第35話 職業ペテン師

ノワール爺さんと領主の館の前へとたどり着き、後ろを振り返ると街全体が一望できる場所となっている。


偉い人はこうやって下々の生活を見下ろしているのか何て僕が思っている時に、ノワールさんは門番に話掛け始めていた。


その時、ノワール爺さんは僕と話をしているときは全くといって違う威圧を放つ様子だ。


「この街は冒険者の募集をしとらんか」


だが口調自体は穏やかなもの。だけど、一言でも返答を間違えれば魔法で八つ裂きにされそうな気配が、話をしていない僕にも感じられ足から少し力が抜けた。


「えっあっ募集は出ておりませんが、近々、募集をかけるかもしれません」


ギスの門番。僕らが領主の館へと近づいた時こそは、あちらが威圧的に睨みを聞かせていたが、ノワール爺さんが喋りかけた途端に目つきから鋭さは消え、敬語を使って喋る始末。


ダサい奴め。と僕もノワール爺さんの威光を借りて、胸を張って堂々としておく。


「ちょっと聞いてきてくれぬか?ワーラットで困っているという事を聞いて足を運んだからの」


「分かりました、あのお名前は」


「ノワール。黒衣のノワールと呼ばれておるわ」


「僕はノ―――」


「黒衣の!?分かりました、すぐに話を通してきます!」


ギスの門番は僕の名前を最後まで聞いていたのかな?というぐらいに、黒衣というワードで何かに気が付いてか急ぎ早に中へと行ってしまった。


僕は黒衣のってワードで何か知らないかな?とナレーターへと問いかける。


~知識判定失敗~


自動失敗って事はそれほど有名じゃないけど、巷で有名ぐらいな感じ?知る人ぞ知るみたいな?


まぁ知らないなら直接本人に聞けばいい。


「ノワールさんって黒衣のノワールって呼ばれてるんですね」


「まぁの。誰が呼び始めたしらんが、いつの間にかそう呼ばれる様になってしもうたわ。まぁこんな感じで話を通しやすい時もあるから楽ではある」


そんな雑談をしている時は、先ほどの雰囲気を鳴りを潜めているが、僕のノワールを見る目は少し変わった。やはりこの人はそれなりの実力者なのだと、はっきりと感じてしまったからだった。


しばらくすると、ギスの門番は一人の兵士を連れてくる。兜に毛を生やした、昨日門で出会った人だ。多分。


多分としか答える事が出来ない理由は、顔の区別が付かないのだから、特徴的な兜だけを目印にしているだけ。他の人があれを被ってたり、似たような物を被っている別人という可能性もある。だから多分。


「貴殿が黒衣のノワール殿か」


「いかにもじゃ」


まぁ僕が多分なのだから、向こうも僕には興味がないわけで話はノワール爺さんとされていく。


「噂はかねがね聞いておりますぞ。魔物討伐のプロという者もいれば、厄災の前触れという者もいる」


「ふぉふぉふぉ粋な事をいうやつもおるもんじゃ」


・・・おー、ノワール爺さんが嗅覚を利かせて、先手を打って動く事で悪く言うやつもいるのか。多分、同業他社のノワール爺さんに報酬を持って行かれた冒険者だろうなきっと。


「ふん、なるほどな。このタイミングで訪れたとなれば噂通りという事、なら腕も確かという事か。今の我らには貴殿の力が必要だな」


「そう思ってきた・・・が、ワシも冒険者じゃタダでは動かん」


「それは勿論だろう。おっと申し遅れた、私は領主の臣下のヤラバルキと申す。報酬については主君と相談後になる、改めて明日来て頂く事は出来ますかな」


「うむ。じゃがわしらは二人じゃからの報酬はそれ相応にの」


そしてここで、ノワール爺さんは僕へと目配せをした。


「お前は・・・昨日、街にきたハーフエルフだな。失礼ながら、ノワール殿とはどういう関係か」


あっやっぱり昨日のやつであってたか。そしてノワールさんの知り合い的なポジションに格上げされた僕に対して、ちょっと敬意を持たれたような口調へと変わった事に気が付く。


だけど関係も何もない。宿屋が一緒だったてことで、おまけ程度な物だ。


だが、もしここで何かしら優位な事を言えたら僕の報酬も上がったりするのではないかと思った。そしたら黄金姫さんと更にお近づきになれるかも!お願いナレーターさん!



頭の中でダイスが転がる。コロコロコロコロ・・・・16


~ペテン師判定成功。ノワールさんとはお酒を飲む仲ですよ。それにノワールさんは言わずとしれた、魔法を自在に操るウィザード。その魔法に長ける黒衣のノワールも、僕の魔法を羨み、妬む事もあるとだけ教えておきましょう~



なんだ?いつもと違って、口調が僕のような会話っぽい感じだ。まさか今のを喋れと言ってる感じ?


よく分からないが、やってみたらいい感じかな。そう思うと時は動き出す。そして口を開けば先ほどの判定結果が覚えてもいないのにスラスラと言葉になっていく。


「ノワールさんとはお酒を飲む仲ですよ。それにノワールさんは言わずとしれた、魔法を自在に操るウィザード。その魔法に長ける黒衣のノワールも、僕の魔法を羨み、妬む事もあるとだけ教えておきましょう」


ちょっと演技っぽくやってみた。


「ノワール殿がお前を羨む?それは本当ですかノワール殿」


「・・・まぁそういう事もあるわな」


「ふむ、それに酒を酌み交わす仲か・・・よかろう。貴殿もノワール殿と同じく、領主へと進言しよう」


おぉすげーー!ペテン師すげー!ナレーターさんすげー!


「はい、よろしくお伝えください」


そんな気持ちを抑えて、最後までやりきった。


「ではまた明日の昼に、また来て頂けますかな」


そして約束を取り付ける事が出来た僕らは、ヤラバルキに見送られながら領主の館がある丘を下って行った。




館が離れると、ノワール爺さんは口を開く。


「上手くやったの」


「まぁ嘘はついてませんね」


「じゃからワシも返答に困ったわい」


「でも、ノワールさんが肯定してくれたので信じて貰えましたよ。ありがとうございます」


「まぁ大見得をきったんじゃ、ちょっとは使える所を見せて貰うかの」


「まぁ僕はソーサラーですけど、剣で戦いますけどね」


「はぁ?お主はあほうか?」


「そうなんでしょうね。自分でもそう思いますよ」


「またこれもソーサラーの自虐と見せかけてというやつか?よう分からんわい」


そして宿へと帰りながら、お互いの魔法を喋りつつ帰宅をした。そしてまた宿屋で延々とノワールさんの話は続き、それは夕食を食べて、女将さんが蝋燭が勿体ないからさっさと寝ろというお叱りを受けるまで続いたのだった。

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