第22話

 夢を見ていた。

 少女の映像が見える。想いが流れ込んでくる。


 ルナ・レリーフ

 銀髪のセミロングヘア、赤い瞳の美乳だ。

 凄く、優しそうな顔をしている。


 ルナの想いが流れ込んでくる。


 私は早くに両親を亡くした。

 厳しい訓練を積んだ後孤児院で働いた。

 大変ではあるけれど、みんなを助けることが出来る実感を持てる仕事だ。


「うああああああああああああああああああああああ!」


 孤児院の子供が暴れる。

 きっかけはただの喧嘩、よくある事だ。


「大丈夫、落ち着きましょう」

「ルナお姉ちゃん、スープこぼした」

「少し待っていてね」


「ルナ! また僕いじめられた! いじめられたの!」

「ちょっと待っていてね」


 手が回らない。

 人が足りないのだ。

 3人だったお勤めは1人に減り、私は休み暇がない。


 目つきの鋭い女性が孤児院を訪ねてきた。

 私の上司だ。


「ルナ」

「うあああああああああああ!」

「ルナおねえちゃん、スープこぼしてるの」

「ルナああ! いじめられたの!」

「少し待っていてね」


「ルナ・レリーフ!」

「少々お待ちください」

「ルナ・レリーフ!! 呼ばれたら今すぐに私の前に立ちなさい!」


 上司の声で子供たちが泣き出す。


「子供が泣いてしまいます」

「呼ばれたらすぐ私の所に来なさい!」

「……はい」


 私は上司の前に立った。


「全く、子供の面倒すらまともに見られないなんて」

「申し訳ありません」


「部署の移動通知です。今すぐ荷物をまとめてここに来なさい。5分以内に」

「で、ですが子供の世話は?」

「子供の心配はしなくて結構よ。5分以内に荷物をまとめてここに集合!」

「は、はい」


 部屋に戻ると子供たちが私の服を掴む。


「ルナ、行っちゃうの?」

「ルナお姉ちゃん、行かないで」

「僕達、どうなるの?」

「大丈夫、きっといい人が来てくれるから」


 子供の頭を撫でる。

 そこに上司がやってきた。


「ルナ! ルナ・レリーフ! まだ準備が出来ていないの! 今すぐ準備をしなさい! 子供の事よりもお勤めを優先しなさい」


 子供達が私の影に隠れる。

 私の荷造りは遅れ、上司に怒られながら孤児院を出た。


 上司と共に雪の降る街を歩く。

 街には活気が無く、人通りは少ない。

 私が子供の頃、この街はもっと活気があった。


「あの、子供は」

「またその話ですか。心配ありません。代わりの者が面倒を見ます」


「それなら、良かったです」

「次の配属先も人を助ける仕事です」


 森に入り人目の付かない場所、

 古びた施設の前に立つ。

 中から悲鳴交じりの声が聞こえた。


「もう殺せええええええええええ!」

「何で掃除をしない! 床が汚れている! 汚れているううう!」


「あ、あの声は」

「余生を過ごす老人です。昔は要職に就いた地位の高い人達でした。全部で5棟あります。皆の世話をする仕事、人の役に立てる仕事です。あなたの希望どおりです」

「は、はい」


「慣れが必要ではありますが、頑張ってください」

「はい、頑張ります」


 施設に入ると4人の同僚が出迎えた。

 みんな女性で値踏みをするように私を見た。


「ふ~ん、ずいぶん若いねえ」

「あんた、名前は?」

「ルナ・レリーフです」

「ルナ・レリーフか。いい名前だ」


「ありがとうございます」

「短い名前で呼びやすい」

「え?」


「床が汚れている! 汚れているううう!」


 老人の叫び声が止まらない。


「早速仕事だ。掃除用具はここ、掃除は出来るね?」

「はい!」

「あのじじいは掃除をすると黙る」


「掃除をすればいいんですね」

「やってきな」

「はい」


 私は掃除を始めた。

 それが終わると老人の体を塗れたタオルで拭き、漏らした衣服の着替えと洗濯をして料理を作る。


 暖炉に薪をくべる。

 24時間火を消してはいけない。


 木を切って薪を割る。 

 来年の分を私が1人で揃える必要がある。


 買い出しにも行ってくる。

 冬は1人ソリを引いてたくさんの荷物を運び、街とここを往復する。


 特に雪が降る冬の洗濯が辛い、量が多く、川の水が冷たい。

 手の感覚が無くなる事が何度もあった。


 仕事はどんどん増えていく。


 眠る時間がほとんどない。

 隙間時間に仮眠を取ると建物に大声が鳴り響き目を覚ます。


 特に苦しいのが世話をするみんなの言葉だ。


『もう、いい、殺してくれ』


『私は後どのくらい持つのかねえ?』


『この無能がああ! 仕事位きっちりせんか!』


『隣の爺さんがうるさい、何とかしてくれ』


『こー、ひゅー、こー、ひゅー、体が痛い、寒い。殺して、くれ』


 中々眠れない中、その言葉を聞くと心がすり減っていく。



 ◇



「報告は以上です」


 一番の先輩である40代の女性に頭を下げる。

 介護を行う皆さんの状態を報告した。

 特に心を病んだみなさんの報告は丁寧に行った。


「うん、ご苦労さん。ついでに買い出しに行って来て」

「はい」


 寒い冬の森を超えて街で買い出しを終わらせ戻った。


「お帰り、自殺が出たから布に包んで荷台に乗せて置いて」

「……え?」


「報告にあった5人、全員自殺だ」

「……え?」

「自殺だ」


「で、ですが、ただ死にたいと言っているだけで、自殺をするとは思えない方も」

「自殺だ」

「し、しかし」

「自殺だ。はあ~、いいか、この施設は金がかかる。領主様からの命令だ。でも表の理由は自殺だ、本当は誰にも言うなと言われてる。言えば私もあんたも消される」


「そ、そんな」

「それと、ここで働く人員が2人減る」

「5人でも仕事の手が回りません、それなのに」


「だから自殺が5人、厄介な老人を殺して何とか回す。世の中理不尽だらけさ」

「……そ、そんなこと」

「仕事に戻りな、老人の服を着替えさせて洗うんだ」

「……」


「返事は?」

「は、い」


 私は人を助ける仕事がしたいと思っていた。

 人は助けている。

 でも、心はすり減っていく。



 季節が1回巡りまた冬がやってくるまでに、お世話をする人が徐々に減っていく。

 新しく入って来る以上に人が減っていく。


 そしてその世話をする人は私と、1番上の先輩、2人だけになっていた。

 先輩は国の仕事でいつも事務処理をしている。

 私がすべてのお世話をしていた。

 私の心がおかしくなっている。


 空を見上げると月が半分に欠けていた。

 まるで私の心のようだ。


 

 買い出しの為街に向かう。

 ソリを引いて町と森を往復するのは体力を使う。

 道中には弱いモンスターも出る。

 まるで修行のように感じられた。


 街に続く道に4人の男がいた。

 にやにやと笑いながら私を見つめる。


「へへへ、やっぱりいたか」

「な、上玉だろ?」


「お嬢さん、手伝ってやろうか?」

「……結構です」


 嫌な予感がして足を速めた。


「遠慮すんなって、体を温めてやるよ!」


 私は4人の男に囲まれた。


「は、離れてください!」

「おう、怖いねえ。やっぱり上玉だ!」

「へっへっへ、あの小屋でヤロうぜ」

「そ、そんな事は、ゆ、許されません!」

「どうせ抵抗できないんだ」


 私は顔を殴られ、脚を引きずられて小屋に連れ込まれた。

 衣服が破かれていく。

 そして男が覆いかぶさって来ようとしたその時。


 私はナイフを取り出して喉に突き立てていた。


「お、があごお、ぶう」


 人を、刺した。

 私が殺す?

 助け、もう助けられない。

 でも、殺さなければ私は犯される。


「あ、あああああああああ! あああああああああ!!」


 私は必死で抵抗した。



 気が付くと4人の男の死体があって、私はナイフに魔力を流して握り締めていた。

 体に返り血を浴びている。


 私は捕まった。

 そして、4人の人殺し以外に、施設の老人を殺した罪、孤児院の子供を売り飛ばした罪を着せられていた。

 私は牢屋に入れられて何日も水だけで過ごした。


 体が寒い。


 心が寒い。


 もう、


 このまま、


 消えてしまった方が、


 楽になれる。


 鉄格子の狭い窓を見つめると三日月が輝いている。

 まるで私の心のように欠けている。



 そこに1人の少年が現れて牢屋のカギを開けた。


「我……おほん、今まで酷い目に合って大変だったね」


 その少年の言葉に涙が流れる。

 少年は言葉を続ける。


「君は皆を助けてきた。でも誰も君の事は誰も助けてくれなかったね」

「……え、ええ、助けて、欲しかった」


「ルナ、君は僕が助けよう」

「私を、助けて、くれるの?」

「うん、でも、その為には儀式が必要なんだ」

「たすけて、ください、たずけげえ、くだざいいいいい!!」


 ルナがその少年に縋りついた。

 その少年は口角を釣り上げる。




「きゅきゅう! (ふお!)」


 俺は裸で眠るプリムラの上でビクンと覚醒した。

 プリムラがすやすやと眠っている。


 ルナ・レリーフ。

 さっきの夢はゲームじゃない。

 ゲームで見ていない光景や想いだった。

 ルナの記憶?


 ルナの記憶から察するに孤児院の子供は奴隷として売られた。

 介護の老人は皆殺された。

 場所は北の辺境、エリスの父が統治していた場所だ。

 映像にドルイドの城が見えた、間違いないだろう。

 ドルイドのクズ統治か。


 ルナは皆が嫌がる辛い仕事を押し付けられていた。

 そしてルナ以外そこまで仕事をしていないように見えた。

 そしてあの街でルナは邪神教に都合のいいように裁判で罪を着せられていた。


 ルナをの心をボロボロに傷つけ、


 そしてルナの前に邪神教が救いの手を差し伸べる。


 全部仕組まれていたんだ。


 そう思えた決め手は夢の最後に出てきた少年だ。

 あの姿はゲームに出てくる邪神テンタクルサタンだ。

 ルナを生贄にして力を取り戻そうとしている。


 そしてルナはエリスを助けた場合に出てくるキャラだ。

 エリスの代わり、そのボスキャラ。


 窓を見つめる。

 季節が流れて雪が降っている。


 夢を見た意味……

 ゲームでは絶対に救えないルナ。

 俺は、ルナを救えるかもしれない。

 

「きゅきゅう! (プリムラ、起きろ!)」

「う、うーん、昨日が激しすぎて、もう少しだけ」


「きゅきゅう! (緊急事態なんだ! 絶頂覚醒!)」

「ふぉ! はあああああああああああああああああああん!」


 プリムラが仰け反って覚醒した。

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