第113話 不穏な気配
化粧台の前でカリヤさんとエリアが私の顔を見ながら二人で唸っている。
「うーん、これなら……大丈夫でしょうか」
「そうですわね、許容範囲だと思いますわ」
やっと完成したみたい。
「もういいの?」
「えぇ、構いませんわ」
その上で自分の顔をマジマジ見る。
最初にした化粧よりもかなり控えめで、大分すっぴんに近いのかな。それでも、普段の私とは少し違ってより可愛く見える。
私は前世や今世の関係で、自分が周りと同じ普通の女の子だという自己認識が少し薄い。
普通の女の子は身だしなみを整えたり、オシャレしたりするのが当たり前だと思うけど、私にはそういう習慣や発想がなかった。
まぁ、この体は無駄毛も生えないし、太りもしないので、する必要もなかったんだけど。
でも、こうやってお化粧をやってもらって分かったけど、きちんと整えることで、気分が上がる。
公私のメリハリをつけるという意味でお化粧はいいのかもしれない。しっかりしたお化粧はダメでも、今みたいな軽いやり方は教わろうと思う。
『我はどちらでも変わらんと思うがな』
せっかく人が良い気分になっているのに、アークが水を差してきた。
『全く、アークは女心ってものが分からないんだから』
『ピピーッ』
呆れていると、エアが可愛いと褒めてくれたので、抱きあげて頬擦りする。
『エアはちゃんと分かってるね、偉いねぇ』
『ピピピ』
『ふんっ、我は災厄。人間の美醜など知ったことではないわ』
アークはそっぽを向いて不貞腐れてしまった。
「うーん、これはダメかもしれませんわね」
「ちょっと怪しいですね」
「仕方ありません。他の人が使い物にならなくなったら、本人に頑張ってもらいましょう」
「そうですね」
二人が難しい顔をして私をジッと見ている。
「どうかした?」
「いえ、なんでもありませんわ」
エリアが澄ました顔で首を横に振る。
「お嬢様、朝食の準備ができましたよ」
「分かりましたわ。行きましょうか」
「そうだね」
怪しいので追求しようと思ったけど、人が呼びにきたので、テントの外に出た。
まだ日の出前だけど、山際が白んできていて結構明るくなっている。
皆が集まっている場所に近づくと、なんだか昨日よりも騒がしい。
「あの子、昨日よりヤバくないか?」
「マジ可愛いな」
「ぽー……」
「あんた、何見惚れてんのよ!!」
「いたたたっ!?」
「まぁ、気持ちは分からなくもないけど」
なんか皆に見られている気がするけど、もしかしてお化粧のせい? ほんのちょっとやってもらっただけだし、気のせいだよね?
「お嬢様、おはようございます」
「おはようございますわ」
「アイリスさんもおは――」
ヒイロさんが私たちの所にやってきて、エリアに挨拶した後、私の方を向いたところで固まった。
「おはようございます。ヒイロさん、どうかしましたか?」
「……いや、昨日とは全然違うので驚いたよ。何かしたのかな?」
「はい。エリアに初めてお化粧してもらったんです」
「それはそれは……まるで妖精のように綺麗だよ」
「そうですか? ありがとうございます」
ヒイロさんがハッとした後、すぐにイケメンスマイルで私を褒める。
おおっ、さすがイケメン。ちゃんと相手の変化を見つけて褒めることができる。これがイケメンたる所以なのか。
なんだか感心してしまった。
それと、今までそういう機会がなかったから分からなかったけど、容姿を褒められて悪い気はしない。
もちろん誰かに見せるためにやってるわけじゃないだろうけど、オシャレやお化粧をしている女の子たちの気持ちが少し分かった気がする。
「それでは、お嬢様方はこちらへ」
ヒイロさんに案内されてテーブルに着席。
私たちは手早く朝食を済ませた。ただ、その間もずっと視線を感じていて、少し居心地が悪かった。
「それでは出発します」
急いでテントの後片付けをして、日が昇ったところで、商隊はマナビアへの旅を再開。私は昨日と同じように、アークに乗ってエリアの馬車の横を並走している。
「ここしばらく、森がいつもとは少し様子が違うようです。何か起こっているかもしれません。くれぐれもお気をつけください」
「そうなんですのね。ご忠告痛み入りますわ」
要塞の門を潜り抜ける際に、門番から警告を受けた。
もしかしたら、アークが近づいてきたことで怯えてるのかも。モンスターが襲ってこなかったら、通り抜けるのが楽になっていいんだけど。
でも、門の向こう側には鬱蒼とした森が広がっていて、一歩森の中に足を踏み入れると、その予想が外れていると確信した。
「これは……本当にいつもとは様子が全然違いますわね。普段はもっと賑やかだったはず」
「確かに。生物の気配を全然感じない。なんだか森が静まり返ってるね」
私たちはお互いに異常であることを共有する。
森にしてはあまりに静かすぎて不穏な気配が漂っていた。
「エリア、馬車から出ちゃダメだよ」
「アイリスさんも気をつけてくださいまし」
「分かってる」
私は気を引き締める。
護衛の冒険者たちもその気配を感じ取り、私たちは警戒しながら森の中を進んでいった。
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