第147話 料理勉強会
「この材料と仕入れ先の情報が欲しいのね?」
「はい、そうです」
それさえ手に入るのなら他は些細なこと。
「分かったわ。すぐに手配させるわね」
「ありがとうございます」
もらったら何作ろうかなぁ。
前世であまり食べたことはないけど、日本のお米みたいにもっちりねっとりしてなくて、さっぱりした印象だった。
水分をしっかりと吸収するって聞いてるから、パエリアみたいな料理が向いてるんだろうね。
それなら、リゾットとか、しっかり味付けをした炊き込みご飯とかいけそう。それに、パエリアと同じように生米から作るピラフや、食感的に炒飯とかもそんなに気にならないかも?
「本当にそれだけでいいのかしら?」
「はい。十分です」
想像の世界に入り込んでうっかり返事をし忘れそうになったけど、咄嗟に答えた。
「もっと何かないかしら? できるだけ要望に応えるつもりだけど」
私としてはこれだけもらえればいいんだけど、マリーナさん的にはまだ足りないみたい。
領主としての立場を考えると、もっと見合った物を渡さないとダメなのかも。それならもっとわがままを言ってみよう。
「うーん……今日出た料理のレシピやこの辺りで食べられる料理のレシピを説明付きで教えてもらうことはできますか?」
私の料理スキルは、主に動画サイトとバンドールの宿や孤児院で覚えた程度。専門の人に教えてもらえるのなら言うことはない。
「そんなことでいいの?」
「はい。むしろ、いいんですか?」
ファンタジー世界でレシピは秘匿されるべきもののはず。
ダメで元々。結構無理難題をふっかけたつもりなのに、マリーナさんは物足りなさそうな顔をしている。
なんで?
「えぇ、構わないわ。レシピくらいでガタガタ言う料理人を雇った覚えはないもの。それぞれに使う食材も提供するわ」
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます」
そこには料理人対する絶大な信頼があった。
そこまで言ってくれるのなら、しっかりと学ばせてもらおう。
「分かったわ。それと、今日はウチに泊まっていってちょうだい」
「えっと……」
宿には好意で泊めさせてもらっている。このままここに泊まってもいいのか答えられない。
「宿には連絡を入れておくから大丈夫よ」
「分かりました。お世話になります」
困っていたら、マリーナさんが助け船を出してくれた。
話を通してくれるのなら私に否やはない。そのまま、ここでお世話になることになった。
ここは領主の家敷だけあって客室がとても豪華な造りになっている。
でも、各部屋に浴室はないので、大浴場でマリーナさんとその娘さんたちと一緒に入ることに。
塩水に浸かったので、アークを念入りに洗う。
でも、今日は私ではなく、メイドさんたちと娘さんたちがアークを洗ってくれた。
『ぐぬぬぬぬぬぬぬっ』
隅から隅までピッカピカに磨き上げられたアークもご満悦だったよ。
翌日。
「今日はよろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ。それでは一つずつ説明しながら作らせていただきますね」
「分かりました」
昨日お願いした通り、料理を教えてもらうことになった。
料理人はブルゾフさんという渋めのイケメンのおじさんだった。真っ白なシェフコートがよく似合っている。
「まずは野菜の下拵えから」
「はい」
──トントントントンッ
包丁さばきも手際の良さも私なんて足元にも及ばない。まるで芸術品を作る工程を数倍速で見せられているかのような速度だ。
本物の料理人の凄さをまざまざと見せつけられた。まだまだ修行が足りないね。
「これで一品めの完成です」
「凄い。これが匠の技なんですね」
「いえいえ、私もまだまだですよ。それではこちらをどうぞ。召し上がってください」
「いただきます」
私たちはブルゾフさんの料理に舌鼓を打つ。昨日も食べたけど、本当に美味しい。
それからブルゾフさんは、丁寧に技術を惜しみなく教えてくれたし、料理もたくさん作ってくれた。
「ま、まだ入るんですか!?」
「まだまだいけますね」
「お客様に満足してもらうのがモットーです。最後までお付き合いしましょう」
ただ、ここでも料理人と客の激しいバトルが開始。
『なかなかだな』
『ピィクルピィ!!』
「料理とはこれほど奥深いものなのですね」
「あなた方には負けましたよ」
結果としてブルゾフさんが白旗を上げることになった。
「食材はこちらに用意しているので、全てお待ちになってください」
「ありがとうございます」
大きな倉庫みたいな場所に案内されると、まるで山のような食材が用意されていた。
私はアイテムバッグに入れるフリをして、レインに亜空間倉庫に入れてもらう。
今回は食べられるだけ食べたけど、普段はここまで食べない。もらった食材があれば、ひと月はもつはず。
食費もバカにならないから助かる。
今日もそのまま領主館にお世話になった。
パエリアに使われていたお米は、マナビアの西の、農業大国ハーベストから輸入されたものらしい。
次の目的地はハーベストに決定。
途中にこの国三つめの独立都市があるので、ついでに寄るつもり。
「それでは、そろそろお暇させていただきます」
「分かったわ。改めて、街を救ってくれて本当にありがとう」
「いえ、どういたしまして」
次の日、私たちは領主館を出て、元々泊まっていた宿にお世話になることに。
それから数日間、冒険者ギルドの簡単な依頼をこなしながら、食べたことのない料理を食べたり、観光したりしながらのんびりと過ごた。
そして数日後、しっかりとヴェルナス堪能した私たちは、マナビア最後の独立都市目指して旅立った。
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