様の敵があああ!」
これはダメだな。
説得は意味が無い。
男は全部殺して生き残った女は魔獣のシモベを産む家畜にする気だ。
「きゅきゅう! (攻撃開始だ!)」
「攻撃開始ですと言っています!」
「エリス! マイン! お願いしますわ!」
ここに来る前に作戦を考えていた。
最初にエリスとマインが前に出る。
「グラビティプレス!」
「ファイアボールボム!」
「「ぐああああああああああ!」」
邪神教が重力魔法で行動を縛られつつダメージを受ける。
「ば、バカな! エリスを前に出したのか! 殺せないと知って、何と卑怯な! 攻撃だ! 密集し過ぎるな!」
「マインもいるんだよお! ファイアボールマシンガン!」
散開し始めた邪神教に炎の玉の連続攻撃を放っていく。
密集すればグラビティブレスとファイアボールボムの攻撃を受ける。
散開すればファイアボールマシンガンで各個撃破される。
敵は散開と密集、どちらを選んでも攻撃を受ける状況に追い込まれた。
エリスを殺さずに手に入れようとした向こうのミスもあるが最初の勢いは削ぐことが出来た。
「やめ、ああああああ!」
「ぐはああああああああああ!」
「こっちにき、ああああああああ!」
邪神教が倒れていった。
さらに邪神教は指揮をミスした。
その状態で攻撃と散開を同時に指示した事だ。
混乱をした状況で2つの指示、これではさらにみんなが混乱する。
「敵の生死は問いませんわ! 突撃ですわ!」
「「うおおおおおおおおおおおお!」」
ラムザを先頭に兵士が突撃していく。
そしてエリスとマインの魔法攻撃で敵部隊は更に混乱した。
更にマインは敵に対して確実に息の根を止める攻撃を続けている為レベルが上がり魔法威力が増している。
「エリスの魔力が切れた! 今の内に囲んで捕らえるのだ!」
邪神教がエリスとマインを取り囲む。
好都合なんだよなあ。
「きゅうきゅう! (白き叡智なる手!)」
取り囲んだ邪神教の足を払って転倒させた。
後ろにいたプリムラがナイフで邪神教の息の根を止めていく。
「包囲して攻撃だ!」
ラムザが兵士に指示を出す。
「「うおおおおおおおおおおおおお!」」
兵士とラムザが転倒した敵に剣を突き立てる。
このままだと勝ち確定だけど、後ろにいるルナが気になる。
ゲームと同じアレをやられたくはない。
ルナが前に出る。
「恐れる事はありません。『黒き月の逆時計』」
戦闘をしている空間がドーム状の魔力に覆われた。
そして空が暗く染まり、銀色の満月が現れる。
満月に時計の針と数字が表れて秒針が高速で何度も逆回転した。
ドームで覆われた場所だけ時が巻き戻り、死すら無かった事になっていく。
時が両軍が対峙する前に戻っていく。
やられた。
黒き月の逆時計。
ルナの魔力を消費して時を戻す魔法だ。
範囲はドーム内限定。
そして時が戻る前の記憶をみんなが覚えている。
つまり、さっきの戦術が無かった事にされた!
時が両軍の対峙する前まで巻き戻った。
ルナの様子を見る限りもう一度黒き月の逆時計を使う魔力は残っていないだろう。
「はあ、はあ、はあ、撤退、しましょう」
ルナが息を乱しながら言うと指揮をしていた老人が叫ぶ。
「城まで走るのだ! ルナを抱えて走れ!」
邪神教が撤退していく。
「クエス、城攻めとなれば不利を強いられますわ。どう考えますの?」
「きゅきゅう(追撃だ)」
「追撃ですと言っています」
「ラムザ、先頭をお願いしますわ」
「皆で突撃だ!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」
ラムザと剣を持った兵士が城に向かって走る。
その後ろをパーティーで進む。
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