2話
王子は、王子のおじいさんとおばあさんである国王と妃から愛され、それは美しい少年に育ちました。
頭も良く、剣の腕も優れており、国の民からも慕われていました。
人々は、口々にささやきます。
「将来、王子はさぞ立派な国王になるだろう。この国も末永く安泰だ。
前の王子は、不幸にも病気で亡くなり、王妃まで後を追うように亡くなってしまったが、それだけに、この御子の将来が楽しみだな。」
城下の人びとも、城の中の者たちも、そう思わないものはいません。
ただひとりだけ、それをよく思わない者がいました。
国王の弟である、この国の大臣でした。
この男は、いつも兄の出世が、面白くありません。
いつでも疑いの眼差しで、国王一家を見ていました。
(第一、あの王子の父は、王子が生まれる少し前に、あやしげな女に暗殺されたというではないか。
しかもそれは、人魚だといううわさもあるのだ。
そのようないかがわしい噂のある父を持つ王子など、次の国王にふさわしいものか?)
「事件」を目撃した者たちは、王から厳しく言いつけられていたので、確かに口外はしませんでした。
しかし、どこからか、何らかの隙をついて漏れた話は、曲がって解釈され、妙な噂として、ひそかに城内、また城下の一部まで伝わっていたのでした。
大臣が、それを聞き逃すはずはありません。
(その証拠に、この国では城内の者は、魚を忌み嫌って食べないではないか。
城でおこなわれる宴に魚が出てきたことも、ない。
わが国に、人魚の伝説くらい大昔からあるが、ここまでするのは、やはり後ろめたい過去があるからに違いないのだ。ならば、なんとかして、悪いうわさをたててやりたいものだ。…)
大臣の言うとおり、この国ではいつからか、高貴な人は魚の肉を食べない、という奇習が生まれていました。
あの事件を嫌がる王の気持ちは、いつのまにかそんな風習をも生み出していたのです。
大臣にも、王子とおなじくらいの年になる息子がいました。
大臣の息子は、王子とそう年も違わない一人息子で、幼いころから、王子の遊び相手として、王子のそばに置かれました。
大臣は、我が息子を引き寄せて言います。
「なあ、息子よ。そうは思わないか?王家には、なにか隠していることがあるのだよ。このまま、あの王子が国王になったら、この国はどうなると思う。
いくら、王子のできがよくても、とても王の器ではないに決まっている。」
さらに大臣は、誇らしく息子の顔を見つめて言い聞かせます。
「それにくらべて、お前はどうだ。お前なら、王の弟であるおれの息子なのだから血筋は申し分ない。しかも学業の成績も、王子と引けをとらないくらい優れている。お前なら、次の王の候補になっても、おかしくないのだぞ。」
大臣の子は、小さな頃からそう言われて育ちましたので、やはり王子を気持ち良く思いません。父と同じく、ねたみと疑いの目で王子をみる癖がついていました。
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